48 聖少女の理由(わけ)
“闇の空”が落ちる数日前、リーゼとアメリアは聖騎士学園の中庭にいた。いつものように、固いパンをかじってランチタイム。
「アメリア、もうすぐ“闇の雫”が落ちると思うけど――」
少し沈んだ声に、アメリアがパンを運ぶ手を止めて顔を上げると、リーゼの真剣な眼差しがあった。
「危なくなったら逃げて」
「どうしたの? あらたまって」
「私がそばにいられるとは限らないから」
「そっか……」
リーゼはいつも、気にかけてくれる。サノワを救ってくれたのも、きっとリーゼ。今度はこのハーバルの街を救うつもりだ。――心配かけちゃいけない。
「大丈夫、私にはこれがあるから」
アメリアは、おもむろに襟元から腕を突っ込んで、首紐で繋がれたナイフを取り出した。
「それは……」
木の鞘と、皮が巻かれた握りのありふれたナイフ――。なのだが、鞘にらせんを描くリボンが浮き彫りになっている。
「リボンが彫られてる……」
「かわいいでしょう? 打ってくれた鍛冶屋さんの銘がリボンなんだって」
やっぱり、私が打ったミスリルナイフ! 何でアメリアが持ってるの!?
リーゼはナイフを打った時のことを思い出した。あの時、ゴランおじさんは……
「我が知人の娘に、護身用として贈りたくてな。小ぶりのナイフで構わぬ、打ってはくれぬか?」
確かにそう言った。知人の娘? ん? アメリアは聖騎士学園に入学した時……
「すごく位の高い騎士様が推薦してくれたみたいで……」
って、言ってた。……推薦したのはゴランおじさんで間違いない。じゃあ、なんで推薦した? もちろん、聖少女だから。
待って、待って……よく考えたら、なんでアメリアだけが聖魔法を使えるの? それは――
(聖騎士リィンさんの血を引いてるからじゃない!? だから、ミスリルナイフを渡したんだ!)
知人の娘なんて、ウソ。アメリアは……ゴランおじさんの娘? それか、孫? どっちにしても王族の隠し姫……。
「あのね、このナイフは誰にも見せちゃいけないって、お母様に言われたの。けど、リーゼならいいかなって」
はにかむアメリアがすっごくかわいい。まるで、絵本に出てくるお姫様……。
「アメリア……」
「ん?」
「いざとなったら、そのナイフに聖魔法を込めて。きっと助けてくれるから」
真剣なリーゼの眼差しに、アメリアはこくりと頷いた。
「うん、わかった。リーゼの言う通りにする」
◆ ◆ ◆
西の街の戦いに、時と場所は戻る――。
液魔に苦しむ冒険者を助けるため、アメリアはミスリルナイフを抜いた。
――リーゼ、信じてる!
「聖なる力を込めて! 魔よ退け!」
アメリアの叫びに呼応して、ミスリルナイフの刃が凄まじい金色の光を発した。魔を飲み込み、冒険者を飲み込み、光の柱が天を貫く。
「あれは……」
ランドリックが天を見上げた。
ウガ?
真紅のクマが、西を見て首を傾げた。
そして――
城の中庭で戦うシャルミナの目にも、神々しい光が映った。
「あの光は……」
驚愕して収縮する瞳に悔しさがにじみ出る。ムカデの鎌を剣で払いながら、あからさまに舌打ちをした。
「チィッ、覚醒したのか!? なぜ、剣も振れぬ忌々しい妹にあんな聖魔法が……」
自分は秘術を受けて、やっと聖魔法が使えるようになったというのに……。
「聖なる剣!」
シャルミナの剣が金色に輝いた。だが、その輝きは弱々しく、光の柱とは比べものにならない。
――そう、聖騎士リィンの力は、
剣の力を、姉のシャルミナに、
聖なる力を、妹のアメリアに、
母の違う2人の姉妹に、分けて受け継がれたのだ。
次回更新は、2/20(日)に『脂肪がMPの無敵お嬢さまは、美少女なのにちっともモテない!』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n8373hl/
もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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