17 偽りの結界
池の真ん中にある柱にたどり着くと、アカべぇの体は胸まで黒い池に沈んでいた。肩に座るリィゼの足も膝まで浸かっている。
「思ったより深いね。がまんできる?」
ピンクのクマはウガッと吠えると、大きな頭を縦に振った。
「もっと近寄って」
ザブザブとピンクの体が進んで、リィゼの小さな手が柱の先で弱々しい光を放つ聖石に届いた。近づいてわかったが、聖石は両手で包めないほど大きい。
「ん?」
リィゼは鎧の首元から指先を突っ込み、首に掛けられた銀細工の鎖を引っ張り出した。随分前にディツィアーノから渡された魔石の首飾りだ。
「これ、ディツィアーノが“魔石の泉”で採れた一番大きな魔石だって言ってたんだけど、結界の聖石の方がずっと大きい。……そんなことってある? “魔石の泉”はリィンさんがずっと封じてきた“闇の大穴”の魔力がこもってるんだよ?」
アカべぇも首を傾げた。
(何かおかしい……)
リィゼは両手で聖石を持ってみた。グラグラして外れそうだ。
「ん~っ…………それっ!」
思い切って、持ち上げてみた。聖石はあっさり外れたのだが、光がついてこない。――正確には、金色の光が緑に変わって、柱の上に留まっている。
「えっ!? 何で!?」
リィゼは、自分の両手のひらの中にある聖石を見た。そこには多面体の形をしたガラスのフードがある。
「あっ! 何これ!? ガラス!? 中が赤く塗られてる!」
リィゼはもう一度、フードを被せた。緑の輝きにガラスの内側の赤色が混ぜられ、黄色くなった。よく見たら、金色じゃなくて黄色だ。
「インチキ!?」
またフードを外して緑の魔石をよく見た。大きいと思っていた聖石は偽りで、中の魔石は豆粒ほどの大きさしかない。
「これって、緑だし……風魔法が込められてる? 帝国の聖女さんは何でこんなことを……。風じゃ水は浄化出来ないよね?」
アカべぇに聞いてみたが、首を傾げるばかりだ。
聞いた相手が悪かった――。目の前で「?」を浮かべてるクマは、殺戮が得意なブラッディベアだ。
「ウィンディに聞けばわかると思うんだけど、瘴気が濃いところは来たがらないし……あ……」
いた! 誰よりも結界に詳しい人が! ちょうどさっき思ったとこ! けど、どう呼べばいい? ……それっぽく?
リィゼは右の手のひらを広げて、天に向けた。――まるで、その右手に収まるべきものを呼ぶかのように。
「聖剣リィンよ、我が手の元へ!」
空を覆っていた暗雲がゆっくりと渦を巻き、中心からまばゆいミスリルの青き輝きが差した。
次回更新は、12/13(水)に『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主に恋をする。』をアップ予定です。
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↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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