第6話 ★農家の娘キャロットに変身! ざまぁ回です。
「なぁ、いいだろアシャ。もう一度一緒に戦おうぜ。俺たちの仲じゃないか」
ロイはニコニコと笑いながら近づいて来る。他の仲間たちは呆気に取られていた。それはそうだろう。手のひら返しが早すぎる。しかも、ロイは俺を「アシャ」と愛称で呼んでいる。今まで一回だって呼んだ事はないのに。
ロイの思考回路は狂っているのだろうか。俺はため息をつきながら、ロイを右手で制した。
「あのな、ロイ。さっきお前は言っただろ。アシャカティには金輪際関わらないってな。だから当然、俺はお前を選ばない。他の仲間達も同様だ」
俺はキッパリとそう断った。だがロイは不思議そうな顔で首を捻る。
「いやいや、何言ってんだよアシャカティ。俺はそんな事言ってないぜ? お前は大切な仲間だ。追放したのは間違いだったって気づいたんだ。頼むよ。俺を許してくれ」
まだ食い下がるロイ。俺は流石に気持ち悪さを感じた。吐き気すら覚える。コイツはマジでイカれてるとしか思えない。
「いや、だからさ」
俺がロイの対応に困っていると、隣に立っていたアレクが右腕で俺を制した。
「アシャ、彼の対応は僕に任せて」
「あ、うん。頼む」
俺はロイの対応をアレクに譲った。アレクならうまい事断ってくれるだろうと思ったからだ。
「さて、ロイ君と言ったかな。君はどうやら自分の都合の良いように記憶を改竄してしまう癖があるようだね。だから、無理矢理にでも記憶を呼び覚ましてあげよう」
アレクはそう言って呪文を呟き、いくつかの印を結んだ。それはほとんど一瞬の出来事だった。
「うっ! あああ!」
頭を抱えて苦しむロイ。
「もしかしたら関係ない記憶も呼び覚ましてしまったかな? モンスターに殺されかかった事や、重大なミス、病で苦しんだ事。鮮明に思い出したんじゃない?」
「ぐぎゃあああッ!」
床に這いつくばり、のたうち回るロイ。よほど辛い記憶を思い出しているのだろう。アレクはゆっくりとロイに近づき、彼のそばにしゃがみ込んだ。
「そろそろ思い出したかな? どれだけアシャに助けられてきたか。そして君が、アシャにどんな仕打ちをしたか」
「あがぁッ! うぎぃぃッ!」
「答えないつもり? それなら今度は悪夢を見せてあげるよ。死んだ方がましと思えるほどの、凄惨な悪夢をね」
再び呪文を唱えるアレク。
「うぎゃああああああああッ!」
ロイは白目を剥き、泡を吹いてガクガクと震えている。
「おいアレク、やりすぎだ! 死んじまうぞ!」
俺はアレクの肩を掴んだ。振り返ったアレクは微笑んでいる。だが、目は笑っていない。
今、アレクは本気で怒っている。こうなったら、誰にも止められない。俺でさえも。
「ふふっ。アシャは優しいね。だけどこんな奴、別に死んだって構わないよ。だって僕の大切なアシャを殴ったんだもの。それに、公衆の面前で侮辱した。万死に値する。ああ、だけど殺しちゃったらアシャに謝れないよね。それはまずいか。ちゃんと土下座して謝ってもらわないと」
アレクはパチンと指を鳴らした。するとロイは何かから解放されたように、静かになった。
「さぁ、答えろロイ・ハーデアット。お前はアシャに何をした。大恩人であるアシャに、一体どんな無礼を働いたんだ! 言ってみろ!」
アレクはロイの胸ぐらを掴んで引き起こす。ロイは震えながら涙を流す。
「は、は、はい! 俺は、いえ、私は、アシャカティに......」
「アシャカティ様だ! 様をつけろ!」
「は、はいいッ! 私はアシャカティ様に助けて頂いたにも関わらず、裏切り、暴行し、侮辱しました! 決して許される事ではありませんが、心よりお詫びいたします!」
「よし。なら態度で示せ。誠意を見せろ」
「はい!」
ロイは素早く起き上がり、俺の前で土下座した。
「アシャカティ様! ご無礼の数々、お許しください! 申し訳、ございませんでした!」
床に頭を擦り付けるロイ。いやぁ、そこまでしてもらわなくてもいいんだけどな......。だけどアレクは俺の事になると、いつもこうなってしまう。俺の為にやってくれている事だから、責める訳にもいかない。今は黙って受け入れよう。
「もういいよ、ロイ。許すよ」
「ありがとうございます!」
さらに床に頭をこすりつけるロイ。アレクは他の仲間達にも同様の事をさせ、俺に謝罪させた。
「ふふっ。みんな許してあげるなんて、本当にアシャは優しいね。だけど僕は、そんな優しいアシャが大好きさ。だけどアシャ、もし他にも無礼を働く輩がいたら僕に言ってね。すぐに謝罪させるから」
ニッコリと笑うアレク。
「ああ、ありがとうアレク」
俺はアレクと握手し、再び周囲の冒険者達を見回す。彼らは怯えきっていた。激昂するアレクを見てしまったのだから、仕方のない事ではあるが。
うーん、誰を選ぶか悩むな。ロイ達の事もあるから、今は強さよりも信頼出来るかどうかを重視したいところだ。
あ、そうだ。デッキに組み込んでいる★カード、「農家の娘キャロット」のスキルに「神のお告げ」ってのがあった筈だ。このスキルは、今選択すべき正しい道を教えてくれる、便利なスキルだ。
「アレク、俺ちょっと変身する。前世の姿に」
「ほんと!? ルキア様に変身するの!?」
「いや、キャロットっていう女の子だ。信心深い子でね。神のお告げを聞いたり、真実を見抜く力を持ってるんだ。仲間選びには最適だろ?」
「確かにそうだね。うん、是非変身してみて」
目を輝かせるアレク。俺がどんな姿になるのか、ワクワクしているのだろう。
ここは一つ、期待に応えてやるとするか!
「変身! 農家の娘キャロット!」
俺の全身がパァーッと輝く。そして輝きが収まると、俺の姿は変化していた。
キャロットはカードに描かれたイラストでは、金髪を三つ編みに編んだ美少女。大きな目に青い瞳。そばかすがチャーミングだ。小柄だがスタイルは良く、胸もかなり大きい。って言うか、今回デッキに組んだカード達は、みんな巨乳ばかりだ。そこを基準に選んだ訳では決してないが、たまたまそうなってしまった。
周囲の冒険者達が、目を皿のように大きくしているのがわかる。まぁ、いきなり目の前で変身されたら、そりゃ驚くよな。
「あー、みんな、びっくりさせてごめん。これは俺のユニーク・スキル【前世ガチャ】の能力で、前世の姿に変身したんだ。これからこの姿が持っているスキルを使って、仲間を選びたいと思う。だからもうちょっと、そのまま待機しててくれ」
そう説明する。すると冒険者達はざわつき始めた。
「可愛すぎるだろ......」
「声も可愛いよな」
「つか、おっぱいめっちゃでけぇ!」
「あれがアシャカティの前世? ヤッベェ。惚れたわ」
なんて声が聞こえてくる。俺は思わず赤面した。なんか女として見られるの、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「あ、あの、えっと......」
俺がモジモジしていると、今まで黙っていたアレクが突然俺を抱きしめた。
「可愛いよアシャ! ああ、可愛い! 大好きだ! これで僕達、ようやく結婚出来るね!」
ええ!?
「ちょっと待てアレク! 落ち着け! 今は確かに女だけど、俺は本来男だぞ! 結婚は出来ない! 賢いお前なら、それくらいわかるだろ!?」
ピシャリとそう言い放つ。気持ちは嬉しいけど、無理なもんは無理だ。
「まぁ、確かにそうだね。もちろんわかってたよ。だけど僕は君と言う存在が好きな訳であって、男でも女でも、どちらでも構わないくらい好きなんだ。結婚の意思を表明する事で、その気持ちを伝えたかったんだよ。それにせっかく女の子になったんだからさ、デートするくらいならいいでしょ?」
な、な、何を言い出すんだこの大賢者様は......!
「公衆の面前で、何言ってんだよ! 恥ずかしいだろ。別にいいけど、今は仲間探しが先決だ」
「別にいいって事は、いいんだね? デートしてくれるんだね?」
「まぁ、デートくらいなら」
「よし!」
「よし、じゃねぇって。ちょ、ちょっと今から神様のお告げ聞くからさ。し、静かにしててくんない」
「うん! わかった!」
ご満悦のアレク。全くもう。そして俺の心臓、なんでこんなにドキドキしてんだよ。まるで心まで、女の子になっちまったみたいじゃないか。
全くもう。




