第1話 初めての前世ガチャ。
とあるダンジョン。冒険者である俺たちのパーティーは、強敵デーモンに出くわしピンチに陥っていた。
「おいアシャカティ! 例のハズレスキル使ってみろ! 道が切り開けるかも知れん!」
パーティーリーダーの剣士、ロイが俺に叫ぶ。その間も敵の猛攻は続く。
「いや、でも何になるかわかんないぞ! 怖くて今まで使った事ないし!」
俺も敵の攻撃をかわしながら叫ぶ。俺の冒険者クラスは「探索士」。地図作りや道案内が主な役割だ。一応武器には短剣を持っているが、攻撃用のスキルはほぼないと言っていいレベル。しかしながら敵の攻撃を避けるのは得意だ。
「いいから使え! リーダー命令だ! それ以外に、この状況を切り抜ける方法が思いつかん! 責任は俺が取る! 一か八かやってみてくれ! くそっ、まさか上層でデーモンが出るなんて、くっ、誰が、想像出来る!?」
必死に戦うロイや仲間達。俺以外に五人いるメンバーは全員戦闘クラス。確かにここで俺が戦力になれば、形勢は逆転出来るかも知れない。
「わかった! じゃあ行くぞ! 【前世ガチャ】回転!」
俺は目を閉じ、ダイヤルを回すように右手で空中を掴んで右側にひねりまわす。
ガチャリ。頭の中で音がした。突如脳内に繰り広げられる映像。散らばっていた無数のカードが収束し、シャッフルされる。そしてその中から一枚が選ばれ、裏から表になった。
(嘘だろ......!)
俺はそのカードに書かれた絵を見て衝撃を受けた。まるで頭を棍棒で殴られたような、強い衝撃だ。
頭の中に、誰かの声が響く。
(前世【★ゴキブリ】をカードリストに登録しました)
◎ステータス
★ゴキブリ
属性 古代種
変身コスト 0MP
レベル1
スキル ⚫︎飛行⚫︎高速移動⚫︎超反射神経⚫︎悪食⚫︎威圧
⚫︎打撃耐性⚫︎圧力耐性⚫︎熱耐性
変身維持時間 二十四時間
【コンボ効果】 デッキ内★★カードのコストを10MP減らす
デッキ内★★★★★カードの変身持続時間を一時間延長
【変身効果】なし
【属性効果】デッキ内「古代種」カードのレベルを1アップ
いや、ゴキブリって。ハズレもいいとこだろう。最低ランクの★(星1)だし。レベルも1じゃん......。だがもう一度ガチャを回すにはSPと呼ばれるポイントが不足している。
まったく、これだもんなぁ。「前世ガチャ」はそのほとんどが、★の動物や昆虫のカードらしい。ハズレスキルと言われるのはその為だ。
うーん。いやそれにしてもゴキブリはひどい。こんなゴキブリなんぞに変身していいのかどうか悩むな。むしろ俺のままでいた方がいいのか?
「おい、まだかアシャカティ! 早く変身しろ! なんでも構わんから早く! 多分今のお前よりは絶対にマシだ! 責任は俺が取るから!」
「ああ、もうちょっとだけ待ってくれ! 引いたのがゴキブリなんだ!」
戦いながら叫ぶロイに、俺もデーモンの攻撃魔術を回避しながら返事を返す。
うーん、マジどうしよう。ゴキブリかぁ......。だがみんな、今は少しでも戦力が欲しい筈だ。ロイも責任を取ってくれると言ってくれている。よし! 一か八か、このゴキブリに賭けてみるか。こいつは普通のゴキブリじゃない。きっとすごいゴキブリなんだ。スキルいっぱいあるしな......。ロイの言う通り、今の俺よりは戦いで役立つかも知れない。
「ゴキブリでもなんでもいいって! 早く!」
急かすロイ。大事な局面だってのに、せっかちな奴だ。
「本当だな! マジで責任とってくれよ! 俺も本当は嫌なんだからな!」
「わかったって! 早くしろ!」
よーし、そこまで言うなら! 決めるぜ、覚悟!
「変身! ゴキブリ!」
俺は高らかに叫んだ。すると次の瞬間。俺の全身が光輝き、変身が始まる。仲間達や、敵のデーモンでさえも動くのをやめて俺に注視しているようだ。
やがて体の輝きが消えた。変化した俺の姿があらわになる。
「よっしゃ完了! おいみんな! 変身終わったぞ! 俺はゴキブリになっ......!」
そう言いかけた時、恐ろしい程の絶叫が俺の声を掻き消した。
「ぎぃぃぃやぁぁぁッ! ゴキブリィィィッ!」
パーティーの半分を占める女性三人が、一斉にそう叫んだ。声がシンクロしていた。
「ヤダァ! 早く殺して! 死ね死ね死ね!」
剣で弓で魔術で。あらゆる攻撃が俺に飛んでくる。だが、ゴキブリとなった俺の目にはもはや全て止まって見える程に遅い。全ての攻撃を余裕でかわす。すると女性陣はさらに攻撃を激しくし、所構わず暴れまくった。男性陣は呆気に取られている。
「ウゴアアアアアアッ!」
女性陣が暴れまくったお陰で、いつのまにか倒れるデーモン。人は本当の窮地に陥った時、真の力を発揮する。しかしそれがデーモンではなくゴキブリ、つまり俺と対峙した事で発揮されたのは、ちょいと複雑な気分ではある。
「やったぞ! デーモンを倒した! 良くやったぞみんな!」
ロイが嬉しそうに女性陣を激励する。だが、彼女達はそれどころでは無い。
「そんなもんどうでもいい! 早くアイツを殺して! ゴキブリよゴキブリ! 早くブッ殺してェェッ!」
俺を指差す女性陣。それを受けてロイともう一人が、ゆっくりと俺に近づいて来る。おいおい、ロイは俺がゴキブリって知ってる筈だろ!?
「おい、みんな落ち着けって。俺だよ、アシャカティだ。前世ガチャでこの【ゴキブリ】に変身しちまったんだ! だから攻撃はやめてくれ!」
俺は再び全力で叫んだ。するとギョッとするメンバー達。ロイもわざとらしく驚いて見せる。マジかよ。ロイも俺を殺す気だったのか!?
「ウソ......! アシャカティ、なの?」
「そうだよ! 前世ガチャで変身したのはいいけど、結果はご覧の通りハズレだ! だけどまぁ、デーモン倒せたから結果オーライって事で! 俺、あと二十四時間はこのままだからさ、このまま道案内させてもらうよ。大丈夫、地図は頭に入ってる。みんな、ついて来てくれ!」
ブゥンッと羽音を立てて飛ぶ俺。青ざめる仲間達。
「いや......そんなの嫌......! ゴキブリが近くにいるだけで鳥肌が立つの! 吐き気がするの! 殺したくなるの! ロイ! こいつ、なんとかして!」
女性陣の一人が、俺を指差す。その目は憎悪に満ちていた。俺、なんか悪い事しましたか?
「まぁ、俺も同感だ。アシャカティ、悪いがそう言う事だから消えてくれ。このまま一緒にいると、思わずブッ殺しそうになる。だから、な? わかるよな。お前はパーティーから追放だ。あばよ」
俺を追い払うような仕草をすると、ロイはダンジョンの奥へと歩き始める。仲間達も、それに続く。
「ちょ、ちょっと待ってくれロイ! 責任とってくれるって言ったろ!? それにみんな! 言いたいことは分かるけど、この先道案内無しで本当に大丈夫か!? ダンジョンで遭難したらヤバイぞ! 命に関わる! ゴキブリが嫌とか言ってる場合じゃ......」
俺は本気でみんなの事が心配だった。ダンジョンを探索士無しでうろつくなんて、自殺行為でしかない。ダンジョン内の構造は、刻一刻と変化して行くのだ。ある程度変化のパターンを把握している探索士は、冒険者パーティーに必須なのである。
「責任? なんの事かわからんな。それに遭難なんてしないさ。俺たちも長い事冒険者をやってるし、ある程度はダンジョンの構造パターンも把握している。つまり、お前は必要ない。ぶっちゃけ、ギルドマスターの紹介だから仕方なくお前を使ってやってたんだよ。どのみちクビにしようと思ってたんだ」
「え......!?」
衝撃の事実だった。俺はてっきり、みんなに認められていると思ってた。信頼されているとばかり、思ってたんだ。こんなにあっさりと裏切られるなんて......。
「あーあ。とんだカスつかまされちまったぜ。何が最高の探索士だ。戦闘力ザコだしハズレスキル持ちだしよぉ。ギルドに戻ったら、次はもっとマシなスキルと戦闘力持った探索士探すわ。じゃあな」
ロイはそう言って手を振ると、仲間達と共に去って行った。責任は俺が取るって、言ってたのに......。
「うう......やべぇ。マジ鬱になりそう......」
俺はとてつもない精神ダメージを食らいつつ、ゴキブリ姿のままでダンジョンを引き返し始めた。
ああ、早く......早く人間になりたい!
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