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25 婚姻ってサイテー

範囲エリア……ホーリー……回復ヒール!」


 聖少女から放たれた光の粒が薄暗い礼拝堂を照らした。――かと思うと、中空いっぱいに巨大な円盤サークルを作った。

 何事かとシスターと神父が見上げた。病人たちも弱々しく視線を天井へ移す。

 金色のヴェールが降り注いだ。まるで、癒やしの布で包み込むかのように――。


 あ……ああ……。

 礼拝堂のあちこちから、体の重しが取れたような声が漏れていく。


「出来た……リーゼ……出来たよ……」

「うん、バッチリ! やったね!」

「けど……魔力が切れたみたい……眠い……」

「えっ?」


 アメリアの体が傾いていく。


「あわわわ……」


 リーゼは慌てながらも、とっさに肩で支えた。


「リーゼ様! 外へ!」


 エリオが扉を開けた。リーゼは素早くアメリアをおんぶすると、扉の向こうに滑り込んだ。


(子供――?)


 身を起こした何人かの病人が、教会を駆け出す小さな人影を目撃した。

 もしや、あの子供たちが救ってくれたのだろうか? 事態が飲み込めない病人たちは戸惑うばかりだが、その頬はすっかり血の気を取り戻していた。



  ◆  ◆  ◆



 ゲルンの街に夜が訪れた――。

 闇に閉ざされた空には星がなく、どんよりと憂鬱な気持ちにさせる。

 それでも、明かりが灯る家からは楽しげな声が漏れ、教会から病人が戻った家だとわかる。


(早く結界を直して、みんなを元気にしなきゃ)


 宿屋の2階の窓から街を見ていたリーゼは、寝返りを打つ気配を感じてベッドに振り返った。


「リーゼ……」

「目が覚めた? アメリア」

「うん……」

「ごめんね、無茶させて。けど、みんな治ったみたいだよ」

「そっか……よかった……」

「まだ、だるい?」

「ううん、寝てスッキリした」

「じゃあ、これ食べられる?」


 リーゼは身を起こしたアメリアの布団の上に、トレイに乗せられたスープを置いた。


「スープにパンを浸したパンがゆ。サノワの村から持ってきたパンと水で作ってもらったから瘴気の心配はないよ。――もっとも、アメリアなら食べるだけで浄化しちゃいそうだけど」


 クスッと笑みがこぼれた。小首を傾げるにつれて金色の髪が揺れ、誰がどう見ても聖少女なんだよなぁとリーゼは思う。

 手前から奥に――上手に使われたスプーンで、パンがゆが口に運ばれた。


「ん……おいしい。ありがとう、リーゼ」

「いっぱい食べて元気になって」

「リーゼは?」

「先に食べたよ。固いパンに干し肉挟んで」

「またそれ?」

「飽きたよね~。馬車でずっとそれだったもん」

「旅商人さんって大変だね……。感謝しなきゃ」


 アメリアが2口、3口とスプーンを進めていく。

 リーゼは何だかほっとして、ベッドに頬杖をついた。


「私も明日はスープにしてもらおっかな。そっちの方がおいしそう」

「味は一緒だよ、干し肉が入ってるもん」


 2人の口から軽やかな笑みがこぼれた。


「リーゼ様、戻りました。入ってもよろしいですか?」


 ノックと共に、戸の向こうからエリオの声が聞こえた。


「うん、いいよ。アメリアも起きたとこ」


 エリオが鍵を開けて中に入ってきた。フードを被って顔を隠しているところがかえって怪しい。

 エリオは再び戸に鍵をかけると、ベッドにもたれて膝立ちしているリーゼに歩み寄り、片膝をついた。フードを降ろしたので、長い髪が露わになる。


「ゲルンハルト様と話がつきました。城の裏門から尖塔にかけて人払いしておくので、偽の結界を正してくれとのことです」

「勝手にやっちゃっていいんだ?」

「立ち会いたいとおっしゃられましたが、断りました。聖魔法を使うところを見られたくないのです。特にアメリア様は――」


 エリオがチラリとアメリアを見た。


「平民とはいえ王族であり、ネイザー公国において聖少女と称されるお方。瘴気を祓うほどの聖魔法の使い手とわかれば、婚姻の申し込みが来かねません」


 ――婚姻!?


 少女2人の声が揃って裏返った。


「まだ10歳だよ? 早くない?」

「貴族、王族ではよくあることなのです、リーゼ様。帝国からの申し出であれば、公国は無下に出来ません。国境での争いを収める上でも理に適っています」

「本人の気持ちは?」

「関係ありません。王の命に従い、国の為に嫁ぐのが王族に生まれた姫の勤めです」


 信じられない――。整った顔に相応しくないほど、小さな口が大きく開いた。


「帝国の皇帝はご存じのように偽聖女に入れあげておりますので、側室ということに――」

「側室って何?」


 リーゼの疑問にアメリアが横から答えた。


「2人目の奥さんってこと」


 はあぁ? 大きな黒目が半分になった。


「なにそれサイテ~~」

「リーゼ様にも皇帝の手が及ばぬとは限りません。無理矢理囲って、偽聖女の代わりに聖魔法を使わされることも――」

「あーもう、わかった。さっさと行って、結界を直してくるよ」

「ご案内いたします」

「いいよ、1人の方が早いから。あの塔、階段でしょ? エリオが登るの待ってられない」

「ですが――」

「私も行く!」


 聖少女の小さな手が、リーゼの手をつかんだ。


「階段登るの無理だよ。寝てた方がいいって」

「けど行きたい! リーゼと一緒に結界を正したい! そのために来たんだもの」


 じっと見つめるアメリアの瞳は本気だ。承諾しないと手を放してくれそうにない。


「もう……見てるだけだよ? 今日はもう魔法使っちゃダメ。それでいい?」

「うん!」

「じゃあ、背中につかまって」

「ありがと」


 もそもそと布団から出て、リーゼの首にアメリアの両腕がのしかかった。


「重くない?」

「ちっとも」


 言葉に嘘はなく、リーゼはアメリアをおぶって難なく立ち上がった。


「じゃあ、行ってくる」

「裏門の場所のご説明を――」

「裏門とかいいよ。誰にも見られなきゃいいんでしょ? 任せて」


 そう言うと、いきなりリーゼはアメリアをおぶったまま、窓へ向かって駆け出した。窓の下枠に足をかけ、外へ飛び出す。


「リーゼ!?」

「目をつぶってて」


 金色のまつげがしっかりと結ばれた。

 2人の体が地に落ちていく。アメリアの頬を夜の冷たい風がすり抜け、迫り来る地面を感じさせるが、リーゼは慌てることなくお決まりの文句セリフを口にした。


 “どんな扉も宝の箱も

  この世で開かぬ鍵はニャい!

  頼れる黒ネコ

  盗賊リーニャとは私のことニャ!”


 久しぶりの恥ずかしい変身マクロが発動した。


来週はちょっとした事情でお休みしますので、次回更新は、4/10(水)に『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主おっさんに恋をする。』か『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』のどちらかをアップ予定です。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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