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22 魔王の波紋

更新履歴

2025年 5月1日 第3稿として大幅リライト

2021年 12月21日 第2稿として加筆修正

 ルクシオール王国の西には、王国よりもずっと広い領土と、強大な軍事力を誇る帝国ダキオンがあります。ルクシオール王国と帝国ダキオンは、千年以上も軍事的な小競り合いを続けていますが、全面的な戦争には至っていません。それは――両国の国境に横たわる険しい山脈のおかげです。

 加えて、もう1つ理由があります。山脈の北の果てに魔族を統べる国があるから。魔王国イザークは険しい山々に囲まれているだけでなく、常に瘴気が立ちこめているので、人族には難攻不落の魔境なのです。

 300年前に勇者が魔王を滅ぼしたことによって、魔王国は弱体化するかに思われましたが、未だにその脅威は顕在で、ルクシオール王国、帝国ダキオン、魔王国イザークは互いに隙を見せられない、三すくみの状態にあるのです。


 その魔王国の王城にて、20歳ほどの若き姿をした王は、ルクシオール王国の辺境から届いた波動を感じていました。


「これは――」


 王座に預けた裸の上半身がピクリと動きました。血の気のない青い肌が、ざわざわと泡立ちます。

 側近らしきサキュバスの女が、王の間に駆け込んできました。


「イザーク様! 今の波動は!」

「ああ……300年ぶりだな。懐かしい波動だ。……新たな魔王が現れたらしい」

「今や、魔王はイザーク様! 捨て置けませぬ!」

「案ずるな。俺が真の魔王となる時がやってきただけだ。――新たな魔王を生け贄としてな」


 わずかにウェーブがかった黒髪の下で、金色の目が不敵な光を帯びました。



  ◆  ◆  ◆



 ルクシオール王国の北東に位置する小国、天聖皇国イルミナの皇宮においても、魔王の波動を感じ取った者がいました。

 銀色の水が満たされた大理石の泉に、仰向けの裸身からだを漂わせたその女は、目を閉じたまま思いを口にしました。


「そうか……魔王がまた現れたか。イザークに奪われるわけにはいかぬな」


 瞼が開かれて、あらわになったその瞳は、血のような真っ赤な色をしています。


「まずは……どれほどの者か、確かめるとしよう」


 泉の中央に置かれた人ほどの大きさの妖精像――どこか悲しげなその像が掲げる器からは、銀色の液体がこんこんと流れ出るのでした。



  ◆  ◆  ◆



 リーゼはのんきに【マイルーム】でグレープにエサをあげています。


 グレープは【マイルーム】に入ると、リーゼの腕ほどのトカゲに変わりました。見た目はイグアナに似ています。リーゼの手ずからヨルリラ草をムシャムシャと食べている姿からは、畑をあっという間に焼き払ったり、最強のクマ族であるアカべぇと渡り合ったりした恐ろしさは感じられません。それどころか、ダイニングテーブルの上に置いた止まり木が気に入ったのか、クルルルと甘えた声を出しています。


「トカゲを飼うなんて思いもしなかったけど、飼ってみると意外と表情あるし、かわいいね」


 後ろで覗き込んでいたピンクのクマが、「ウガッ!」と返事をしました。

 そんな1頭と1匹を見て、ウィンディーネが悪戯っぽく笑います。


「クスクス、この調子で従者が増えていくと、ここも動物園みたいになっちゃうんじゃない?」


 妖精らしい気楽さに、リーゼの頬がふくれました。


「もう、人ごとなんだから。従者はもう十分! 集める気もないし、戦いなんかしたくないし!」

「あんたがその気でも、世界が放っておかないって。強い者を邪魔に思うヤツらはいっぱいいるんだからね」

「……また、そうやって脅す」

「もっとも、アカべぇとグレープで小さな国なら滅ぼせるだろうし、戦力としてはもう十分かもね」


 ピンクのクマが胸を張って吠えました。


「ウガッ!」

「滅ぼさなくていいから!」


 パステルパープルのトカゲが、勢いよく舌を出しました。


「シャーーッ!」

「だから、滅ぼさなくていいから!」


 従者2人のおどけた仕草に、リーゼのふくれっ面が緩みました。――ですが、すぐに真顔に戻ります。


「もう……オーデンにはいられないかなぁ」


 妖精がどうにもならなそうな面持ちで、両手を頭の後ろで組みました。


「……あれだけの騒ぎになっちゃったし、これまでみたいに暮らすのは無理じゃない?」

「だよね……」


 寂しいけれども、旅立つ時が来たのかもしれません。リーゼは初めてたどり着いたオーデンの街で、もう十分にこの世界のことを学びました。そもそも転生して降り立った草原で、世界中を旅したいと願ったのです。

 妖精が怖い笑みをわざとらしく浮かべました。


「いっそ……魔王になって、世界を征服して回るってのはど~お? あんたなら、あっという間に支配者にィ……」

「魔王はダメ! あれは封印! 空から風で火を消したかっただけだから!」

「イヤなの? 魔王になるの」


 リーゼが真っ赤になってうなずきました。


「服がね……イヤなの。恥ずかしいから……。あんまりなりたくない」


 せっかくかわいいゴスロリの服に着替えてたのに、初期服に戻っちゃって……。と小声で続けましたが、何のことだか誰にもわかりません。


 妖精がケタケタと、空中で笑い転げています。

 人族は、魔王に対抗するために勇者やたくさんの軍隊を送り込んできました。その末に、300年前の魔王は滅んだのです。――それなのに、レベル判定不能という前代未聞の大魔王を、恥ずかしい服がこれまでずっと封印していたのです。

 妖精はあまりのおかしさに、いつまでも足をジタバタさせていました。

【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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