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天の踊り子  作者: 天野秀作
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ウズメとサルタ 其の⑧

「よく聞くがいい。我らはさっきお前がウズメに申したような物の怪の類などでは決してない」

「物の怪ではないと? では一体、(うぬ)()は何者か?」

「ウズメがこの高天では天津神あまつかみと呼ばれているように、我らは出雲の地では、川を守る者、いわば水の守護神である」

「我と同じ国津神くにつかみだと申すか?」

「いかにも。お前たちが力づくで奪いし地上の、一柱である」

「一柱って八人いるじゃん」

「大河には上流、中流、下流とあり、それが幾つもの支流に枝分かれするように、我ら川の神とて同じこと」

「それはわかった。してそのオシホ殿と交わした約束とは?」

「かつて、スサノオと言う荒ぶる神が我が地にやって来た。そいつは高天原で散々狼藉をはたらいた挙句、高天原を追放になった。お前らもよく知っておろう?」

「うん、ウズメ知ってるよ。あんたたちが出雲でアシナヅチとテナヅチの八人いた娘を七人も食べちゃったんだよね? それで最後に残った八人目の櫛名田比売クシナダヒメを守るスサちゃんに退治されたってお話よね……あんたたちは泥酔した後切り刻まれて尾っぽから草薙剣クサナギノツルギが出たって言う話よね? あれ、ちょっと待って、あんたら生きてるじゃん。目の前にさ。黄泉の国へ行ってないじゃん。なんで?」

「あれは作り話だ。筋書き通りのな」

「筋書き通り? その筋書きは誰が書いたの?」

「それは……」

「ならん、言うてはいかんぞ」

 サルタが大声で怒鳴る。

「おだまり! サルタ。さあロク、お話しなさい」

 ウズメの瞳が紅色に染まり、口調が変わった。二人の身に着けている翡翠がきらりと光る。呪術師としての桁外れた力を持つウズメの片りんが垣間見えた瞬間だった。サルタは口を開こうとしたが、その唇はまるで縫われたようにピクリとも動かない。


――オモイカネ。オモイカネの策略である。


「オモイカネちゃん? なんでそんなこと?」

「スサノオの悪名は出雲の地にまで及んでおった。高天原で悪行の限りを尽くして追放になったことも、母であるイザナミのいる黄泉の国を目指しているらしいと言う噂もな。黄泉の国への入り口は出雲にある。黄泉比良坂ヨモツヒラサカと言う名前ぐらいは知っておろう?」

「もちろん知ってるよ」

「出雲の民はスサノオが来ることを恐れた。誰一人としてスサノオを歓迎する者はおらんかった。スサノオは天津神を統べるアマテラスの弟神である。その弟神があちこちで悪行を働いたのでは天津神やひいては造化三神の創りし高天原そのものの権威が失墜してしまう。そこで高天原の神たちは一計を案じたわけだ」

「つまり、汚名返上して人気アップしようとしたわけね?」

「その通りだ。しかしスサノオを出雲に降ろすためにはそれでは困る。民の敵と成るべく存在が必要だった。その白羽の矢の立ったのが、出雲の肥河ひのかわを収める龍神、我ら八俣遠呂智ヤマタノオロチ一族である。オモイカネの書いた話では我らは高志(こし・越し=北陸から東北までの日本海側地方)より毎年出雲を荒らしにやって来ることになっておるが、そんなことはない。逆に水田を作る民に恵みの水を与え、農耕に必要な器具を作るためにたたら技術を伝えた存在なのだ」

「もしあんたの言うことが正しいなら本当はいい奴じゃない。とんだ濡れ衣を着せられたわけね。で約束ってことは何か密約があったってことよね?」

「そうだ。オモイカネは我らにこう言った」

 

――もしお前たちが天津神に逆らうのならば、お前たちは永遠に出雲の地から追放されることになろう。だがもし言う通りにするのならば、お前たちを出雲の守護神として未来永劫の安寧を誓おう――。


「ところがどうだ。いつのまにかスサノオの七代子孫である大国主神オオクニヌシノカミと高天原は密約を交わして出雲の守護神にしてしまったではないか」

「ああ、それって国譲りの話よね?」


 ※はいここで稗田阿礼ワンポイント解説をば。

 ――国譲り。「譲り」などと言っておりますが、簡単に言いますと侵攻、侵略ですな。

 大いに繁栄している地上(葦原の中つ国)の様子を見たアマテラス様が、「ナニあたしの目の届かないとこで勝手に栄えちゃってるのよ! くやしい! あそこ欲しいわ」と、いつものように駄々をこねられたわけです。

 それで何とか自分の物にできないかと考えた挙句、「オオクニヌシの統治している国は元々弟であるスサノオが作った国だよねえ。だから天津神、つまり高天原の神々のものであるわよね!」といつもながら強引な理屈を付けましてな、使者を送り、何度か平和的交渉を試みましたが、すべて失敗して、最後は剣の武神である建御雷之男神タケミカヅチノオノカミとアメノトリフネを送り込んで力づくに手に入れたわけでございます。

 その時にオオクニヌシが高天原に出した条件が、出雲に立派な社を建てて未来永劫安泰に出雲国の代理統治権を与えてほしいと言うことでございました。

 まあそれぐらいで出雲国が手に入るならばとアマテラス様はその条件を飲んだわけでございます。いかがですか? 立派な武力侵略でございましょう? このように書きましたところその部分は見事に没にされてしまいました。では続きをどうぞ。



「そうだ、しかも真実は闇の中に葬り去り、ただ我ら一族が出雲の大敵であり、それをスサノオが討伐したことだけが残されたのだ」

「酷いわね」

「おまえら天津神はいつだってそうだ。力ずくで弱者を蹂躙して行く。我らが一体何をしたと言うのか?」


                         続く




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