表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/129

32 先代の聖女

 リーゼが駆け出したアメリアに追いつき、2人揃って屋台に取りつくと、白い髭の大男が油の爆ぜる音を立てていた。


「ドーナツっ!?」


 大鍋の油で揚げられるもったりとした輪っかの生地は、紛れもなくドーナツだった。


「リーゼ、知ってるの?」

「うん! よく食べたよ。ママが作ってくれたことあるし」

「うむ、これはドゥナッツといって、この街の名物でな」


 初老の男は慣れた手つきで、丸い鍋の上に置かれた半月状の油切りからドゥナッツを2つ取り出すと、サッと粉糖にまぶした。

 うわぁ……。甘そうな香りにリーゼとアメリアの顔がほころぶ。


「この街にも光が戻った。また以前のように豊かな暮らしが戻るだろう」


 初老の男は話ながらも手を止めることはなく、ドゥナッツを1つずつ紙に包んで、リーゼとアメリアに手渡した。


「ほら、食え」

「いいの?」

「ああ、食ってくれるとうれしい」


 リーゼとアメリアは、後から追いついたエリオに振り返った。


「その方の気持ちです。受け取って差し上げてください」


 そうとなればもう遠慮することはない。リーゼとアメリアは我先に大口を開けて、ドゥナッツにかぶりついた。


「あつっ、あつっ……甘ーーい!」

「おいしいーーっ!」


 2人とももぐもぐとあっという間に平らげたので、初老の男は慌ててもう1つずつ差し出した。


「まさか皇帝が寄越した聖女の結界が役立たずとはな……。先代の聖女様が健在なら、こんなことにはならなかったんだが……」

「先代の聖女?」


 リーゼが口の周りを真っ白にしながら、小首を傾げた。


「ああ……ポリィーナ様といって、強い聖魔法で帝国中に結界を張り巡らし、国を護られたお方だ」

「アメリア、知ってる?」

「うん……話には聞いたことがある。身分にこだわらず、民をお救いになったって」

「うむ……それ故に天聖教会に睨まれてな……。若く美しい聖女が天聖教会より送り込まれると、皇帝は年老いたポリィーナ様を用済みと、魔族領へ追放してしまった」

「そんな……」


 アメリアの瞳が陰った。山に囲まれ、魔族がひしめく魔族領へ追いやるなんて、死地へ向かえと言うに等しい。


「もう……生きてはおられまい……」

「……」


 そうかな? とリーゼは思った。帝国中に結界を施したほどの人なら、聖魔法で身を守ることが出来るかもしれない。

 背後のエリオが、少女2人の小さな頭の間で耳打ちをした。


「さ、お2人とも、出発しますよ。のんびりしている暇はありませんから」


 はぁ~い。少女2人が声を揃えて返事をした。瘴気に襲われている村に向かうとは思えないのんきさだ。


「さぁ、土産を持って行くがいい」


 初老の男は紙袋に5つ、6つとドゥナッツを詰め込み、リーゼに渡した。


「いいの?」

「ああ、道中気をつけてな」

「うん。ありがと」


 我先に駆け出したリーゼとアメリアに残されたエリオは、初老の男に向かって深々と頭を下げた。

 初老の男もエリオと変わらぬほど頭を下げている。


我が領地(ゲルツハーン)を頼む……)


 屋台の男は魔族領に隣接する一帯を治める領主、ゲルンハルトその人だった――。

次回更新は、6/19(水)に『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n1211ig/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ