ウズメとサルタ 其の④
サルタの重い口がようやく開こうとしたその時であった。
「それは私の口から直接話そう」
突然二人の背後から声が聞こえた。
「お、オシホ殿! いつのまに!」
「あらオシホちゃ~ん、随分お久ね。まあ相変わらず良い男!」
3
このオシホと呼ばれる男、身の丈はサルタにこそ及ばないが六尺(1メートル80センチ強)はある。髪はみずらに結い、その衣服は、いわゆる古代の衣褲姿で衣と褲の上下を黒い帯で固定。動き易さを優先しているのであろう。手首と足首をきゅっと細紐で絞ってある。そして片手で扱える細身の剣を帯刀していた。
年齢不詳だが一見その、上品で端正な顔立ちと清潔な服装、すらりとしたその身の丈からいかにもな優男に見える。
しかしその動きからかなりの手練れであろうと思われる。猛者であるサルタも、探知力に秀でたウズメの耳をもってしても、その気配すら感じられなかった――オシホ、その名称を天忍穂耳命、母は天照大御神、父は素戔嗚尊。ウズメとサルタにとっては直属の上司である。
「オシホ殿なぜここに?」
「お前たち無事であったか」
「ぜーんぜん大丈夫よぉ。あたしらがこんな奴らにやられるわけないじゃない」
「そうか。ならば良い。少し前からこの者共の動きを見張っておったのだ」
続く