60 天聖教会の罠
フガーーーーーーッ!
中空に解き放たれた真紅のクマが、キリキリとコマのように舞いながら降り注ぐ闇を切り裂いていく。
紫の巨大なトカゲも負けじと大口を開け、闇を吸い込み始めた。トカゲにしてみれば、闇はただのごちそうだ。
だがそれでも降り注ぐ闇はあまりに多く、撃ち漏らした黒い液体が儀式を見守っていた人々に降り注いでいった。
「エリオ様、お下がりください!」
従者3人がエリオを囲んだ。その顔はいつものように赤黒い布で覆われ、目元しかわからない。
先頭で構えるサラの右手には、ミスリルハルパーがある。闇の者でありながらリーゼから授かった聖剣に等しい刃だ。――この力をいいことに使うようにリーゼは言ったが、闇の者である自分にいい悪いの判断は難しい。なので誓った、主を護るために使うと。今がその時だ。
ボタボタと落ちた闇が、黒い液魔やムカデに姿を変えていく。サラはその核をミスリルハルパーで的確に断ち、無に還していった。
騎士たちは密集して盾の屋根を作り、降り注ぐ闇を防いでいた。ゴラン王は盾に守られながらも、仁王立ちの姿勢を崩さなかった。
魔物たちは、最後のあがきとばかりに鎌を振るい、酸を吐いてくる。だが、ウォルフを始めとする砦の騎士たちには、オーデン、ロアンと2度の戦いをくぐり抜けた経験がある。怯むことなく立ち向かっていった。
――赤い血が飛び散り、黒い闇が無に失せる。
その様を逸らさず見据えるゴラン王の残された目に、シャルミナの姿が映った。
「う……うぅ……」
闇に囚われ、全身から瘴気を放ちながらも、聖剣を杖代わりにしてリィンの剣へ進んでいく。
「おぉ……それでこそ、我が孫娘。聖剣に相応しき聖騎士よ……。そうだ……抜くのだ、リィンの剣を! “闇の大穴”を封じて見せよ!」
再び、地を震わす声が届いた。
『ダメ……ヌイテハ…………ダメ……』
(何故だ、リィン!? シャルミナは命を賭して、皆を救おうとしている! 何が足りぬと言うのだ!?)
苦しげな背中から伝わる想いは――慈悲ではないのか?
「私が……私が聖騎士だ……。父の愛も……母の愛もいらぬ……。国を継ぐのは……私だ……」
シャルミナの心は、悲しい野心で満ちていた。
「アカべぇ! アメリアをお願い!」
ウガッ! と、ミスリルクローを振るっていた真紅のクマが駆け戻ってきた。すれ違いに沼へ走ろうとするリーゼだが、その手をアメリアがつかんだ。
「私も行く! お願い! お姉さまに聖回復をかけたいの!」
柔らかな眼差しがうるうると揺れている。戦う力のない聖少女を最前線であるシャルミナの元へ連れて行くのは、戦いのセオリーとして間違っている。幼いとはいえ幾多の戦いを経てきたリーゼにはわかっていた。ランドリックがそばにいれば、絶対に止めただろう。だが――
「うん、2人で助けよ!」
リーゼは、小さな手を握り返した。
「ありがと! リーゼ!」
仲好しの少女2人は、手を取り合って駆け出した。
「アカべぇ! グレープ! ここは任せるよ! 誰1人死なせないで!」
ウガッ! と吠えながらクマはミスリルクローを十字に構え、
キシャーッ! と叫びながら、トカゲはムカデを噛み砕いた。
一方、闇の軍勢は、後方に控えていたディツィアーノ司祭にも及んでいた。
「お、おぉ……おのれ、聖なる……」
聖魔法を使ったフリをするため、少し間を置いてから杖を前方の液魔に振るった。
「炎アァアァァァ!」
杖から発した炎が、液魔を包んだ。聖魔法ではないただの炎の魔法だが、威力は十分だった。
「フ……フハハハハハ! どうです! 天聖教会が誇る司祭の力! 地獄に還って伝えるがいい!」
だが、押し寄せる液魔の波は収まらない。騎士たちの隙間を抜けて押し寄せてくる。
「ヒイィィィィ!」
司祭は微笑みの細い目をむき出しにして、茂みの方へ逃げ出した。
「バカ娘は何をやっているのです!? ホムンクルスの体を与えたというのに!」
――シャルミナは、杖代わりであったリームの聖剣を捨て、地に刺さるリィンの剣の握りをつかんでいた。
『ダメ……ダメ……』
聖剣から伝わってくる拒絶が気に食わない。
「何が……何がダメだと言うんだ! 私は……聖騎士だぞ!」
『ダメ……ダメ……』
「うるさい!」
両手でリィンの剣を、一気に引き抜いた。
『アァッ』
リィンの叫びも空しく、シャルミナの体は闇に支配された。白目を剥いて大きくのけ反り、顎が外れんばかりに口が開かれた。
「アァ……アァアァァァァァ……」
まるで、地獄の入口が開いたかのように、周囲の闇を吸い込んでいく。戦っていた液魔やムカデも霧状の闇となり、シャルミナの口へ渦巻いていった。
ディツィアーノがほくそ笑んだ。
「おぉ、ようやく役目を果たしたようですね。これで、もう誰にも止められませんよ。姫を殺すことなど、出来ようもありませんからね」
美しかったシャルミナの白い体が、どす黒く変色していく。
「シャルミナよ……何としたことだ……」
ゴラン王は変わり果てていく孫娘の姿に、両手をわなわなと震わせた。闇と同化してしまっては、もう救うことなど――
「お姉さまーっ!」
金の髪を振り乱して、聖少女が駆け寄る姿が見えた。すぐ後ろに勇者を名乗る少女を従えながら。
来週は所用でお休みを頂くので、次回更新は7/10(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n8373hl/
↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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