第5話 幼馴染との再会。
ギルドマスターに会うため訪れた冒険者ギルド。受付でマスターを呼んでもらおうとしたら、丁度そこへマスターがやって来た。
「おっ! 来たなアシャカティ! 待ってたぞ!」
ニカッと笑って腕を組むマスター。
「すいません、俺の為に手間かけさせちゃって」
俺はマスターに頭を下げた。感謝の気持ちでいっぱいである。
「いやいや、全然手間なんかじゃねぇって! むしろお前は引く手あまた! 色んなパーティーが狙ってるのさ! だからこそ、俺自身がパーティーを選んだ! 今そこのリーダーを呼んで来るから、ちょっと待っててくれ」
マスターは二階に向かう階段へと猛然ダッシュ。俺は言われた通り、少し待つことにした。
「あーッ! てめぇアシャカティ! この裏切り者!」
聞き覚えのある声に、俺は振り向いた。そこには見慣れた面々。俺が前いたパーティーのメンバーだ。
「おおー! みんな無事だったのか! 良かった! 遭難したって聞いたから心配してたんだ!」
俺はロイ達に駆け寄った。だが、ロイは俺の顔面を拳で思いっきり殴った。
「ぐあッ!」
俺は吹っ飛んだ。そして頬を押さえながら立ち上がり、ロイを睨む。
「いってぇ! 何すんだよ!」
俺は怒りを込めて叫んだ。
「何すんだ、じゃねぇよクズが! 誰のせいで俺たちが遭難したと思ってる! お前が俺たちを見捨てたからだろうが!」
吐き捨てるように叫びかえすロイ。他の仲間達も「そうだそうだ!」とそれに続く。
どうしてそうなる!? 意味がわからない!
「俺を追放したのはそっちじゃないか! 俺は、俺はみんなを心配してた! ロイの言う通りにゴキブリに変身して、少しでも戦力になろうとした! それなのにゴキブリの姿でみんなに嫌われて、殺されそうになった! それでも俺は、道案内をしようとしたじゃないか! それを要らないと言ったのはロイだ! それを、それを俺が見捨てた!? 冗談じゃない! ふざけるな! ふざけるなぁぁぁッ!」
ふーッ。ふーッ。と憤る。こんなに怒ったのは生まれて初めてだった。悔しくて、涙が止まらない。
「な、なんだよ。何興奮してんだお前。ばっかじゃねぇの。はは、みんな見ろよコイツ。泣いてるぜ?」
バカにしたような顔で、俺を指差すロイ。他の仲間も、それに乗じてクスクスと笑う。
俺の中で、何かが崩れる音がした。それは、みんなとの思い出だった。共に戦い、時に泣き、苦楽を共にした思い出。
全部、幻だったんだ。俺は仲間じゃなかった。みんな、俺の事を心の中では邪魔者にしてた。馬鹿にして、嘲笑ってたんだ。
「うう......くっ、うううう......」
俺はうずくまって泣いた。みんなが無事だと知って、嬉しかったのに。俺は、裏切られたんだ......。
「おい! 何やってる!」
マスターの声がそばで聞こえた。見上げると、マスターがロイの襟首を掴んでいる。
「おい、いい加減にしろよロイ! あの遭難はお前らの自己責任! アシャカティを追放した事による、いわば自業自得だ! それを責任転嫁してアシャカティに罪をなすりつけるなんざ、冒険者の風上にもおけねぇ奴だ! 大丈夫か、アシャカティ」
マスターは俺に肩を貸してくれた。俺は悔し涙を流しながら、「大丈夫です」と言って立ち上がる。
マスターの隣には、フード付きのローブを着た男が立っていた。フードを深く被っている為、顔はわからない。だが俺はなんとなく、その男に懐かしさを覚えた。
「アシャカティ、このお方がお前をパーティーに欲しがってた人だ」
フードの男はわずかに見える口元に笑みを浮かべ、俺に握手を求めて来た。俺はその握手に応え、がっちりと手を握り返した。
「よろしくお願いします。えっと、あなたは......」
「僕にそんな敬語なんて使わないでよ、アシャ」
この声......! まさか!
「アレク! アレクじゃないか! いやぁ、久しぶりだな! 元気だったか!」
俺は幼馴染への再会に、心が踊った。だがアレクは「シーッ」と唇に指を当てた。
「僕の正体をみんなに明かす前に、確かめておきたい事がある。マスター、例の件をお願いします」
「わかりました」
マスターはアレクに頷くと、ロイ達に向き直った。
「ロイ、一つだけお前に聞きたいことがある。ここにいる方がな、アシャカティをパーティーの仲間に加えたいそうだ。だが、彼は前パーティーのリーダーであるお前の意志を尊重するらしい」
マスターはそこで一呼吸置く。ロイはアレクの方を見た。それを確認し、マスターは続ける。
「アシャカティは素晴らしい探索士だ。もしもお前とアシャカティ、両者が望むならば、再びパーティーを組むがいい。だが、もしも両者がそれを望まないならば、彼はアシャカティを仲間に加える。どうだ、アシャカティに謝罪し、やり直す気はあるか?」
マスターはロイと俺、両者に目線をよこした。俺は首を振った。もう、ロイ達とはやっていけない。そう確信していたからだ。
「はっ! 愚問ですよマスター。俺たちにコイツは必要ない。もっと使える探索士を仲間にするのでご心配なく。それとマスター、コイツに対する評価を改めた方が良いですよ。コイツは使えない。ちっとも最高の探索士じゃあないって事です」
ロイは俺を指差し、吐き捨てるようにそう言った。俺はロイを強い視線で睨む。
「それはお前が決める事じゃない。余計な口を挟むな。じゃあアシャカティとやり直す気は無いんだな? 本当に、手放して良いんだな?」
「ええ、もちろんです。こんな奴とは金輪際、関わりたくありません」
「だ、そうです。アレクセイ様」
ロイの返答をアレクに伝え、そのまま床にひざまずくマスター。
「全員ひざまずけ! こちらにおわす方は、大賢者アレクセイ様だ!」
マスターが叫ぶ。
「え?」
俺は一瞬、マスターが冗談を言っているのかと思った。だが、どうやらそうではないらしい。
アレクがフードを取って、ニコリと俺に笑いかける。金色のサラサラした髪。整った顔。慈愛に満ちた、青い瞳。
子供の頃と変わっていない、優しい微笑みだった。そしてその笑みは、マスターの言っている事が真実である事を示していた。
え? マジ!? え、ええええ!? アレクがあの、大賢者アレクセイ!? 姉上に魔術を教えていたって言う、あの!? 国王の次に権力を持つ、王国最強の存在だって言うのか!? 名前が一緒だとは思ってたけど、まさか同一人物だとは思わなかった!
ギルドにいる全ての人が一斉にひざまずく。その様子は中々に壮観である。
俺もみんなに倣ってひざまずこうとするが、アレクに腕を掴まれる。
「君はそんな事しなくて良いよ、アシャ。だって君は僕の愛しい親友。そして同じ孤児院で育った幼馴染だ。本当に久しぶりだ。ずっと、会いたかったんだ」
その言葉に、俺は感極まってしまった。ドッと涙が溢れる。
「俺も会いたかったよ、アレク。お前が先に親が決まって、養子にもらわれてった後、寂しかった。だけどそれから何年かして、大賢者アレクセイが俺を王家に推薦してくれたって聞いた。あれ、お前だったんだな。すごいじゃん、賢者になるなんてさ」
「うん。沢山勉強したんだよ。いつかきっと、アシャに会えると信じて。会いたいのを我慢して、時間を勉強に費やした。君が戦乙女ルキアの生まれ変わりだって事は僕のユニーク・スキル【解析】でわかっていた。だから後継のいない王家に、養子として推薦したんだ。そして、いずれ【前世ガチャ】の秘密を解明して、君にルキア様の力を発現させるのが僕の目標だった。だけどごめん。まさか君がその【前世ガチャ】のせいで追放されてしまっていたなんて」
アレクは申し訳なさそうに、俺を見つめる。
「まぁ、仕方ないよ。ほとんど虫か動物にしかなれないスキルだしな。だけどお前が姉上にくれたアドバイスのお陰で、ついに俺はルキアに変身出来るようになった! ありがとな!」
俺はえっへんと胸を張る。
「そうか! 成功したんだね! 良かった! 【前世ガチャ】はまだ未解明な部分が多いけど、決してハズレスキルなんかではないからね! 遺物の事も、最近わかったんだ! セイラさんなら、君にその話をしてくれると思ってた! ちゃんと伝わって良かった! 本当に良かった!」
俺の手を握るアレク。その目には涙がにじんでいる。俺もその手を強く握り返した。
「ああ。全部お前のおかげだよ、アレク。お前の事を考えない日はなかった。王家から追放された後は、ずっと一人で、寂しくて。会いたかった。本当に、会いたかったよ」
「僕も、寂しかったよアシャ。会いたかった」
「アレク!」
俺はアレクを抱きしめた。色んな思い出が頭をよぎり、涙が止まらない。アレクも俺を、強く抱きしめてくれた。
「アシャ、僕は国王より至高のパーティー【アルティメット・アライアンス】の設立を任された。君に、そのリーダーになってもらいたい。僕は君の右腕として、参謀を務めるよ。このパーティーに所属する事は、冒険者として最高の地位だ。あらゆる特権が与えられる。まだメンバーは僕とアシャだけ。それ以外のメンバーは、これから集める」
ざわつく周囲の冒険者たち。それはそうだろう。アルティメット・アライアンスといえば、噂に登った事はあるが実在はしない、いわば幻のパーティー。もしかしたら今この場で、そのメンバーに選ばれるかも知れないのだ。
「アレク、残りのメンバーは俺が決めて良いのか?」
「ああ、もちろんだ。アシャのパーティーだからね。アシャが自由にして良いんだよ」
「そうか、わかった」
俺はギルドに集まっている冒険者達を見回した。みんな、ひざまずいたまま顔を上げ、選んで欲しそうに目を輝かせている。
そんな中、一人の男が立ち上がった。
「俺達を選んでくれ、アシャ! 苦楽を共にした、戦友である俺たちを!」
そう名乗り出たのは、ロイだった。
次回、ざまぁ回です!




