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19 初めての結界

 リィンは小さな魔石をポールに戻すと、そっとリーゼの右手を両手で包んだ。感触はないが、光の体の温かみがリーゼに伝わる。


「小指の先に、聖魔法をほんの少しだけ込めてください」

「こう?」


 リィゼは右手の小指を立てると、じっと見つめた。キイィィィィという甲高い音と共に、指先がまばゆい光を放っていく。

 慌ててリィンの両手のひらが、制止するようにリィゼに向けられた。


「そ、それでは込め過ぎです! 一瞬で魔石が砕けてしまいます!」


 リィゼはディツィアーノから受けた最初の授業を思い出した。――【光回復ブレイブヒール】を込めたら、あっという間に爆発しちゃったっけ。


「難しいね」

「主様の力は強すぎるのです。細やかな制御を覚えれば、いろいろ役立ちますよ」

「どんな?」

「明かりに使ったり、聖石オーブをたくさん作って人に与えたり」

聖石オーブをたくさん……。エリオが喜びそう、商売になるって」

「どちらかというと、ディツィアーノ司祭でしょうか? 布教の力になりますから」

「あー、泣いて喜びそう。最悪」


 フフッ。

 アハハハ。


 リィンとリィゼの頬がほころんだ。

 和む2人をよそに、エリオとディツィアーノがどこかでくしゃみをしていることは間違いない。


「力を……弱く……弱く……」


 小指の先の光が、徐々に弱まっていく。


「そう……そうです……。もっと力を絞って……制御して……」


 光が、ほんのりと周りを照らす程度になった。


「これでいい?」

「お見事です。では、指先で魔石に触れてください」

「ん……」


 そろそろとリィゼの小指の先が、ポールの上の魔石に近づいていく。


「ほんの1滴、水を垂らすように……です」

「うん」


 ちょん、とリィゼの指先が魔石に触れた。これで大丈夫――のはずだったのだが、明かりが魔石に移った瞬間、正視出来ないほどのまばゆい光が放たれた。


「うわっ」


 光はため池の水面に漂う瘴気を一気に払い、どす黒い水を透明に変えていく。


「なんでこんなに輝くの!?」

「溜まった瘴気を浄化するために反応しているのです。直に落ち着くでしょう」

「そっか」


 ため池から放たれる輝きに気づいたのか、あばら家に明かりが次々と灯っていく。


「あ……マズい。目立たないようにって、オイゲンお爺ちゃんから言われてるのに」


 村人たちは瘴気で弱った体でヨロヨロと家から出てくると、ため池のほとりを囲むように集まり、ひれ伏していった。


「おぉ……聖騎士様がお2人も……。村を救ってくださったのか……」


 リィンはサッとリィゼの腰の剣を鞘から抜いた。リィゼが(何で?)と思う間もなく、剣でポールを水平に貫き、自らは聖剣の姿に戻って、突き刺した剣の代わりにリィゼの腰に収まった。


「あっ! ズルい! 隠れた!」

「剣が主様の鞘に戻るのに、ズルいも何もありません」

「アカべぇ、飛んで! 光に紛れて帰るよ!」

「ウガッ!」

「ついでに……範囲聖回復エリア・ホーリーヒール!」


 リィゼを中心に光が波紋のように広がり、村人たちの体を洗った。土気色の肌に生気が戻っていく。


 ピンクのクマが飛んだ。木の杭と板で出来た背の低い壁を遙かに越えて、あっという間に闇夜へ消えていく。

 村人たちは、ため池から突然現れた巨獣の影に驚きながらも、姿が消えた先に向かって拝み続けた。


 十字に形を変えた結界のポールでは、小さな聖石オーブが誇らしげに輝いている。剣の柄に刻まれたリボン(リーム)の刻印を照らして――。

年も変わったし、ずっと閉じてたコメント欄をオープンしてみました。

次回更新は、1/17(水)に『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主おっさんに恋をする。』をアップ予定です。

https://ncode.syosetu.com/n1211ig/

↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。

どちらも読んでもらえるとうれしいです。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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