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「頼む……ティート」


 自分の状況を理解していない幼子の言葉を聞いた神は、この少女の心を守る為に下天すると言い切った天使に、行く末を見るように頼んだ。

 このまま王家や教会で囲い込んだとして、界の浄化に関しては問題ないだろうが浄化装置と言う名の生贄となった少女の幸福にはつながらないと言うティートの言葉が身に沁みたのだ。


「任せて下さい、神様。俺がミーナちゃんを守ります!」


 もう戻れない事を分かっていない幼子に添い守るのだと言う決意のもと神に宣言したティートだが、その頬は滂沱の涙にまみれており、あまり頼りになる風には見えなかった。

 ティートが天使の中でも屈指の実力と比類なき涙もろさで名を成していることを知っているものでなければ、とても任せる気にはならなかっただろうが、神は彼の事をよく承知していたので重々しく頷いた。


「おにーちゃんが みーちゃんのことまもってくれるの?」

「そうだぞ!にーちゃんがミーナちゃんを守るからな!」


 ぐちゃぐちゃなティートの顔を見ても特に気にせず、守ってくれると言う言葉を嬉しそうにミーナは確認する。お姫様に夢は無くとも、母を全てから守るのだと言う父の言葉を聞きながら育ったミーナは、誰かから守ると言われる事には憧れていたのだ。

 幼いと言えども女である。


 ティートはミーナを抱き上げると神に向かって一礼した。


「いろいろ言っちゃいましたけど、俺、神様のお役目は分かってますから。界を守る為になさったことだって知ってます。大きな救い手から零れた小さな者たちを守ることが俺の――天使の役目なんで、神様はどーんと構えて世界を守って下さい。神様は俺たちの自慢ですから」


 それじゃ――と手を振って、ティートはあっさりと下界へと転移した。「泣き虫ティートに泣かされた」と潤む目の神を見ないまま。



 ◇◇◇


「おうちにかえるぅー。ぱぱーままー」


 ティートに連れられて人界に降り、彼が用意した家に始めははしゃいでいたミーナも夜の帳が降りてくるころには両親のいる家に帰りたいと泣き始めた。


 無理も無い事だ。

 自分が元の世界で死んだと聞かされても、それを理解するだけの知識や経験がない幼子なのだから、暗くなれば家に帰り家族と共に過ごす事に何の疑いも持っていなかったのだから。


 ひくひくとしゃくりあげながら父と母を呼んでは泣くミーナを抱きしめたティートは、困ってはいたが慌ててはいない。小さな子供が親から引き離されれば当然こうなるという事を、人界で迷える人々を救うべく東奔西走している天使は、人間の事をよくみていたので知っている。


「ミーナはパパとママが大好きなんだな」


 泣きながらも頷くミーナの背をポンポンと宥めるように叩く。


「パパとママもミーナの事が大好きなんだろうな。でもな、にーちゃんもミーナが大好きだぞ。パパやママと同じくらいにミーナを大事にして守るからな。いつか、ミーナがにーちゃん大好きになってくれるように頑張るからな」


「みーちゃん、おにーちゃん……すき」


「はははっありがと、ミーナ。にーちゃんもミーナが大好きだぞー」


 ティートがぎゅっとミーナを抱きしめてその小さな頭に頬ずりすれば、ミーナは泣きながらも擽ったいのか身を捩り笑みをこぼした。

 そのままぐずるミーナをあやし、宥めて寝かしつける。


「夕飯、早めにしておいて良かった」


 こんな事になるだろうと、夕方には食事をさせたティートは寝落ちしてしまったミーナをベッドに運んで、シーツをかけてやった上から優しく小さな肩を撫でているうちに彼女の境遇を思って目を潤ませた。


 この小さな子を幸せにするためには、天界一の泣き虫の名を返上すると固く誓ったのだが、誰の目も無い所なら泣いてもいいだろうと自分に言い訳し、声を押し殺して涙を流すその姿を「もしかしたら神様が見ているかもしれない」と思いもしたが、こちらからは見えないので無いものとして考えることにした。


 ティートがミーナを連れてやってきたこの家は、瘴気の発生源からほど近い町である。


 まだ瘴気の影響は人間には及んでいない筈なのだが、勘の良い者は本能的に危険を察知するのか、人が流出し始めていた。そのおかげで空き家もすぐに借りることが出来た。


 なにも瘴気の近場を選ばずともこの界に居るだけで良いと神は言っていたが、浄化が早く進むに越したことはない。根源を浄化することが出来るならば、それが最も早い決着を見られることだろう。


「ミーナのように連れて来られる人間を増やしたくない。浄化をお前さん任せにして申し訳ないけど、俺が絶対に守るから」





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