27 結界の尖塔へ
「リーゼ様のあとを、ズーイに追わせました」
宿屋の窓から入ってきたサラは、主と仰ぐエリオの前で片膝をついた。少し遅れたラルも、サラの傍らで膝を折った。
「そうか。まったく……気ままな風のようなお人だ」
「我々に御せるお方ではありません」
「そうだな……あの漆黒に輝く両の眼に、この人の世はどう映るのか……」
エリオは左目を隠す前髪を少し撫でた。
「アメリア様という、心を通じる友がおられるのが救いか」
「――それ故に、万一のことがアメリア様の身にあれば、リーゼ様が絶望されることは必至。何としてもお護りせねば」
「リーゼ様がそばにいれば問題ない。もう1人、見護っておられるお方もいるしな」
「というと?」
サラが怪訝そうに顔を上げると、背後の窓が光を放った。まばゆく、鮮烈で、神々しい――聖なる力を宿す者の証だ。
◆ ◆ ◆
屋根を弾んでいたリーニャが、不意に止まった。何かに気づいたように、走ってきた方へ振り返る。
「どうしたの? リーゼ」
「――呼ぶ前に来たんだ。何でだろ? エリオと話?」
「??」
猫のように口端が上がった口からつぶやきが漏れたが、アメリアには意味がわからない。金の髪を揺らして首を傾げた。
「何でもない。大人の話には関わらないのが一番」
視線を戻したリーゼの前には、城壁に囲まれたゲルン城があり、中央には一際高く伸びる尖塔がある。
「行くよ、アメリア」
「うん!」
リーニャが背中を丸めて城壁へ跳びつく力を溜めると、アメリアもリーニャの首に回す両手に力を込めた。
「お、お待ちください、リーゼ様!」
不意にかけられた言葉に勢いを削がれたリーニャは、背を戻して振り返った。息を切らしているゾーイがいる。
「はぁ……はぁ……裏門へ……ご案内します……」
「結構本気で走ったのに、よく追いついたね」
「最短の屋根を渡って……必死でした……。ついて来て下さい……裏門を……」
「いいよ。塔の階段をぐるぐる回ると、体調良くないアメリアが目を回しちゃう」
「では……どうやって?」
「塔の壁を登る」
「それは……無茶です……。あの塔には……ほとんど取っ掛かりがなく……」
「まぁ、見てなって」
「ああっ!」
リーニャが城壁の上へ向かって、跳び立った。まるで、お気に入りのキャットタワーへ飛びつくかのようにウキウキと。
「クッ、獣人とはいえ、アメリア様を抱えて登るなど……いくら何でも……」
ズーイの痩せぎすの体が、リーニャの後ろに急いで続いた。
◆ ◆ ◆
真昼のように部屋を照らしていた光が収まると、銀の鎧に身を包む騎士がエリオの前に降り立った。上端が伸びた耳はエルフであることを示し、うっすらと輝く体は背後の窓がわずかに透けている。
サラとラルは速やかにエリオの背後に回り、エリオと共に跪いた。
「拝謁の求めに応じてくださり恐縮でございます、リィン王妃殿下」
エリオの言葉に、リィンはうっすらと笑みを浮かべた。王族らしい、慈悲に満ちた眼差しで――。
体調復活して、ようやく更新しました!
次回更新は、5/15(水)に『転生少女の七変化』をアップ予定です。
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↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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