ウズメとサルタ 其の5
「こいつらって……」
「うむ。知っての通り、オロチの者たちだ」
「だから八人?」
ウズメの目の前に立つその者は剣を片手に微動だにしない。そいつは小さなウズメからすれば頭二つ分ほど大きい。その鱗に覆われた白面は死者のように生気がない。しかし目、特にその瞳だけは黄金色に輝き、ウズメをキッと見据えている。
「ねえあんた、あたし、あんたたちには何の恨みもないんだから。そんな目で見るのはやめなさいよ。あんたが言ってた通り、オシホちゃんに会えて良かったじゃない」
「ウズメ、何回も言うておろう。ちゃんはよせ。少なくともお前の上司ぞ」
「わかったよ。オシホちゃん」
「……もう良い! とりあえずこやつらを連れて行くぞ」
「連れて行くってどこへ?」
「高天だ。お前たちも来い」
「術を解くの? こいつらまた暴れ出すよ」
「それには及ばん。皆まとめて行くぞ」
オシホはそう言うや、剣をすらりと抜き、まるで青い夜空を切り取るごとくすーっと円を描いた。
「え? うそ! 空、切っちゃった」
オシホの剣が描いた丸い空間が白銀に輝き出したかと思ったら巨大な船が現れた。
「あ、鳥船さんだ!」
気付けばそこにいたすべての者たちが船の上にいた。天之鳥船、正式名称は鳥之石楠船神である。
皆を乗せたトリフネはあっという間に天高く舞い上がる。
遅ればせながら、高天原とは古事記の冒頭、天地のはじめに登場する神々の生まれた場所であり、天津神の住まう所である。その場所については諸説あるが、とりあえず天の異世界、異空間と言うことにしておく。
「やっと帰って来られたねえ、サルタぁ」
「ああ」
「ねぇ、早くおうち帰ろ、さっきの儀式の続きしよ?」
いつのまにかウズメはサルタの肩の上にちょこんと座っている。その目はとろんとして焦点が定まっていない。
「待て待て、ウズメよ、お前は何を言うとるのだ。お前の頭にはそれしかないのか」
「だってオシホちゃん、久しぶりの家なんだよ?」
サルタは何も言わない。いつも通り寡黙である。
「あのなあウズメよ、この輩たちをこのまま放っておくのか? せめて術を解いてからにせよ」
「もう、わかったよ」
ウズメは何か呟き、神楽鈴を二回振った。その途端、オロチたちはその場に崩れ落ちた。すでに猿ぐつわと手枷、足枷が嵌められている。それは如才ないオシホの仕業に違いない。
「あ、思い出した! オシホちゃん、高天原を揺るがす一大事、まだ聞いてない」
「まぐわいよりも大事か?」
「んとね、同じぐらい大事」
サルタは何も言わない。遠くを見ている。
「呆れて物が言えん。まあ良い、では話すとしよう」
続く