表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/129

61 決死の願い

 ア……アァアァァァァァ……。


 白目を剥いたシャルミナが、彷徨う死者のようにユラユラと歩み寄ってくる。


「お姉さま、気を確かに!」


 アメリアが叫ぶが、その声は届かない。右手に握られたリィンの剣が、頭上に掲げられた。


「オマエガ……オマエガ……イナケレバ……」


 唸りを上げて、瘴気を纏う剣が振り下ろされる。


「お姉様っ!」


 思わず目をつぶったアメリアの顔面に剣が迫るその刹那――リーゼのショートソードが割って入った。


 ギインッ!


 この世の闇を吸い尽くしたかのごとき黒剣を、刃を潰したありふれた剣が弾き返した。シャルミナは、ぐらりとたじろいだ。


「ジャマヲ……スルナ……」

「アメリア! 聖回復ホーリーヒールを!」


 はっとしたアメリアが、両手をシャルミナにかざす。


聖回復ホーリーヒール!」


 渾身の思いで放たれた金色の光がシャルミナに向かう――。だが、あっさりと弾かれた。


「そんな……」

「シネェェェェ!」


 闇雲に振るわれるシャルミナの剣を、リーゼは全て受け返していく。


「ヴゥウゥゥゥ……コロス……コロス……」




 “闇の大穴”だったくぼみの淵で、降り注いだ闇との戦いで傷ついた騎士たちは祈った。――どうか姫を……この国を救ってくれと。


 騎士に守られ無傷であったゴラン王は、助けになればと剣を抜き、くぼみに立ち入ろうとした。――が、毛むくじゃらの大きな手に止められた。


「アカべぇ殿……」


 真紅のクマは、黙って見ていろと言わんばかりに首を左右に振っていた。




 グアァアァァァァ!!!


 シャルミナの肩と脇腹から、黒いムカデの鎌が生えた。そんなのアリ? リーゼはアメリアを抱えて、後ろに飛んだ。


 シャルミナが4本の鎌とリィンの剣を振るいながら、距離を詰めてくる。


 周りから見ればまるで嵐のように刃が降り注いでいるが、リーゼにはスローモーションでしかない。アメリアをかばいながら、難なく凌いでいく。


 ――けど、どうやって勝てばいいの?


「ウィンディ! 来て!」


 リーゼの肩上に小さな光の門(ゲート)が開き、妖精が飛び出た。


 えっ!? 目の前に現れた伝説でしかない小さな存在に、アメリアは息を飲んだ。けど、今はそれどころじゃない。


 妖精は降り注ぐ剣と鎌を見て、ケタケタとお腹を抱えて笑い始めた。


「ずいぶん大変そうねぇ。だから、深入りするなって言ったのに」

「そういうのいいから! どうやったら助けられる!?」

「殺すしかないって」


 大げさに両手を広げる妖精に、アメリアが叫んだ。


「そんな!」


 妖精は容赦なく続けた。


「闇と一体となったあの子を殺せば、闇も滅ぶのよ? それでみんな助かるならいいじゃない?」


 妖精の口端が、皮肉そうに吊り上がった。


「ヒトって、そういうの好きでしょ?」


 グオォオォォォォォ!


 シャルミナが天を仰ぎ、空気を震わせた。


「ソウダ……コロセ……こ……ろせ……」


 瞳の見えぬ白い両目から、黒い涙が流れた。


「アメ……リア……なぜ……殺さ……ナイ。私を……恨んデ……ないの?」

「お姉……さま……」

「聖剣を……刺しテ……聖魔法ヲ……流せ……」


 アメリアのふわりとした金の髪が、勢いよく左右に揺れた。


「出来ません! 恨んでなんかない! 私は……お姉さまを助けたい!」


 ウググ……。シャルミナが呻いた。


「ふざけた……ことヲ……。コロ……ス……もう……もたなイ……。心ガ……闇に……染まる……」


 妖精がリーゼの耳元でささやいた。


「リーゼ、もう一度言うわよ。救うには殺すしかない(・・・・・・・・・・)。意味、わかるるでしょ?」


 そうか! リーゼは少し離れたところに捨てられていた、自らリームとなって打った聖剣に飛びついた。


「リーゼ!」


 アメリアの叫びが響いた。

 リーゼは耳を貸さない。


「ありがと、ウィンディ!」

「どういたしまして」


 聖剣を構えたリーゼを見て、シャルミナは言った。


「そう……ダ……お前……なら……殺せル……。……さぁ……刺セ……」

「ダメェ!!! リーゼ!!!!」


 リーゼは構わず、聖剣を天に掲げた。


 “聖なる鎧を身に纏い

  立ち向かうは、悪しき軍勢

  下がれ! 私が盾となる!

  聖騎士リィゼ、光と共に!”


 少女の体が光に包まれた――。


次回更新は、7/24(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n8373hl/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ