33 結界はいつも夜遅く
瘴気で星が閉ざされた夜――。荒れた地にポツンとある村は静まりかえり、村をぐるりと囲む木の柵から漏れる明かりもない。
柵から少し離れた岩陰に身を隠したリーゼは、先ほどエリオに言われたことを思い出していた。
「この辺りの村は皆、トルガ村と同じ作りをしています。円形の村の中央にため池があり、放射状に家が並んでいる。ご存じのように、偽結界は池の真ん中です」
エリオが待機する馬車は、さらに村から離れた枯れ木の横で待機している。
「再結界は夜中に人知れず行わねば、あとで騒ぎになりかねません。くれぐれも姿を見られないように」
結局、夜中にこっそりやるしかないのか。と、リーゼは思った。
「主様、【範囲睡眠】で村人を深い眠りに落とせば、気づかれることはありませんよ?」
腰の剣がもっともなことを言った。――が、村全体を覆うような【範囲睡眠】が使えるのは、天使か魔王ぐらいしかない。どちらもアメリアにあんまり見せたくない姿だ。
「ん~、勇者って睡眠魔法が使えないんだよね。だから、このまま行って、ささっとやっちゃう」
「……わかりました。ご判断に従います。どうせ、リーゼ様を人の世から隠し通すなんて、出来ないですからね!」
剣がケラケラと笑って揺れた。
「私って、そんなに目立つ?」
「それはもう。黒い髪と瞳な上に、強すぎますから」
「はぁ……戦いたいわけじゃないのに」
「リーゼ様は自由であればよいのです。どこまでもお供しますよ」
「私も行く!」
アメリアが両手の拳をぎゅっと握った。
「よーし! アカべぇ、おいで!」
肩を並べるリーゼとアメリアの背後が輝いたかと思うと、四角く光のゲートが開き、ピンクのクマがのっそりと現れた。
「私たちを乗せて、あの村へ行って。こっそりだよ。村の人を起こさないようにね」
ウガッと、ピンクのクマは敬礼した。
ああ、ダメだ。絶対に目立つ。馬車から見ていたエリオは、額に手をあててうつむいた。
◆ ◆ ◆
「それで、どうなったのですか?」
公都ハーバルを見渡す王城の執務室で、平穏な町を眺めながらシャルミナが尋ねた。
「結界が光った途端にいくつかの窓明かりが漏れたので、少なからず見られてしまったようです。アメリア様の聖魔法なので、光はさほど強くなかったのですが……。そもそも、アカべぇ殿が目立ちすぎるのです」
「フフッ、リーゼ様らしい」
振り返ったシャルミナの穏やかな笑みを見て、エリオは思った。
(お変わりになられた)
銀色に輝く髪が窓からそよぐ風に揺れて、王族らしい風格を感じさせる。
「リーゼ様は、どうされているのです?」
「聖騎士学園に戻られて、アメリア様と過ごされています」
「そうですか……。妹と一緒なら安心ですね。うらやましい……」
ゴラン王が隠居を決め込んだせいで政務が忙しく、リーゼと会えない歯がゆさがにじみ出ていた。自分に正しい道を示してくれた恩人であり、命を授けてくれた天使様だというのに――。
「週末は、2人で海へ出かけるそうですよ」
「海へ?」
「この街へ来た時から、ずっと行きたかったとか。泳ぎを教わるそうです」
泳げないのはリーゼ唯一の弱点といっていい。
「そう――。週末ね」
シャルミナはまた、穏やかに微笑んだ。
次回更新は、6/19(水)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
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