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08 旅商人

更新履歴

2024年09月27日 第3稿として、大幅リライト。

2021年12月08日 第2稿として加筆修正

 街へ戻ると告げたリーゼに、ウィンディが呆れたように言いました。


「【ゲート】に【マイルーム】だなんて、ホントにことわりの外にいるヒトね」

「珍しい?」

「【ゲート】は伝説級、【マイルーム】にいたっては前代未聞ってところかしら」

「そっか……やっぱり知られないようにしないとね」

「それが無難よ。ヒトであれ、なんであれ、刺激しないに限るわ」

「うん、気をつける」


 ピンクのクマが寂しそうに吠えました。


「アカべぇはここを守らなきゃ。けど、助けて欲しいときは呼ぶから、よろしくね」

「ウガッ!」


 勇者の忠実な従者は、胸に手を当ててキリッと敬礼しました。

 ――そんなポーズどこで覚えたの? と、リーゼは思いましたが、300年以上も生きていれば、クマの騎士団にでも所属したことがあるのかもしれません。


「それじゃあね、ウィンディ」

「いつでもいらっしゃい、リーゼ。暮らし、よくなるといいわね」

「うん!」


 リーゼは【ゲート】を開くと、光の中へ消えていきました。

 300年ぶりに現れた勇者を見送った夜の妖精は、すべてを見通す赤い目を悪戯っぽく細めました。


「ホントのあなたは……どれ・・なのかしらね?」


 ピンクのクマにはなんことか分からず、大きな頭を傾げて「?」を浮かべるばかりなのでした。



  ◆  ◆  ◆



 【ゲート】で森の入口まで戻ってからの帰り道――。リーゼはゆっくりと【マイルーム】で休みを取りながら歩いたので、山の終わりに近づいたのは、三日目の夕方でした。

 背中のリュックには、ヨルリラ草がいっぱい詰まっています。

 ――みんな、もうすぐ野菜スープにお肉が入るよ!

 リーゼはウキウキが止められず、思わずスキップしてしまうほどでした。


(あ、【ゲート】しとかなきゃ)


 そう、大事な【ゲート】を忘れてはいけません。リーゼは山道をちょっとそれると、【ゲート②】をマークしました。これでオーデンの街のそばへいつでも戻ってくることが出来ます。


「うあぁっ! くそっ! 来るなっ!」


 山道の方から、男の人の叫び声が聞こえてきました。

 勇者になる前なら、近寄らないリーゼですが――。


(駆けつけないわけにいかないよね)


 最強のクマ族であるブラッディマッドベアでさえ余裕であしらえたのですから、街の近くに出てくるような低レベルのけものや魔物なら、難なく退けられるはずです。

 リーゼは林の中を声がした方へ走り、木の陰からこっそりと覗きました。


 男が1人、5頭のオオカミに襲われています。毛の色が灰色なので、多分グレイウルフでしょう。オオカミ族で一番弱いけものですが、群れで攻撃してくるので油断出来ません。――もっとも、レベルが低いうちだけですが。

 男は剣を構えていますが、囲まれてしまっているので分が悪そうです。

 リーゼは木陰から出ると、グレイウルフに向かって歩き始めました。


「君、下がって! 危ないぞ!」


 あまりにも無防備に近寄ってくるリーゼを見て、男が声を上げました。

 男の髪は金色で、左目が長い前髪で隠れています。


「多分、大丈夫。そのままそこにいて」

「なんだって?」


 グレイウルフたちは、リーゼに気づくと毛を逆立てました。――ですが、リーゼは気にすることなく、男とグレイウルフの間に割って入ります。


(なにもしないからどっか行って)


 リーゼがキッとにらむと、グレイウルフたちが尻込みしました。耳と尻尾の緊張が弱まり、今にも戦意を喪失しそうです。

 男には事態が飲み込めません。獰猛なオオカミが、目の前のか弱そうな少女を恐れているとでもいうのでしょうか?

 男は前髪を指先で持ち上げると、あらわになった赤い左目でリーゼを凝視しました。


「なっ……馬鹿な……あり得ない……」


 男の口から、思わず声が漏れました。どうやら、リーゼが信じがたい存在であることを理解したようです。

 なかなか立ち去らないグレイウルフたちに、リーゼが1歩だけ間合いを詰めました。


(怒るよ)


 リーゼの眼光におののいたグレイハウンドたちは、子犬のような鳴き声を響かせて、林の中へ逃げ去っていきました。


「ふぅ……」


 リーゼのなだらかな頬が膨らんで、大きな息を吐きました。傷つくのも傷つけられるのもイヤなので、戦わないに越したことはありません。


「あ、ありがとう。君は……」


 振り返った少女を見て、男は息を飲みました。艶やかな黒髪が風になびき、大きな黒い瞳が輝いています。――そう、選ばれるとはこういうことなのです。


「私はリーゼ。オーデンへ帰るところ」

「そ、そうか。私は旅商人のエリオという」


 エリオと名乗った男は胸に手を当て、頭を下げました。


「助けて頂き感謝を。どうやら【魔除けの香】の効果が切れてしまっていたようで――」

「ふうん……そう……」


 リーゼは少し考えてから、視線を外して素っ気なく言いました。なぜか頬が赤く染まっています。


「わ、私も【魔除けの香】をつけておいたんだよね。よかったよ、効いたみたいで」


 子供らしい下手なウソに、エリオは笑ってしまいそうになるのを堪えました。どうやら、グレイウルフを追い払ったのは自らの強さではなく、【魔除けの香】のおかげいうことにしたいようです。


「そうでしたか。私もオーデンへ向かう途中なのです。ご一緒させてもらえませんか?」

「いいよ。また襲われると困るものね」

「助かります」


 エリオと名乗る旅商人は、束ねた背中の髪を左の肩口から前に回すと、細身の体に似合わぬ大きな荷を背負いました。


「おじさんって……」

「お、おじ……」


 エリオの見えている方の青い目が動揺しました。


「ちょっと待ってくれ、まだ22歳なんだ。お兄さん……いや、エリオって呼んでくれないか?」

「呼び捨てで?」

「私も君をリーゼと呼ぶ。それでいいだろう?」

「……まぁ、いいけど。じゃあ、エリオ」

「なんだい?」

「旅商人……なんだよね?」

「その通りです」

「じゃあ、孤児院までついて来なよ。リュックの中身、見せてあげるから」

「ほほう、商いの話かい? なら願ってもないことだ。喜んでお邪魔させてもらうよ」



  ◆  ◆  ◆



 オーデンの街の門では、シスターやダニーたちが揃って帰りを待っていてくれました。

 リーゼは思います、心配かけてゴメンなさいと。


(話せないことばっかりだけど、すごいことがいっぱいあったよ)


 そして、夕日に浮かぶ笑みが伝えるのです。

 みんなでおいしいご飯、食べようね、と――。

【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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