61 決死の願い
ア……アァアァァァァァ……。
白目を剥いたシャルミナが、彷徨う死者のようにユラユラと歩み寄ってくる。
「お姉さま、気を確かに!」
アメリアが叫ぶが、その声は届かない。右手に握られたリィンの剣が、頭上に掲げられた。
「オマエガ……オマエガ……イナケレバ……」
唸りを上げて、瘴気を纏う剣が振り下ろされる。
「お姉様っ!」
思わず目をつぶったアメリアの顔面に剣が迫るその刹那――リーゼのショートソードが割って入った。
ギインッ!
この世の闇を吸い尽くしたかのごとき黒剣を、刃を潰したありふれた剣が弾き返した。シャルミナは、ぐらりとたじろいだ。
「ジャマヲ……スルナ……」
「アメリア! 聖回復を!」
はっとしたアメリアが、両手をシャルミナにかざす。
「聖回復!」
渾身の思いで放たれた金色の光がシャルミナに向かう――。だが、あっさりと弾かれた。
「そんな……」
「シネェェェェ!」
闇雲に振るわれるシャルミナの剣を、リーゼは全て受け返していく。
「ヴゥウゥゥゥ……コロス……コロス……」
“闇の大穴”だったくぼみの淵で、降り注いだ闇との戦いで傷ついた騎士たちは祈った。――どうか姫を……この国を救ってくれと。
騎士に守られ無傷であったゴラン王は、助けになればと剣を抜き、くぼみに立ち入ろうとした。――が、毛むくじゃらの大きな手に止められた。
「アカべぇ殿……」
真紅のクマは、黙って見ていろと言わんばかりに首を左右に振っていた。
グアァアァァァァ!!!
シャルミナの肩と脇腹から、黒いムカデの鎌が生えた。そんなのアリ? リーゼはアメリアを抱えて、後ろに飛んだ。
シャルミナが4本の鎌とリィンの剣を振るいながら、距離を詰めてくる。
周りから見ればまるで嵐のように刃が降り注いでいるが、リーゼにはスローモーションでしかない。アメリアをかばいながら、難なく凌いでいく。
――けど、どうやって勝てばいいの?
「ウィンディ! 来て!」
リーゼの肩上に小さな光の門が開き、妖精が飛び出た。
えっ!? 目の前に現れた伝説でしかない小さな存在に、アメリアは息を飲んだ。けど、今はそれどころじゃない。
妖精は降り注ぐ剣と鎌を見て、ケタケタとお腹を抱えて笑い始めた。
「ずいぶん大変そうねぇ。だから、深入りするなって言ったのに」
「そういうのいいから! どうやったら助けられる!?」
「殺すしかないって」
大げさに両手を広げる妖精に、アメリアが叫んだ。
「そんな!」
妖精は容赦なく続けた。
「闇と一体となったあの子を殺せば、闇も滅ぶのよ? それでみんな助かるならいいじゃない?」
妖精の口端が、皮肉そうに吊り上がった。
「ヒトって、そういうの好きでしょ?」
グオォオォォォォォ!
シャルミナが天を仰ぎ、空気を震わせた。
「ソウダ……コロセ……こ……ろせ……」
瞳の見えぬ白い両目から、黒い涙が流れた。
「アメ……リア……なぜ……殺さ……ナイ。私を……恨んデ……ないの?」
「お姉……さま……」
「聖剣を……刺しテ……聖魔法ヲ……流せ……」
アメリアのふわりとした金の髪が、勢いよく左右に揺れた。
「出来ません! 恨んでなんかない! 私は……お姉さまを助けたい!」
ウググ……。シャルミナが呻いた。
「ふざけた……ことヲ……。コロ……ス……もう……もたなイ……。心ガ……闇に……染まる……」
妖精がリーゼの耳元でささやいた。
「リーゼ、もう一度言うわよ。救うには殺すしかない。意味、わかるるでしょ?」
そうか! リーゼは少し離れたところに捨てられていた、自らリームとなって打った聖剣に飛びついた。
「リーゼ!」
アメリアの叫びが響いた。
リーゼは耳を貸さない。
「ありがと、ウィンディ!」
「どういたしまして」
聖剣を構えたリーゼを見て、シャルミナは言った。
「そう……ダ……お前……なら……殺せル……。……さぁ……刺セ……」
「ダメェ!!! リーゼ!!!!」
リーゼは構わず、聖剣を天に掲げた。
“聖なる鎧を身に纏い
立ち向かうは、悪しき軍勢
下がれ! 私が盾となる!
聖騎士リィゼ、光と共に!”
少女の体が光に包まれた――。
次回更新は、7/24(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。
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