17 キャラクターチェンジ
更新履歴
2024年11月16日 第3稿として、大幅リライト。
2021年12月15日 第2稿として加筆修正
真っ暗な通路を抜けて、マント姿の男がたいまつの火を壁の燭台に移すと、地下牢の一室が浮かび上がりました。
ゴツゴツとした石の壁には血の跡が飛び散り、四肢を貼り付けにするための鎖が埋め込まれています。――男たちはここで何をする気なのでしょう? さすがのリーゼも肌が粟立ち、声を上げそうになるのを必死に堪えました。
「クックックッ、臆病な父上が封印した地下牢を、私が蘇らせようというのだ。先祖もさぞかし喜んでおろう」
フィリッポスが愛おしそうに、壁に染みこんだ血の跡を撫でました。
「半世紀以上も血を吸っておらぬこの壁も、血しぶきが飛び散る時を今か今かと待ちわびておる」
「ひどい……バカだとは思ってたけど、心の底からバカだね」
黒い瞳がフィリッポスをにらみつけました。おぞましさで震えた体が、今は怒りで震えています。
「やめるなら今のうちだよ。今、ものすごく怒ってるから、どうなっても知らないよ」
「クフフフ……安心するがいい、お前は傷つけぬ。価値が下がるからな」
「え?」
フィリッポスたちはニヤつきながら牢を出ると、鉄格子の錠前に鍵をかけました。
「ずらりと並ぶ地下牢に孤児院の者たちが繋がれ、夜通し泣きわめく姿をたっぷり味わうがいい!」
リーゼが鉄格子に飛びつきました。
「なっ!? なんでそんなこと!?」
「天聖教会の求めでな。異端の孤児院は排除せねばならぬ」
仰々しく天を仰ぎながら、フィリッポスが続けます。
「おぉ……ようやくあの美しいシスターを手に入れられる。汚らしい孤児どもは、たっぷり教育した上で奴隷商に引き取らせよう」
リーゼがゴルドフをにらみました。
「大人しくここに来れば、エミリーには手出ししないって!」
「そんな約束、しておらんなぁ~」
「このっ! ウソつきっ!」
鉄格子を揺さぶりますが、リーゼの小さな手ではビクともしません。
フィリッポスがニタニタと白い歯を見せました。
「孤児たちの悲鳴がすべて途絶えるころには、お前も素直になっておろう。……いや、お前が素直に余に従うのであれば、そのエミリーとかいう娘も、痛い目に遭わずにすむかもしれんぞ?」
「ウソばっかり! 私がなにしたって、みんなにひどいことするくせに!」
「クハハハッ! すぐに奴隷らしく、余に媚びるようになる」
フィリッポスがマントをひるがえしました。
「行くぞ、ゴルドフ。孤児院で異端の者たちが待っておる」
「はっ」
「待って! わかった! わかったから! 踊りくらいいくらでも踊ってあげるから! 孤児院には手を出さないで!」
リーゼの叫びをよそに、フィリポスの足音が高笑いとともに遠ざかっていきます。やがて通路の先にある鉄格子が締まり、階段を上がる音が消えました。
(どうしよう、みんなが襲われる。なんとかしなきゃ!)
鉄格子に手枷を叩きつけますが、大きな南京錠はビクともしません。
(どうしよう……どうしよう……)
気持ちばかりが焦ります。
◆ ◆ ◆
サラたちは、領主の古城のそばにある建物の屋根から、高い壁の向こうをうかがっていました。
太鼓の奏者である小太りな男が、サラの耳元でささやきました。
「サラ様、門をご覧下さい」
言われるままに目を移すと、門から出て行く騎士の一団が見えました。先頭の馬に乗るのは――フィリッポスです。
「どこへ向かうつもりでしょう?」
「……決まっている、孤児院だ。全て略奪するつもりだろう」
「それでは、エリオ様が! まだ孤児院におられるはず!」
サラは一瞬だけ思案して、淀みなく命じました。
「ズーイは孤児院へ戻り、エリオ様をお守りしろ」
「はっ」
弦楽器の奏者である背の高い男がうなずくと、孤児院へ向けて駆けていきました。
「ラルは私と共にリーゼ様をお救いする。兵が手薄になった今が好機だ」
「はっ」
火のサラの切れ長の目が、城の尖塔に向けられます。
(今すぐ助けるよ、リーゼ。あんたのことは私も気に入ってんだ)
◆ ◆ ◆
(落ち着いて、落ち着いて、まずこの鍵を外さなきゃ)
リーゼは大きく息をして、考えをまとめようと努力していました。
――壁に打ち付けてもダメ、指をすぼめて引っこ抜こうとしてもダメ、雷撃で焼き切るのはできるかもしれないけど、大木が倒れる魔法を自分の手に使うってどうなの?
「あ~もう! 盗賊ならすぐ外せるのに!」
はっと我に返りました。
(【キャラクターチェンジ】……できるんじゃない?)
【ゲート】も【マイルーム】も使えました。なので、魔法のみならずシステム系のコマンドも使えるのです。――けど、まさか【キャラクターチェンジ】までは……。この世界にリーゼとして転生したので、他の子に変われるなんて思いもしませんでした。もし変われるなら、あと6キャラ自分がいることになります。しかも、すべてレベル120です。
「試すしかない! みんなを助ける力を私に!」
“キャラクターチェンジ! 盗賊リーニャ!”
ショートカットワードを唱えると、どこからともなく現れた光が、みるみるリーゼの体を包んでいきます。
そして――輝く光のシルエットに、ネコ耳がピョコンと立ったのです。
【大切なお願い】
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