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55 聖剣の授与

 海辺での戦いに決着がついたころ、王城での戦いも大詰めとなっていた。


 中庭の壁を背にした最後の黒いムカデが、騎士たちに囲まれている。ムカデは巨大な鎌を振るうが、密集して盾を構える騎士たちを貫けない。

 グレープがムカデをひとつかみにして食べようとしたが、オイゲンが両手を広げて止めた。


「グレープ殿、ケリはワシらにつけさせてくだされ! 後生じゃ!」


 グルル……。鍛冶場で見かけた老ドワーフの願いを聞き入れたのか、巨大なトカゲは低く唸ると、横たわってはち切れんばかりの腹をさすり始めた。


「かたじけない」


 頭を下げるオイゲンの後ろで、クォーターエルフであり、ホムンクルスの体を持つシャルミナが、父であるゴラン王に歩み寄っていた。髪は乱れて、鎧もほころび、体のあちこちから半透明な赤い血が流れている。


「よくぞ、聖剣の炉を護った」

「はっ」


 シャルミナは王の前で跪いた。


 王は戦場の有様を見渡した。すべてが血に染まり、凄惨な戦いであったことがわかる。シャルミナの背後に控えるバルロイに問うた。


「この者の戦いぶりはどうであった?」


 シャルミナの肩がピクリと動いた。余計なことを言うのではないかと唇を噛む。だが、バルロイは――


「勇猛果敢に過ぎるところはございましたが、初陣では致し方ないこと。先頭に立って剣を振るっておられました」


 余計なことを言わなかった。王家の血脈を継ぐ者こそ聖剣を授かるべきであり、国に安泰をもたらすのだ。


「そうか……」


 バルロイの意を汲み取り、ゴラン王は目を伏せた。――リームが打ってくれた聖剣が、全てを導いてくれるであろう。


「シャルミナよ、愛を知れ。そして、聖剣に相応しい良き聖騎士となるのだ」


 愛? 愛だと? 愛など何の役にも立たない、無用の感情ではないか。シャルミナには全く理解できなかった。――が、求められているであろう答えを返した。


「深く心に刻みます」


 王は頷き、聖剣をシャルミナの眼前に呈した。たとえ、上辺の返事であっても、いつか気づく時が来る。

 シャルミナは差し上げた両手で聖剣を受け取ると、勢いよく立ち上がった。


「祖母リィンの意志を継ぐ日を、一日千秋の思いで待ち焦がれておりました。鍛え抜いた我が剣、とくとご覧あれ!」


 金色の炎を模した装飾の鞘から、聖剣が引き抜かれた。その柄には、王家の紋章である剣とハンマーが刻まれている。


 おおっ、と傷ついた騎士たちが目を見張った。鍛冶屋リームによって折り重ねられたハイミスリルの剣身から、目も眩むような青白い輝きがほとばしったのだ。


 シャルミナは、そのまま聖剣を天空に突き上げた。


「【聖なる剣(ホーリーソード)】!」


 聖なる力が付与エンチャントされ、青き剣が金色に姿を変える。


 騎士たちがさらに沸いた。国の姫君が真の聖騎士となる瞬間に立ち会えたのだ。


「“闇の空”の最後のかけらよ、無に還るがいい!」


 聖騎士が跳ねた。高々と、身の丈の数倍はある黒いムカデの頭頂部まで。


「ハァッ!」


 振り下ろされた聖剣が、ムカデの黒い体を両断した。


 ――聖なる力によって再生が叶わぬ2つの黒い固まりは、やがて霧散していった。



  ◆  ◆  ◆



 ワアァアァァァァァァ!


 歓声が聞こえる。ミスリルクローを外してピンクに戻ったクマが、街の向こうの城を見やった。


 砂浜に集まった騎士や冒険者たちも、傷ついた体を寄せ合いながら、まばゆい金の光を放つ城に目を向ける。


「どうやら、戦いが終わったようだね」


 人の合間を抜けて、サラが現れた。右手を押さえて、足取りがおぼつかない。だが、その瞳には力が戻っている。


「狂王殿も駆けつけてくれたのか。……聖少女様が無事でよかった」


 ピンクのクマの腕の中で、アメリアは眠っている。


「リーゼは?」


 ピンクのクマは返事の代わりに、顎をクイと上げた。

 振り返ると、街の建物の隙間から聖魔法の輝きがボウッと浮かび上がっている。


「あそこは、ラルたちが倒れた辺り……。大丈夫だと言ったのに……あの子らしいよ」


 リーゼは聖騎士リィゼとなり、傷ついた者たちに聖回復ホーリーヒールをかけて回っていた。


次回更新は、4/27(水)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n8373hl/

もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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