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天の踊り子  作者: 天野秀作
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ウズメとサルタ 其の⑦

「もう、みんなマジメすぎてウズメつまんない……」

 ウズメはその場にしゃがみこんで敷かれた玉砂利をイジイジし出した。オモイカネがちらりとウズメを見遣る。やはり乳はでかかった。しかしここで甘い顔をして構うと絶対ウズメは図に乗る。それは内心皆が思っていた。あくまでガン無視を続ける一同であった。

「し、して、オモイカネ様、何か火急の用で参られたのでは?」

「おお、そうであった。オシホ、よくぞ申してくれた」

「この者共と何か関係が?」

 オシホはオロチの者達を指さして言う。

「うむ。それも多少はあるが、今はアマテラス様がお呼びじゃ。至急、紫宮へと参られよ」

「オモイカネちゃん、それ、ダジャレ?」

 誰にも相手にされずにいじけてしゃがみこんでいたウズメが顔を上げて言う。

 しかしそれとて二人は応えない。サルタだけがポンとウズメの肩に手を載せた。

 ウズメはサルタをキッと睨んだ。するとオモイカネはサルタとウズメの方を向き直り、申し訳なさそうに言う。

「ウズメ、すまんがサルタといっしょにこの者共の見張りを頼む。我はオシホと共にアマテラス様の下へ行かねばならぬ」

「わかったよ。そんな顔しないで、ウズメなら大丈夫。ね、サルタ」

「御意に」

 サルタは頷きながら答えた。

  

   

   4

 ――地下牢にて

「こんなとこに牢屋があるなんて、あたし知らなかったよ」

「高間の施設で牢があるのはここだけらしい。その昔、スサノオ様がお暴れになられた時に、その後のことを考えて作られたらしいが、もっとも、ここで何か悪事を働く奴がいるとは考えにくいがな……」

「そうなんだ。やっぱりスサちゃんか。でもこうして役に立ってるわ」

「うむ」

 二人の視線の先には堅固な木牢に閉じ込められた八体のオロチたちがいる。先ほどの勢いはなく、黄金に光る眼の輝きも、幾分くすんでいるように見えた。

 ただウズメの真ん前にいる一体の、その物悲しい唸り声だけが低く耳に届いている。それは何か言葉のようにも聞こえるが、猿ぐつわでせいでただ低く高く唸っているようにしか聞こえない。

「ねえ、何か言いたいみたいよ。この子たち……」

「子、言うな。こ奴ら、これでも物の怪だぞ。先ほどの殺気を忘れたのか? お前は何でもかんでも『ちゃん』だとか『子』だとか言う。まったく」

「だって、よく見たらかわいい顔してるじゃない。あたしヘビ好きよ。そうだサルタ、うちで一匹飼おう? ね、オロチちゃん。

「はぁ?」

「君の名前はロチちゃんにしよう。んーでも言いにくいからロっちゃん、ううん、ロクちゃんでいいや」

「変な名前付けんな、ペットじゃねえ」

 ロクちゃんは何か言いたげに、じっとウズメの顔を見ている。

「わかった。その口輪はずしてあげるよ。その代わりうるさくしたらダメだよ? いい?」

「お、おい待て」

 サルタの止めるのも聞かずにウズメは牢の中に手を伸ばし、ロクの猿ぐつわに触れると、それは一瞬ではらりと床に落ちた。

 

 ――薄暗い牢に一瞬の沈黙が流れる。



「礼を言う。女」

「あ、ロクちゃん、普通にしゃべれるんだ」

「我は六ではない。一である。一の頭である。六は、ほれそこにおる」

 一の頭と名乗るオロチはさっと背後の一体を指さす。

「どれもおんなじだよ。だからあんたはロクでいいじゃん。これあげる」

 そう言いながらウズメは自分のしていた小さな翡翠の勾玉を首から外し、ロクの首にかけた。

「我にくれるのか?」

「うん。あげる。だって何か目印がないと見分け付かないもん。その代わりそれ外したらダメだよ。それはね、強い霊力を秘めた勾玉なんだ。ロクちゃんをきっと守ってくれるよ。大事にしてね。まあ、あたしが外さないと外れないようにはなってるけどさ」

 ――従属の術でございますな。ウズメ様は術を掛けた装飾品を相手に付けることによって従属を誓わせることができるのであります。まことに恐ろしい術でございますな。 

 銀の被り物の中で、サルタが訝しげな顔をする。それはまるで鈴を付けられた野良猫のように見えた。『こいつほんとにペットにするのではあるまいな、嫁とは言え怖い、いや、待て、思わず自分の体にそのような物が付いていないか気にする』のその顔である。


「すまぬ、礼を言う。心根のやさしい女よ」

 ……まんまと術に嵌っておる。

 サルタはきっとそう思ったはずだ。

「あたしはアメノウズメ。ウズメって呼んでね。こっちの赤いのはサルタヒコ」

「わかった。さっきは乱暴なことをしてすまなかった」

「いいよ。こっちこそ術掛けてごめんね」

「オロチ、一の頭よ」

 ロクはその巨躯をじっと見上げる。その赤い首元には先ほどウズメが自分にくれた物と同じような翡翠が埋め込まれていて、緑色の神秘的な光を放っていた。

「先ほど、お前は、オシホ殿が約束を守らぬと申したな?」

「いかにも」

「説明願おうか」 

「お前に言うても詮方ないこと。先ほどもそう申したはず」

「ねえ、ロクちゃん、教えてよ」

「わかった。申そう」

 勾玉が鈍く光る。サルタはさっとウズメを見る……。


                     続く

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