58 封印前日の夜
サノワに到着した日は、盛りだくさんでとっても楽しかった。
アメリアのお母さんにお祈りされたり(リィゼじゃないって言っても信じてもらえない!)、お爺さんには命を救われたことを改めて感謝されたり(だから、リィゼじゃないって!)、それどころか、通りを歩くだけで村の人たちが駆け寄ってきて、花や手作りのお菓子を贈ってくれた(髪の色と耳の形をよく見て! エルフじゃないから! 人だから!)。
一番盛り上がったのは夜。賑やかなお店があったのでアメリアと窓から覗くと、サラが踊ってた。
来てたんだ! ……そっか、エリオの護衛だよね。
店からエリオが出てきて、テーブルに招いてくれた。聖少女と聖騎士そっくりな私の登場に、酒場は大盛り上がり。村のおじさんと騎士団の人たちは歓声を上げて、エールを掲げた。ウォルフなんか、狼の遠吠えみたいな声を出してる。みんな酔ってるでしょ?
テーブルにつくと、名物料理の山の幸が次々と運ばれてくる。もう、そんなに食べられないって。けど、どれもおいしい。
アメリアと一緒にちょっとずつ食べてると、踊りながらテーブルに来たサラに挑発されたので、一緒に踊ることにした。
火の踊りはフラメンコみたいな感じで、独特なリズムに合わせてターンやステップを繰り出す情熱的なダンス。腰を揺らす艶めかしい動きもあるので大人の女性の方が合ってると思うけど、柔軟性なら負けない。
サラが先に踊りを見せて、後からそれをトレースしていく――。「真似られるかい?」って感じでどんどん振り付けが難しくなっていったけど、どうにかついていった。
ラルとズーイの演奏もノリノリで、お店はもう割れんばかりの大拍手。いっぱいチップが飛び交って、サラも上機嫌だった。
◆ ◆ ◆
そして、夜が更けて――。
「リーゼって、踊りも得意なんだね」
教会の寝所で、アメリアが尋ねた。窓から差す月明かりに照らされた金色の髪がキラキラしてる。
「小さいころ、ダンスみたいな動きをいっぱい教えてもらったの。新体操っていうんだけど、いつかアメリアにも見せるね」
「うん! 見たい見たい!」
ノックがして、アメリアのお母さんが入ってきた。修道服じゃなくて部屋着を来てて、アメリアと同じ金色の髪を肩まで下ろしている。
アメリアのお母さんは、ベッドに座るアメリアの前に膝を着いて、手を取った。
「アメリア……先日、使者より知らせが届きました。真実を……知ったのですね?」
「うん……リーゼも知ってるよ」
「そう……」
アメリアの小さな耳にそっと口を寄せた。
「外に出てようか?」
「ううん、そばにいて」
「ええ、一緒に話をお聞き下さい、リーゼ様」
微笑んだ顔がアメリアにそっくりだ。
「アメリア……ごめんね、お父さんのこと……黙っていて」
アメリアの髪がふるふると揺れた。
「ううん……驚いたけど、大丈夫。ゴラン王様から聞いたよ、身分を超えて……好きになったんだって」
「そうよ……私とユーリィ殿下は……恋をしたの」
「うん」
アメリアがこくりと頷いた。その瞳をアメリアのお母さんは、じっと見つめている。
「あなたを公都ハーバルに送り出したのは、あなたの聖魔法が殿下の治療に役立つかも知れないと思ったからなの。聖騎士になれなくてもいい……いつか、きっとあの人のそばへ至れると……」
「そうだったんだ……」
お母さんの大きな瞳が潤んでいる。
「リーゼ様のおかげで、随分聖魔法が使えるようになったそうね」
「そうなの! 一緒に特訓してくれたおかげで、唱える回数も増えたし、力も強くなったの」
お母さんの大きな瞳がこっちを見た。
「聖騎士リィゼ様はおっしゃいました、この子があの方を越える聖魔法の使い手になると。……いつか、あの人を癒せますでしょうか?」
「うん、きっと。聖魔法が重い病気にどれぐらい効くのかわからないけど、命そのものを癒すことが出来るはずだよ」
アメリアが両手をキュッと胸で結んだ。
「私……きっとお父さんの元にたどり着いて、治してみせる」
「ええ……ええ……いつか、あなたの存在が公になれば、その時が訪れるでしょう」
月明かりの中、大切な人に想いを届けるように2人は祈りを捧げた。
明日はいよいよ、“闇の大穴”を封印する時。時間がなくて、高位回復薬をあんまり作れなかったのが気がかりだけど、きっと成功させてみせる。
けど、シャルミナって、平民の助けを拒否しちゃうしなぁ……。
つくづく身分の差って面倒くさいと思いながらも、リーゼは決意を新たにするのだった。
次回更新は、6/1(水)の予定だったのですが、本業のゲーム開発が忙しく、『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』は、5日(日)のアップ予定です。ごめんなさい…。
https://ncode.syosetu.com/n8373hl/
↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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