同じパーティの盗賊が追放されるようだったから一緒について行った
新作です。続くかは知りません。
「ライアー、お前は追放だッ!」
「なんでだよッ! 俺は何もしてないだろ」
「リリスから聞いたぞ。お前がダンジョンで入手したドロップアイテムを独占して売り払おうとしていたってな」
ガヤガヤと騒がしい酒場の隅で六人の男女が口論になっていた。といっても、ほとんど二人の男の口論だが・・・
「リリスのいうことは嘘っぱちだ! 俺はそんなことしてない」
そういうのは六人組のパーティで盗賊を担っている男、ライアーだ。盗賊らしく、身軽な格好をしており、口元は土埃で汚れた布を巻いている、素肌は褐色肌で青い髪に青い目をしている。
「リリスが嘘を言っているというのか? 馬鹿な、リリスは神官だぞ。神官が嘘を言うわけがないだろ」
そして、その盗賊を攻めている男がこのパーティのリーダーである戦士のエドウィン。
そんな二人の会話を他の四人はため息交じりに聞いている。
「まぁ、この際の話、正直言って、あんたはお邪魔なんだよね」
すると、耳の長い女が軽い口調でそういった。
「えっ?」
「聞こえなかったの?あんたは邪魔だっていってるの。確かに、ダンジョンでは索敵とかで役に立ってるかもしれないけど、森とか墓場だと役に立たないでしょ。それなのに、ダンジョンで入手したドロップアイテムを独占しようとしてたとか、害悪としかいいようがないわ」
この耳の長い女の名は、エメリアといい、エルフと呼ばれる種族でパーティの弓兵と魔導士、回復役を担っている支援特化の戦闘スタイルを持っている。
仲間だと思っていたエメリアからの言葉にライアーは茫然とする。
「それに、私は盗賊って生き物が大嫌いなの。今まではエドが味方をしていたから同じパーティにいたけど、今回はエドもこういってるわけだし、早くどこかにいってくれない?」
「なっ」
「ダンテだってそう思うでしょ?」
エメリアはフードを被った青年に問いかける。
青年の名はダンテ、このパーティの魔導士だ。エメリアと共に後方からの攻撃を得意としている。
「僕は別に・・・といいたいところだけど、ドロップアイテムの独占は許せない。今回ばかりはエドたちの意見に賛成だ」
ダンテもライアーを追放することに賛成する。
ライアーの顔が段々青白くなっていく。
「あ、あの、ライアーさん。早く謝って方がいいと思います」
そういったのは白い髪を持ち、神官服を身に纏う十五くらいの美少女、瞳には黄金の光を宿しており、
まだ幼いながらも力強い目つきをしている、この少女こそリリスである。
「お、お前ッ! 俺を嵌めたなッ!」
「そ、そんな、私は」
ライアーがリリスに掴みかかろうとすると、エドが間に入り、逆にライアーの腕をひねる。
「くっ」
「いい加減にしろ、お前はもう顔も見たくない。さっさとどこかにいけ」
エドが冷たくそう言い放つ。
そのときだった、
「まぁ、待てよ」
刀と呼ばれる当方の国の武器を片手に持った黒髪の少年が待ったをかけた。
「どうしたんだキリハ?」
「ライアーを追放するのは愚行だ」
「なにをいっている? ライアーはドロップアイテムを独占したんだぞ?」
「その証拠はどこにある?」
「えっ」
エドは言葉に詰まる。
「だから、その証拠はどこにあるんだっていったんだ?」
「そ、それは、リリスが証言しているだろ」
「ふぅ~ん、それで、なんでリリスが証言したから証拠になるんだ?」
キリハと呼ばれた少年は次々に言葉の刃をエドに突き立てる。
「そ、それはリリスは神官だろ。神官のいったことは本当のことだ」
「確かに、神官のいうことは真実だろう、しかし、神官だって嘘をつくことはあるかもしれない」
「そんなことはないですッ」
そこで、リリスが声を荒げる。
「それに、お前はこのパーティに加入してからまだ半月だろ? それに比べてライアーがこのパーティに所属していたのは一年と半年だ。お前たちは新しく入ってきた奴の言葉を信じて、今まで命を預けて冒険してきた仲間を追放するのか?」
「キリハ・・・」
ライアーは仲間の中で唯一、自分のことを信じてくれたキリハを見て涙をこぼす。
「キリハこそ一体どうしたんだ? 普段は『やっぱり盗賊は嫌いだッ! 男の癖にチマチマ攻撃しやがって、しかも背後からの不意打ちだ? ふざけるなよッ!』って喧嘩ばかりしてるのに、そんなライアーを庇うなんて」
エドのいう通り、このパーティで一番仲が悪いのはキリハとライアーだった。
何かある度に喧嘩をしており、クエストを受けて、喧嘩をしなかったことはないくらい、仲が悪いのだ。
そんなキリハがライアーを庇う。一体どういうことなのだろうか?
「まぁ、確かに、俺はライアーと仲がいいとはいえない。だがな、俺はライアーを信頼している。この言葉に嘘はない」
「ほ、ほんとにどうしたのキリハ? ま、まさか、ライアーに何かされたの?」
エメリアがキリハの変貌ぶりに目を見開く。
「いい加減にしろよッ!!」
キリハがテーブルと叩くと同時に大声で叫ぶ。
「なんで仲間を信じてやらねぇんだ?」
「キリハ、何か変な薬でも飲んだか?」
「変な薬だ?それを聞きたいのは俺の方だ。リリスの言葉をまるっきり信じやがって、お前らの方こそ変な薬でも飲まされたんじゃねぇのか?」
前髪で隠れていた目がギラギラと紅い煌めきを放つ。
「キ、キリハ?」
ライアーもまさかの人物が、味方をしてくれて感動を通り越して、目を白黒させている。
「いいか? 俺は馬鹿だ。敵を斬ることしか出来ない馬鹿だ。確かに、敵を倒すという能力においては、ライアーはカスかもしれない」
「キ、キリハ? 喧嘩を売ってるなら買うぜ」
「うるせぇ、黙ってろ。でもな、ダンジョンでの俺ははっきりいって、そこまで機能してない。悔しいけどな、罠感知を持っているライアーが先頭を突き進んでくれるからこそ、俺達は安心してダンジョンを進むことができる。なのに、お前らは、そんな仲間を追放するのか?」
「確かに、キリハのいう通り、ライアーはダンジョンの罠や索敵において、役に立ってくれていることは認めよう。だが、それと、これとは話は別だ」
「もういいッ!! ライアーを追放するなら、俺も追放しやがれッ! てめぇらみたいな奴らとパーティなんて組めるかッ。いくぞ、ライアー」
そういってキリハはライアーの腕を掴んで酒場を出た。
酒場を離れて、街の外れにある水路の脇道に二人はいた。
水路の石に腰を掛けて月を眺める。
「キリハ、いいのか? お前まで追放されて」
「・・・気にするな」
「気にするなって・・・なんでッ! なんでキリハは俺のことを嫌ってるんじゃなかったのかよ!」
「俺がいつお前のことを嫌ってるなんていった?」
「だ、だって、いつも」
「そうだな、お前のやり方は卑怯だ。だから、嫌いだ。でも、それはお前自身のやり方だろ?お前のやり方を嫌ったとしても、お前を嫌うのはお間違いだ」
キリハは月に指を指して円を描く。
「ありがとう」
「ぷっ・・・お前がありがとうって気持ち悪いからやめてくれよ」
「・・・さっきまでの感動を返せクソ野郎ッ」
そういってライアーがキリハに殴りかかる。
「馬鹿めッ、貴様の腕力で俺様に勝てると思ったか?」
「い、いてててて」
「ったく、ありがとうをいいたいのは俺の方なんだよ」
「キリハ?」
「お前がいないと、俺はダンジョンのモンスターと戦闘するより前に罠で死ぬ」
「確かにそうだな。お前は馬鹿だから、触るなっていってるところにも触る。正真正銘の馬鹿だ」
「あぁ、そうだな、だからこそ、俺はお前を信頼してる」
キリハが照れ臭そうにそういうと・・・
「ぷっ、気持ち悪い。やめろよ、思わず吐きそうになっただろ」
「お前、俺に喧嘩を売るとはいい度胸だなッ! 生まれてきたことを後悔させてやるッ」
こうして、二人のパーティを追放された夜は更けて行った。
キリハはツンデレなんですかね?