67 その後の顛末 その2
【聖域の眠り】の眠りから覚めたあと、ゴラン王はエリオと何やら密談して、皆にこう宣言した。
――天使様が現れたことを決して口外してはならん! 夢として胸にしまっておけ! 禁を破った者は死罪とする! 国をお救いくださった天使様を、今度は我々が天聖教会からお護りするのだ! よいな!
一同は御意に従う声を上げ、深々と頭を垂れたという。
というわけで、天使の存在を伏せたが故に、“闇の大穴”を浄化したのがシャルミナということになったわけだ。
恐れ多くも天使エリーゼ様の御業を自分の手柄としたことが、どうにもシャルミナの心に引っかかる。アメリアの隣の席で、いじいじと指先をいじっていた。
変わったんだなとリーゼは思う。以前のシャルミナであれば、喜々として手柄を横取りしただろう。
「私は感謝してるけど? 肩代わりしてくれたおかげで、こうして人目を気にせずアイスが食べられるわけだし。――全部バレたら、もうどっかへ姿を消すしかないよ」
シャルミナが慌てた。
「それは困ります! リーゼ様にはずっとこの国にいてもらわないと! まだ、何の恩もお返ししておりません!」
うんうん、とアメリアも頷いた。
「恩……とかはどうでもいいけど、やっとのんびり学校に通えるし、まだしばらくはここにいるよ」
アメリアの顔が曇った。
「しばらく……って、いつかどこかへ行っちゃうってこと?」
「世界中を旅するのが夢なの。見てない国がまだまだいっぱいありそうだしね」
リーゼの顔がニコニコと輝いた。
「私も行く! 一緒に行きたい!」
「アメリアはシャルミナと一緒に国を良くしないと。貴族も、平民も、人も、ドワーフも、……天使だって、仲良く住める国にしてよ」
アメリアとシャルミナがはっとした。さすが姉妹、反応が一緒だし、こうして見ると表情も似てる。
「リーゼ……ずるい、そんなこと言われたらついて行けないよ」
「リーゼ様のお言葉、心に刻みつけます。生涯の目標が出来ました」
頭を下げたシャルミナの顔は真剣そのものだ。この貴族社会で身分差を撤廃しようなどと、待ち受ける苦難は未曾有のものとなるだろう。けど、それをやり遂げるような信念が瞳に宿っている。
アメリアはそっとテーブルの下でシャルミナの手を取り、シャルミナも笑みを返すのだった。
――そう! リーゼ様と旅するのは私よ!
どこからともなく声が鳴り響き、天空から“何か”がものすごい勢いで落ちた。
「きゃっ!」
アメリアの可愛らしい叫びとともに、辺りは雷が落ちたかのような衝撃波で揺れ、土埃が収まると、リーゼの傍らには1本の剣が突き刺さっていた。
青く輝くミスリルの刀身――それは、“闇の大穴”を封じていたリィンの剣だ。
「リィン……」
「お婆さま……」
シャルミナとアメリアは、目をパチパチとしている。
リィンの剣はまばゆい輝きを放つと、光を纏ったエルフの聖騎士に姿を変えた。
「いきなり飛んでくると、びっくりするんだけど?」
リーゼが容赦なく不満の半目を向ける。
「あら、お茶会に呼んで下さらない主様が悪いんですよ。私だって、孫2人と楽しくお喋りしたいもの」
「……主従契約をした覚えはないんだけど?」
「契約などいりません。私を“闇”から解放し、拾って下さった時点で私の所有者はあなた様です。魔物を倒して剣が残ったら、倒した者の戦利品となるでしょう? それと一緒です」
……ピンクのクマといい、紫のトカゲといい、みんな勝手に従者になりすぎなんだけど?
「剣はゴランおじさんに返したよ?」
「それには私の合意がいります。私は意志を持った剣ですから、主は選びます」
「ゴランおじさんじゃダメなの?」
リィンはリーゼの言葉に、少し頬を染めて微笑んだ。
「フフッ、愛する人と主様は違いますから」
う……とリーゼは言葉に詰まった。愛する人とか言われてもよくわかんないけど、ママはパパの所有物じゃなかったし、主じゃないよね。
「私は……あなた様のおかげで、寝室に飾られ、幸せな日々を送っております。――ですが剣である私は、主の手にあってこそ輝くのです」
「剣なら刃を潰したのがあるから、いいんだけど?」
そう言って、腰のブロードソードに手を置いた。
「そんななまくらと一緒にされるなんて……」
リィンは大げさに嘆いて見せた。
「せっかく再会できたんだから、ゴランおじさんのそばにいなよ」
「お優しいですね、リーゼ様は……。では、そのなまくらではどうにもならない事態が訪れたら、たとえ地の果てでも飛んでゆくことをお許し下さい」
「いいけど……本気出さないでよ? 私が振ったら、とんでもないことにならない?」
「山の1つぐらいは消えてしまいますかね」
「絶対ダメ! 大人しくしてて!」
「はぁい、わかりました」
リィンはふくれっ面を作ると、リーゼの隣に座った。
次回更新は、10/23(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。
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↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
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