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65 愛は光となって

「アカべぇ! こっち来て!」


 ミスリルクローを外してピンクに戻ったクマは、紫のトカゲとそろってバカみたいに口をポッカリ開けて突っ立っている。リーゼが天使になってしまったことが理解できないのだ。


「アカべぇ! 聞こえないの!? 耳引っ張るよ!」


 ハッと我に返ったピンクのクマが、脱兎の如く駆け出した。このブラッディ(血まみれ)ベアの耳を引っ張るなどあるじにしか出来ない。しかも、耳を引っ張られるのは地味に痛いのだ。


 駆けつけたアカべぇにエリーゼは命じた。


「シャルミナとアメリアを抱きかかえて、ついてきて」


 ピンクのクマはウガッと返事をすると、両手のひらでそっとシャルミナを包んで持ち上げた。


「聖剣……を……」


 王より授けられた聖剣を置いてはいけない――シャルミナがうめいた。アメリアは傍らに落ちていた聖剣を持ち上げると、シャルミナの体の上にそっと置いた。


「ありが……とう……」


 アメリアを見つめるシャルミナの瞳に、もう憎しみはない。あるのは、どんなに辛く当たっても心を寄せてくれた妹への感謝の思いだ。


「お姉さま……」


 アメリアも顔をほころばせた。


 ピンクのクマが右の肘を地面に付けて、アメリアに乗るよう促した。腰を下ろしてみると、フサフサの毛が柔らかくて座り心地がすごくいい。


 アカべぇの準備が出来たのを見届けると、エリーゼはリィンの聖剣を拾って、くぼみの縁へ向かって羽ばたいた。




 天使様が従者を従えて、こちらへやってくる――。ゴラン王は跪いたまま、背を伸ばして身を正した。


 エリーゼはゴラン王の眼前にふわりと舞い降りると、ニッコリと笑った。


「ハラハラさせちゃったと思うけど、みんな無事だよ」

「もったいないお言葉です、エリーゼ様。あなた様のお導きにより、我が国は救われました」

「ううん、みんなががんばったからだよ。私はちょっと手助けしただけ」


 ちょっと? これまでの数々の奇跡が、ちょっとしたことであると? 我が孫の命を蘇らせたことも、“闇の大穴”を浄化したことも、種族を変え聖剣を打ったことも、造作もないということか?


 ゴラン王とその場に居合わせた者たちは、再び深々と頭を垂れた。中でもあのディツィアーノは、顔面が地にめり込まんばかりにひれ伏している。


「リィンさんの剣、返すね。もう大丈夫だよ」

「お……おお……」


 差し出されたリィンの聖剣を、ゴラン王は抱きしめるように受け取った。離ればなれになっていた愛する妻の剣が帰ってきたのだ。しかも、黒く濁っていた剣身は、鍛え上げた時よりも鮮烈な輝きを放っているように見える。


「あなた……」


 ……今の声は?


「あなた……」


 愛する妻の声が聞こえる。幻聴ではない、夢でもない、はっきりとあの澄んだ声が聞こえた。


「リィン! どこだ!? どこにいるのだ!?」


 聖剣を包むミスリルの輝きがおぼろげな人の形を成し、懐かしくも美しい聖騎士の姿となった。


「リィン! あぁ……まさか……」

「私は……闇から解放され……天使の剣となったことで、光の姿を得ました。触れることは出来ませんが、こうしてまたあなたと話せます」

「おぉ……おぉおぉぉぉ……リィンよ……リィンよ……」


「ただいま……あなた……」


 光の騎士が微笑んだ。


「よくぞ……よくぞ、帰ってくれた……」


 ゴラン王も武骨な笑顔を浮かべた。残った左目からは、止めどなく涙が溢れ出ている。


 エリーゼの後ろに控えるピンクのクマの懐で、シャルミナとアメリアもうれしそうに頬を濡らした。


 天使が見守る中、跪いた王が光の騎士を抱く――。


「何という……何という光景……。私は今、神話を目の当たりにしている……」


 ディツィアーノはたまらず手を合わせた。


 だが、エリオの眼光はますます鋭くなっていく。


(リーゼ様にその意はなくとも、王に剣を授けたことで、この国は天使の祝福を受けた国となった。天聖皇国イルミナを差し置いてのこの事態……。何としても伏せなければ)


 エリオの心配をよそに、天使はニコニコと笑顔を振りまいている。それもそのはず、リーゼには秘策があったのだ。種族を変えられることを明かし、天使であることを示したとしても、全てなかったことにするとっておきの秘策。それは――


 天使が自信満々に両手を広げた。


「それじゃみんな! これはぜ~んぶ夢だから! すっかり忘れるようにね!」


 【聖域の眠り(ヘヴンスリープ)】!


 まばゆい光と共に天使の羽が舞い、猛烈な眠気が襲ってきた。


 一番そばにいた王が真っ先に突っ伏し、実体を持たない光の騎士までもがその体を横たえた。眠りの輪が“闇の大穴”だった縁に広がっていく。


(また…………それ……ですか……)


 ――エリオ、あとはよろしくね。


 目が合った天使エリーゼの瞳が悪戯っぽく輝いている。


(ああ……リーゼ様らしい……)


 オーデンの街と同じ幕引きに苦笑しながらも、エリオはこの上なく安らかな眠りに引き込まれていった。

次回更新は、9/18(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n8373hl/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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