表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/129

24 辺境の教会

 馬車で3日ほど旅をすると、荒れた地の向こうに大きな街が見えてきた。壁があまりに高く、遠目にはぐるりと回る壁の円筒しか見えない。頭を出しているのは中央にそびえる城の尖塔だけだ。


「ね! あれがゲルンの街?」


 リーゼが馬車から身を乗り出して、声を上げた。


「そうです」


 エリオが馬の手綱を握りながら答えた。


「すごく大きいね~。ハーバルほどじゃないけど、ロアンよりずっと大きい」

「帝国の東の拠点ですからね。大勢の人が住んでいます」


 壁の異様は、近づけば近づくほど見る者を圧倒する。

 いよいよゲルンの街へ入る――という手前で、アメリアが壁を見上げた。


「ハーバルの壁より……ずっと高い……」

「魔族領と隣接していますからね、護りを固めているのですよ」


 リーゼの顔が曇った。思ってた以上に危ない場所らしい。


「襲ってくることもあるの?」

「ここ数十年はありません。街から魔族領の山岳地帯まで見通しがいい上に、壁の上に魔石を利用した魔大砲フリントカノンがありますから」

「そっか……だから、魔族は瘴気を使うんだ」

「その通りです。どんなにゲルンの街が堅牢であろうと、中の人が住めなくなってしまっては、明け渡すしかありません」


 馬車が門へ渡る跳ね橋を進んでいく。


「堀の水が黒い……」


 アメリアが両手で口を押さえて、息を飲んだ。


「瘴気が濃いのです。魔族領から流れてくる川の水を引き込んでいますから」


 リーゼとアメリアが顔を見合わせた。


「トルガ村もそうだったよ。池の水に瘴気が漂ってて……」

「そんな水をみんな飲んでるの?」


 今にも泣きそうな顔をしているアメリアに、エリオが通行証を門兵に見せながら答えた。


「強い毒ではないのですよ。徐々に体が蝕まれるだけで――」

「でも……」


 門兵はあっさりと馬車を通した。領主ゲルンハルトから話が通っていたようで、深々と頭を下げている。

 アメリアの小さな手が膝の上でギュッと結ばれた。


「教会へ行きたいです。病で苦しんでいる人を救いたい……」

「――どうしますか? リーゼ様」

「先に結界を直した方がよくない?」

「結界は城の尖塔にあります。お二人の姿を見せたくないので、向かうのは夜中のつもりです」

「じゃあ……教会へ行こうか?」

「畏まりました」



  ◆  ◆  ◆



 驚いたことに街の教会は、天聖教会ではなく聖天使エリーゼ教会だった。


「ここが、街で唯一の教会なのですか?」

「その通りです、聖少女様」

「天聖教会じゃないなんて……」

「しかも、大きいね」

「うん」


 リーゼの言葉にアメリアが頷いた。オーデンの天聖教会ほどではないが、アメリアが育ったサノワの聖天使エリーゼ教会より、何倍も広くて高い。


「領主のゲルンハルト様は貴族ですが、貴族主義がお嫌いなのですよ。身分を誇っても魔族には関係ないですからね」

「ふうん……」


 悪い人じゃなさそう――。リーゼの微妙な表情の変化をエリオは見逃さなかった。心の主と仕える少女は、身分の差を嫌う。事実を伝えたまでだが、これから会うであろうゲルンハルトの印象が良いのは、魔族との決戦が近づく帝国にとって好ましいかもしれない。


「帝国では珍しいお方です。それ故に疎ましく思う輩も多いですが――」


 エリオは教会の扉を静かに押した。


 ――広がっていたのは、悲惨な光景だった。

 黒いもやのような瘴気が漂う中、並ぶ長椅子にはびっしりと病人が寝かされ、シスターたちが命を繋ごうと必死に行き交っている。2人の神父が回復魔法ヒールで治療にあたっているが、効果が弱いのか病人は寝こんだままだ。


 リーゼはこんな光景を見たことがある。サノワの村に“闇の雫”が落ちて駆けつけたとき、傷ついた村人で教会が一杯になっていた。

 アメリアも見たことがある。公都ハーバルでの“闇の空”との決戦のとき、天幕テントに次々と傷ついた冒険者が運ばれてきた。


「治さなきゃ!」


 駆け寄ろうとするアメリアの腕をリーゼがつかんだ。

 えっ? 戸惑うアメリアに、リーゼが悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ひとりひとりを治療してたら時間がかかるよ。範囲エリア魔法を使ってみない?」

範囲エリア魔法を? 私が?」

「アメリアなら出来るよ」

「それはいいですね。今なら皆、こちらに気づいていません。お二人の姿を見られたくない私としては願ったり叶ったりです」


 戸惑うアメリアに、リーゼはやり方を説明し始めた。


「ほら、こうやって両手を向けて、聖魔法を教会に満たすようにして……」

「……う、うん、やってみる」


 リーゼを真似て、アメリアも両手のひらを長椅子に横たわる病人たちにかざした。


範囲エリア……ホーリー……」


 光の粒が聖少女の両手のひらに集まっていく。まるで、解き放たれる時を待つかのように――。

次回更新は、3/20(水)に今週と同じく『転生少女の七変化キャラクターチェンジ ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。

『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主おっさんに恋をする。』は大幅リライト中で、しばらく更新をお待ちください。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ