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鳥の鳴く声で、目覚める。吸血鬼に初めて襲われた後に目を覚ました時と同じ天井が、禎理を出迎えた。
〈戻って、きたんだ……〉
おそらく数か、数の部下であるエミリプ隊の誰かが、禎理をここまで運んでくれたのだろう。
そっと、首筋に手を当てる。僅かな疼きが、禎理にこれまでのことが夢でないことを教えた。……珮理に噛まれた、唇の疼きも。とりあえず、喉が渇いている。水を飲もうと、禎理は側の水差しに手を伸ばし、そしてぎょっとして手を止めた。
禎理の側に、禎理と同じ顔をした少年が眠っている。これは、誰だ? 何故自分が眠っている? 驚きの閾値を超え、禎理は呆然と眠っている少年を見下ろした。どのくらい、そうしていただろうか?
「あ、起きてる」
眠っていた少年が、目を開く。そして少年はそそくさとベッドの上に上半身を起こすと、呆然としすぎて声が出ない禎理の手を取り、にこっと笑った。
「僕の名は、風神。よろしく」
風神……? 名乗られた名前に再び呆然とする。『この世界』に『風神』はいない。天地創造時に現れた古い三神の一柱であったが、天地創造に続く一連の悲劇の中で身を隠したと伝えられている。その神――この少年の言葉を信じるなら――が、何故、禎理の目の前に? 禎理の頭脳は混乱を極めた。
「どうしたの?」
そんな禎理の混乱を知ってか知らずか、風神はのんきな声を出した。
「お腹が空き過ぎて力が出ない?」
風神のその言葉に、脱力する。ともかく、多分この家の何処かにいる数に尋ねてみるのが一番早いだろう。禎理は一人納得すると、ベッド側にある棚の上の水差しを取り、水をごくんと飲んだ。本音を言えば、もう少し眠っていたかったのだ。吸血鬼のこと、六角公とのやり取り、珮理とのこと。色々なことが、有り過ぎた。もう少し眠っていても良いのであれば、今は、眠りたい。風神を無視して、禎理はごそごそと布団に潜り込んだ。
「……疲れて、いるんだね」
横になった禎理の髪を風神が撫でる。
「眠って。明日からまた大変だから」
風神の撫で方も、母の撫で方と、珮理の撫で方と、似ている。落ち着いた気持ちが、禎理を深い眠りへと引き込んだ。




