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41 聖剣打ち

 パキィーン!


 リームの身の丈よりも大きいハンマーが、灼熱のハイミスリルの塊を打った。


 職人たちが「おおっ」と感嘆の声を上げた。以前、ロアンの鍛冶場で、リームがミスリルを打った時よりも一際音が甲高い。震える鼓膜が痛いほどだ。


 2撃、3撃と、ハンマーが振るわれていく。


 やっとこを持つゴランの額に、早くも汗が浮かんだ。


(速い――さらに鋭さを増している。ミスリルをくれてやった甲斐があるというものだ)


 ゴランは先日、ハーバルの護りのために、2つの武器を作るだけのミスリルをリームに渡した。出来上がった武器をリームの信頼する者に授けてよいとすれば、包丁しか打たぬリームも武器を打つと考えたのだ。聖剣を打つ前に、武器を作らせておく――その思惑が、見事に当たっていた。


(ワシのすべてを注ぎ込む!)


 ゴランの残った左目が、鍛え上げたはがねのような輝きを放った。


 相手の技に驚いているのは、リームも同様だった。


(すごい……打つべき所にハイミスリルを向けてくれる。これなら、ハンマーを振るだけに集中できる)


 リームがハンマーを振るう度に、ゴランはやっとこで灼熱のハイミスリルを動かし、鍛えるべき場所を的確に示していた。


 伸ばして、畳んで、また伸ばす――最大硬度に近いハイミスリルが、いとも簡単に形を変えていく。


 やがて、温度が下がったハイミスリルを、ゴランが素早く炉に差し入れた。すかさずグレープが炎を吐いて温度を上げる。初老を迎えようかというドワーフの男と、年端もいかぬドワーフの少女、そしてトカゲの姿をした闇の精霊による、種族を越えた連携がそこにはあった。


 リームは頬を伝う汗を袖で拭うと、【ダイレクトチャット】でアカべぇを呼んだ。


「アカべぇ、すぐ来て!」


 ウガッ! どこからともなく返事がすると、リームの背後に光の扉が現れ、のっそりとピンクのクマが出てきた。あれ? 小さくない? 【マイルーム】にいる時ぐらいのサイズなんだけど?


 妖精ウィンディーネが、アカべぇの周りを飛んで、光の粒を降り注いでいた。


「もう! 私が小さくしなきゃ入れなかったわよ。感謝してくれなきゃ」

「ウィンディ、ありがと!」


 地下にある三日月の湖になぜかある夜空もそうだけど、ウィンディには空間とか存在をちょっと変える力があるみたい。妖精の存在自体が幻想だと思われてるし、幻で“そう見えるようにされてる”だけなのかもしれないけど。


 「妖精だ!」「まさか!」「夢を見てるのか……?」職人たちが驚きのあまり、体を後ろに引いた。歳を重ねたオイゲンでさえ、目を見張っている。


 ゴランの口元が、苦笑いで引きつった。


業火の精霊(ヘルサラマンダー)と森の狂王に続いて、妖精とは……。もう何が起こっても驚くまいと心していたのだが……)


 オーデンの街で妖精を目の当たりにしていたエリオだけが、信じがたい光景を平然と受け入れていた。


「アカべぇ、ゴランおじさんのやっとこの使い方見てて。勉強になるから」


 ウガッ! ピンクのクマは小気味よく返事をすると、リームの傍らにちょこんと座った。え? 正座なの? かわいくない?


 ゴランが、熱を取り戻したミスリル鉱を炉から取り出した。ここを打て、と言わんばかりに灼熱のハイミスリル鉱を金床に置く。

 いくよ! とばかりにリームのハンマーが、ハイミスリル鉱を打ち付けた。


 パキィィーン!


 火花と共に、不要な成分が飛び散った。


「お、俺たちももっとそばで見るぞ!」

「おお!」


 遠巻きに見ていた職人たちが、邪魔にならない隔たりを残しつつも取り囲んだ。熱を帯びた職人たちの目に、リームのハンマーのひと振り、ひと振りが焼き付けられていく。


 人嫌いのアカべぇも、じっとゴランの手元を見つめていた。



  ◆  ◆  ◆



 その夜更け――。


 王城の廊下を、1人の若い騎士が駆けていた。ガシャガシャと鎧が擦り合う音を立てながら、何処かへと向かっている。


 名もない騎士は、息を乱しながらも歩を緩めることはない。


(急ぎ、王にお伝えせねば。“闇の雫”が……“闇の雫”が……)


 それは、“闇の大穴”から空を覆うような――未曾有の“闇の雫”が放たれたとの報であった。

あけましておめでとうございます。2022年もよろしくお願いいたします。


【次回予告】

聖剣を打つ中、放たれた未曾有の“闇の雫”。いよいよ決戦が始まります。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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