57 再びサノワへ
食堂のランチタイムに変化があった。隅っこの粗末なテーブルに、2人の少女が加わったのだ。
「私はジュリーン。ジュリィって呼んで」
「私はキャサラ。よろしくね、リーゼ」
「う、うん……」
少し年上だろうか? 突然の出現にリーゼは戸惑いを隠せない。シャルミナのテーブルに座ってた人たちだよね?
アメリアがモジモジしながら口を開いた。
「2人とは一緒に天幕で怪我した人の治療をしてたの。それで……仲良くなって」
「そうなんだ!」
それってお友だちってこと? リーゼの黒くて大きな瞳が驚きで丸くなった。
「アメリアと違って、私たちは回復薬を飲ませることしか出来ないんだけどね」
「魔法回復薬を何度も飲みながら聖回復をかけるアメリアを見てたら、平民だからって冷たくしてる自分たちが恥ずかしくなって……」
「うんうん――」
赤みがかった金髪のジュリィがうなずいた。キャサラは明るい栗色で、2人とも貴族の子らしく長い髪が腰まで伸びている。
「――種族も身分もごちゃ混ぜな冒険者を、分け隔てなく治療するアメリアみたいになりたいって」
「うん……国を護るために、この学園に入ったんだもの」
にっこりと笑う2人の顔にウソはないように思える。アメリアに初めて出来た貴族のお友だちだ。
ジュリィが、リーゼに向かって身を乗り出した。
「リーゼって、強いよね? ランドリック先生も一目置いてるみたい」
キャサラも続いて身を寄せる。
「泳げないくせに、アメリアを助けるために海へ飛び込んだって聞いたよ?」
立て続けに話す2人に圧倒されるが、リーゼは楽しく感じていた。みんなでたくさん話しながらのランチなんて久しぶり。
「それにしても……街を護った2人にそんな粗末な食事を出すなんて……」
目を落としたジュリィの先には、いつもの野菜スープと固いパンがある。
「私、抗議してこようか? 一緒のメニューにするべきだって」
キャサラも意気込んだが、リーゼはふるふると首を振った。
「ううん、いいよ。怒ったって変わらないのは知ってるから。けど――」
手にした固いパンが、なかなか引きちぎれない。
「こうして2人が来てくれたし、少しずつ変わる気がするよ」
その言葉の通り、シャルミナ不在のテーブルでは、数人の女の子がチラチラとこちらを見ていた。王城の戦いで救護所を作った女の子たちだ。苛烈な戦いを強いたシャルミナより、人を救って新しい絆が出来た聖少女のアメリアが気になるのだ。
リーゼの口の中いっぱいに、素朴な小麦の香りが広がった。
◆ ◆ ◆
数日後――。
復興していくハーバルの街の大通りを、馬車と騎兵の列がゆっくりと抜けていく。態勢を整えた騎士団が“闇の大穴”の封印に向かったのだ。
先頭で馬にまたがるシャルミナには、街の民から歓声が送られている。家や大きな建物に籠もっていた人々に細かな戦況はわからず、王家の姫であり聖騎士となったシャルミナが街を救った象徴なのだ。
続いて、公都の騎士団が続き、聖少女が乗る馬車を守るように監視砦の騎士団が続いた。
しんがりを務める馬上のヴォルフは、多くの冒険者の命を救った聖少女と、信奉する聖騎士リィゼにそっくりなリーゼを守れて満足そうだ。
“闇の大穴”の監視砦のふもとにはサノワの村がある。里帰り気分のアメリアは、リーゼとふたり遠足気分できゃっきゃとはしゃぐのだった。
次回更新は、5/22(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n8373hl/
もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
【大切なお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
応援して下さる方、ぜひとも
・ブックマーク
・高評価「★★★★★」
・いいね
を、お願いいたします!




