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63 命の輝き

 あぁ……何ということだ……おそばにいながら、気づかないとは……。リーゼ様は種族を越えられる……そんなこと……ただの人に出来るはずがない。そもそも名前が……リーゼ……一字少ないだけではないか。


 乱れた前髪から覗く左目が赤く輝く。見抜いた先の白き翼の少女の種族は、まぎれもなく――


「エ、エリオ様……あの方は……あのお方は……」


 【鑑定アプライズ】を使ったラルの手が震えている。術を使ったあとの手のひらを向け続けることすらおこがましい。


「ラル! 何だってんだい!? リーゼのあの姿はまさか……!?」


 サラに肩を揺すられたラルの両目から涙がこぼれた。


「エリーゼ様……です。天使様が降臨なされたのです」


 サラの全身が震えた、まるで雷に打たれたように。


「リーゼが……エリーゼ様……」


 2人過ごした時が思い出される。生意気で、わがままで、それでいて人のために尽くし、見知らぬ踊りで魅了する――そう、あの娘は出会った時から天使ではなかったか? 腰に輝くミスリルハルパーは、天使様から授かったものだったのだ。


 エリオが膝を折った。サラたちも続く。


 ゴラン王が吠えた。


「コンラッドよ! リーゼ殿は何に転じたのだ!? あの翼は……」


 【鑑定アプライズ】を持つ監視砦の騎士団長コンラッドを探して、辺りを見回す。


「て……天使様でございます……あのお方は…………天使……エリーゼ様です」


 少し離れたところにいたコンラッドの声が震えている。


「何だと…………そうか……鍛冶屋……聖騎士……エリーゼ様は……必要なお姿にその御身を変え……我が国をお救い下さったのか」


 ゴランは跪き、王族の兜を地に置いた。その姿に倣って、くぼみの縁に立つ者たちが波打つように跪いてゆく。


 あぁ……エリーゼ様……。

 天使様が降臨なされた……。

 夢でも見ているのか……。


 信仰の象徴でしかなかった天使が今、目の前にいる。人々は畏敬の声を漏らすしかなかった。




 美しく左右に伸びた白い翼に、頭上に輝く金色の輪。腰まで伸びた淡い栗色の髪は軽やかに棚引き、透き通るような白い肌に浮かぶ瞳は、輪と同じく金色であった。


 アメリアは息を飲みながら視線を下げていく。身に纏う白い布は幾重にも重なりながら膝上丈のドレスの形を成し、少し地から離れた両足はつま先まで真っ直ぐ伸びていた。


「エ……リーゼ……様」


 アメリアは鑑定したわけでもないのに、世界のほぼ全ての民が信仰する天使の名を口にしていた。――その姿はまさしく、母と共に暮らした教会に祀られる聖天使様そのものだったから。


「違うよ」

「……え?」

「名前が同じなだけで、その天使とは違う。誤解されそうだったからイヤだったんだよね、この姿になるの」


 アメリアはぽっかりと口を開け、目の前の天使が何を言っているのか考えを巡らせた。


「……エリーゼ様だけど……エリーゼ様じゃない……? 生まれ変わられた……ということでしょうか……?」

「違うの! 別人なの! 私はリーゼ! 言ったよね? この姿を見てもお友だちでいてって」

「そ、そうだけど……」


 妖精が金の光をまき散らしながら、エリーゼの口元に寄った。


「ほらほらエリーゼ様、グズグズしてると5分過ぎちゃうよ」

「ウィンディまでエリーゼ()って!」

「いいからいいから、手遅れになっちゃうって」

「もう……」


 エリーゼはふわりと白い布のドレスを揺らして、シャルミナの傍らに舞い降りた。そして、胸の傷に両手をかざして祈りを捧げる――。


「【蘇生リヴァース】!」


 目も眩むような金色の光が天使の手のひらから生まれ、辺りを包んだ。目を開けていられないほど眩しいが、どこか暖かい。まるで生を受けて、初めて見た光のように……。


 ――あれは、命の輝きだ。


 見守る者たちは皆そう感じて、さらに頭を垂れた。


 やがて光は小ぶりな果実ほどの大きさに収束し、元の場所へ戻るようにシャルミナの胸へ吸い込まれていった。


「う……うぅ……」

「お姉さま!」

「アメ……リア……」


 白銀の長いまつげに閉ざされた瞳が、うっすらと開かれた。胸の傷はすっかり塞がり、握った手からは暖かみが伝わってくる。


「エリーゼ様……お姉さまが……お姉さまが……」

「絶対に助けるって、言ったでしょ?」


 目の前の天使がニッコリと笑った。その顔かたちは、大好きな親友リーゼと変わらない。何度も、何度も、自分を励ましてくれた笑顔がそこにある。


「ありがとう……リーゼ……」

「やっと、その名前で呼んだね」


 あ……と口を押さえたアメリアを、エリーゼはクスクスと笑った。それを見てアメリアも、口元をほころばせた。


 微笑み合う天使と聖少女――。2人を彩るように“闇の大穴”だったくぼみが七色に輝き始めた。


 おおっ! オイゲンの老いた眼差しが、負けぬぐらい輝いた。


「あの輝きは、魔石じゃ! “闇の大穴”に沈んでおった鉱石いしが魔力を帯びて、魔石となったのじゃ!」


 苦しみの先には幸せがある――。宝石の花畑のように咲き誇る澄んだ石の結晶は、鍛冶が盛んなネイザー公国に新たな恵みをもたらすことだろう。


次回更新は、8/21(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定だったのですが、体調不良のため、8/28(日)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定に変更します。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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