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一晩眠ると、禎理の身体はすっかり良くなった。
「今日は、御飯食べるね」
そして目を覚ますと、やはり横には風神を名乗る少年が――今日は目を覚ましていた――いた。いつの間にか仲良くなったのか(多分風神が食物をあげたからだろう)、模糊が風神の指にじゃれついている。
「模糊も、お腹空いたって」
禎理自身も、今日はお腹が空いている。禎理はゆっくりとベッドから滑り降り、側に置いてあったチュニックを頭から被った。
チュニックに袖を通してからやっと、その服が、六角公が禎理に着せてくれた上衣であることに気付く。六角公から手渡された短剣も、ベッド側の棚の上に置いてある。返さないといけない。でも、逃げた吸血鬼のことが気になる。
「禎理、下行かないの?」
風神の声に、はっと我に帰る。少し気が引けるが、服と短剣の件はエミリプの一人、気の良い九七一に頼んでみよう。禎理は一人納得すると、階段室に足を運んだ。その後ろを、風神がぴったりとくっついてくる。
「今度こそ、逃げられたら困るからね」
禎理の後ろで、風神が嘯く。
「だって禎理すぐ逃げちゃうから」
風神の言葉が、痛い。でも、恐怖にかられて『逃げて』しまっているのは事実だ。自分が、こんなに情けない奴だとは思わなかった。禎理は思わず下を向いた。
「あ」
悄気る禎理の服を、不意に風神が強く引く。
「珮理のお見舞いも行こ」
その言葉と共に、いつの間にか、禎理の身体は階段室から主寝室へ、そして珮理が眠るベッドの横に立って、いた。
「あまり邪魔しないでよ」
きつめの百七の声を背後に聞きながら、ベッドに横たわる珮理の顔をそっと見る。顔色は悪いが、寝息は規則正しい。眠っているだけのようだ。良かった。禎理はほっと胸を撫で下ろした。それでも。……唇が疼くのは、何故だろうか?
「うん、問題ないね」
禎理の横でそう呟いた風神が、再び禎理の服を引っ張る。少し躊躇いつつ、禎理は珮理のベッドから離れた。




