わたくしは精霊王様に結婚を申し込んだ無謀な王女でございますわ。
とある国にとても気の強い王女様がいた。
名前はマリーネと言う。
彼女は歳は18歳。この国で一番強くて優秀な男と結婚したいと常に思っていた。
しかし、この国の一番イイ男、英雄ディストール。彼はドラゴンを倒したとかで有名だったのだが、他の女に盗られてしまった。
ギリギリギリ。マリーネ王女は悔しがった。
彼はとある公爵令嬢と結婚すると言って、今、その令嬢と姿を消しているのだ。
わたくしは、この国で一番イイ男と結婚しなければなりませんわ。
しかし。英雄ディストールは諦めねばなるまい。
では次にいい男とは誰か??いや、出来れば彼以上の男をゲットしたい。
マリーネはとんでもない行動に出たのである。
今日は祭りの日。
一年の豊穣を祝って、精霊王グリフィストが、この国にやってきて、
供物を受け取る日でもあるのだ。
国王陛下自ら、精霊王に会い、供物を捧げるとても大事な祭典なのだが、
この王女、その祭典の最中にやらかした。
「精霊王グリフィスト様。わたくしと結婚して下さいませ。」
驚いたのは精霊王グリフィストである。
銀の長い髪を腰まで伸ばし、美しさも人間離れした神である精霊王。
まさか、人間に結婚を申し込まれるとはまさに青天の霹靂だった。
「いや、私は人間と結婚するつもりは…」
国王陛下も焦って。
「マリーネ。この方は精霊王と言う神様なのだ。人間と結婚出来るはずはないだろう。」
「わたくしにふさわしいのは、最高位の男性です。ですから、わたくしと結婚して下さいませ。この際、神様だという事は目を瞑って差し上げます。」
「それは困る。私は1000年以上生きているのだ。人間と交わったら、精霊王を降りねばならない。だから…」
ズイっとマリーネ王女は精霊王グリフィストに迫る。
「だから???精霊王を降りたら貴方様に価値は無くなると言う事なのですね?だからわたくしにふさわしくないと…」
国王陛下が慌てて、
「なんていう事をっ…」
周りにいた祭りに参加している貴族や国民全員が呆れ果ててその様子を見守る。
グリフィストは首を振って、
「私が精霊王の力を失ったとしても、国に豊穣をもたらす力は使えるが…」
「でしたら、わたくしの伴侶になって下さいませ。わたくしには無能な兄がおります。
彼を必ず陥れて、貴方様を王配にして差し上げますわ。」
国王陛下始め、周りにいた全員が思った。
無能な兄…いいのだろうか?現王太子殿下ハレスト…
彼はここにはいなかった。
祭りの立ち会いなんてめんどくさいとばかり、おさぼりをしていたからだ。
そんなハレスト王太子殿下は国民からの評判は最悪であった。
グリフィストは微笑んで、
「ともかく、私は精霊王を降りる気はない。お前と結婚する気はない。」
「それならば、わたくしとデートをしてくださいませんか?」
マリーネ王女は食い下がる。
グリフィストは引き気味で、
「何故?デートとやらをしなければならない。」
「ですから、わたくしの魅力を思い知らせてやりたいのです。」
「面白い女だな。いいだろう。デートとやら、付き合ってやろう。」
ついにマリーネ王女の押しに負けて、精霊王グリフィストはデートに付き合う事になった。
マリーネ王女は祭りに参加した国民に向かって、
「わたくしの恋を全力で応援なさい。これは命令です。いいですわね。
精霊王が王配になれば、国全体が更に潤います。これは、わたくしの恋を叶える一種のプロジェクトです。皆全力でサポートするように。」
確かに、国全体が潤うに越したことは無い。
まぁ今でもこうして祭りを開いて精霊王を招く事で潤っているとは思うのだが。
こうしてマリーネ王女、精霊王グリフィストと結婚したいプロジェクトが始動したのであった。
長い銀髪の精霊王グリフィスト、髪を後ろに三つ編み一本に縛り、黒の貴族服を着れば、それはもうイイ男で。
マリーネ王女は彼と腕を組んで歩けば、お忍びではなく、まさに公開デートそのものである。
祭りに参加した国民だけでなく、全国民にお触れを出したのだ。
マリーネ王女と精霊王グリフィストが結ばれるように応援するようにと。
だからどこへ行っても、国民から歓迎されて、色々と二人はサービスを受ける事が出来た。
高級なレストラン。カフェ、劇場、色々な所でいい席で楽しむことが出来た。
買い物へ行けば、サービスして貰える。
色々と食事をしたり、楽しんだ後、
夕陽の中、二人で手を繋いで歩く。
マリーネ王女は頬を染めて、
「グリフィスト様。今日は有難うございました。とてもわたくし、幸せでしたわ。こうして貴方様とデートが出来た事が。」
「そうか…今日の出来事がデートと言うのか。」
「それでその…デートと言うからには、最後にわたくしとキスっ…キスをして下さらないと。」
「キスっ???」
マリーネ王女は口を尖がらせる。
グリフィストは困ってしまった。
キスとは…唇と唇をくっつける行為だったな。確か…
顔を近づけて、チュっとマリーネ王女の唇にキスをする。
マリーネ王女は真っ赤になって。
「恥ずかしいですわっ。」
グリフィストは不覚にもその可憐な姿にときめいてしまった。
精霊王、1000歳。ついに遅かりし恋を知る。
しかし、マリーネ王女と結婚したら、精霊王を降りねばならない。
豊穣の力は持つ事は出来るが、人間と同じように歳を取り、死なねばならないのだ。
もし、精霊王のままだったら、後500年は生きる事が出来るだろう。
だが…グリフィストは思った。
長きに渡り人間界を見て来た。精霊界を治めて来た。
もう、いいのではないのか。
さすがに1000年も君臨してきたら、自分より若き精霊達が可哀想である。
中には優秀な者もいるのだ。彼らの中の一人に精霊王を譲ってもいいのではないのか。
この王女と結婚をして、子を成して…今まで考えられなかった人生を送れるかもしれない。
最後にそんな人生を送っても良いだろう。
グリフィストはマリーネ王女に向かって、
「恋と言えるかどうか、私にはまだ解らない。だが、貴方の王配になってもよい。
私にもっと恋を教えて貰えぬか?」
「恋とは…グリフィスト様。落ちるものだと申します。」
「落ちる物?」
「わたくしに対して、ドキドキして下さったのなら、それはもう恋ですわ。」
マリーネ王女に対して、これは恋…
グリフィストは、頬を赤くして。
「落ちるもの…そうだな。マリーネ王女。どうか私と結婚して欲しい。」
「いえ、わたくしの結婚の申し込みを承諾したと申して下さいませ。先に申し込んだのはわたくしなのですから。」
「それでは、承諾した。」
「嬉しゅうございます。グリフィスト様。」
そして、二人は国民全員から祝福されて結婚をした。
国に帰って来た英雄ディストール夫妻と、マリーネ王女は仲が悪かったのだが、
彼らとも国の為を思って和解をした。
その後、マリーネは無能な王太子ハレストを追い落として。
(彼は伯爵令嬢の婿となり伯爵家に養子に行ってしまった。)
マリーネは女王となり、精霊王グリフィストは、精霊王を降りて、王配としてこの国をマリーネ女王と共に収めた。
マリーネ女王の国は、王配グリフィストの豊穣の力と、英雄ディストール夫妻の良き協力もあり、最盛を誇ったと言う。
マリーネ王女は王配グリフィストとの間に沢山の子を授かって、生涯、二人は仲良く暮らしたと言われている。