31 天使の街へ
「ふぅ……ごちそうさまでした」
地獄の亡者の様な顔から戻ったリィンは、まるでフルコースを食したあとのように左の指先で口元を押さえた。右の指先には光を失った魔石がある。
「お婆様……まだ……闇に囚われて……?」
アメリアが心配そうに眉をひそめた。
「う、ううん、そうじゃないのよ。闇とずっと一緒にいたから、仲良くなっちゃった感じ?」
リィンの両手がせわしなく動いて、まるで子供のように慌てている。
「そう……なんですか?」
「そうなの。面白いでしょう? 天使様の剣の私が闇を内包してるなんて。リーゼ様の前では、闇も愛すべき存在なのよ」
はっとした金色のつぶらな瞳が、リーゼを見た。
「闇と聖は、ただ属性が違うだけだよ。みんなを助けたグレープだって、闇のトカゲだし」
「そ、そっか……」
「すっごく怖い見かけの子は、リボンでもつけてよって思うけど」
フフッ、クスクス。
2人の少女が、顔を見合わせて笑い合った。そんな光景を生きて(?)見られたことをリィンはうれしく思う。
「さ、聖魔法を込めるから、見てて。アメリアにも絶対できるから」
「うん!」
リーゼは片膝をつくリィンの指先から魔石を受け取り、ひょろっと背の高い暗殺者に言った。
「聖騎士になるから、ズーイは扉の向こうに行ってて」
「こ、ここにいてはダメなのですか?」
「そう、恥ずかしいから」
「……わかりました」
なぜ恥ずかしいのか疑問に思うが、主が心の主と定めるリーゼの命には従わなければならない。ズーイは名残惜しそうに木の扉を開け、出ていった。
“聖なる鎧を身に纏い
立ち向かうは、悪しき軍勢
下がれ! 私が盾となる!
聖騎士リィゼ、光と共に!”
初めてキャラクターチェンジを見るアメリアは目をパチクリさせた。リィンはまるで舞台を見るかのように、パチパチと拍手をしている。
この変身マクロがなければ恥ずかしくないのに! まだ幼いエルフの耳が真っ赤に染まった。
◆ ◆ ◆
翌日――。
空は数ヶ月ぶりに晴れ渡り、瘴気のない風がながれている。
「んーっ、いい天気ーっ!」
宿屋を出たリーゼは、両手を空に向かって広げ、大きな伸びをした。
「うん! リーゼのおかげだね」
後ろから続くアメリアが、ニッコリと微笑んでいる。
「ううん、聖魔法が使えれば誰にでも出来るよ。もちろん、アメリアにも」
「そうかな……あんな強い光は込められないと思うけど……」
尖塔の先端では、遠くからでもハッキリわかるほどの金色の光が発せられ、街全体を照らしている。
昼はいいけど、夜はどうなんだろう? リーゼはちょっと心配になった。
「眩しくて寝られなくないかな?」
背後にいたエリオが苦笑交じりに答えた。
「大丈夫ですよ、リーゼ様。強いけれど優しい輝きですから。小さな星が増えたと思えば良いのです」
「そう?」
リーゼの腰の剣が、ローブから柄を覗かせて続いた。
「この街は天使の光が護る街となったのです。いずれ“天使の街ゲルン”と呼ばれるでしょう」
黒い瞳が半目になって、あからさまに機嫌が悪くなった。
「それ、ディツィアーノに絶対言わないでよ」
剣が楽しそうに揺れた。
「いずれ知られることですよ。聖典の1ページになりますね」
「や~~め~~て~~!」
「あ! リーゼ、お店があるよ!」
アメリアの指さす先に小さな屋台が見える。屋台は街の大通りが集まる広場にあるが、他に店はなく、ポツンと1軒だけたたずんでいる。
リーゼとアメリアは肩を並べて駆け出した――。
次回更新は、6/12(水)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n1211ig/
↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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