11 それぞれの役目
「お姉さま! お帰りなさい!」
「ただいま、アメリア」
聖騎士学園の門をくぐったシャルミナを見るや、待ち受けていたアメリアが駆け寄って抱きついた。
後ろでは、生徒たちが取り巻くように並んでいる。
久々のアメリアはふわっと柔らかく、穏やかな眼差しに癒される。戦場で出会った帝国の聖女ミラベルとは大違いだ。皇帝に取り入って戦いを煽るなど言語道断、聖女の風上にも置けない。我が妹こそ、真の聖少女であると確信する。
そんな聖少女の清らかな瞳が、心配そうに曇った。
「“闇の大穴”が復活したと聞きました。大丈夫なのですか?」
シャルミナは、周りに聞こえないように耳元でそっと答えた。
「リーゼ様の従者だから大丈夫」
「えっ!?」
「ナイショよ。あの恐ろしい闇のスライムが味方になったの。騎士と共に、帝国から我が国を守ってくださってるわ」
「そうだったんだ……姿が見えないから、そっちに行ってるとは思ったけど……」
シャルミナはアメリアの肩を抱いたまま、皆に向かって顔を上げた。
「“闇の大穴”はこちらから手を出さなければ心配ない! 一時的ではあるが、帝国の脅威は去った!」
わっと生徒たちが湧いた。
アメリアが小さな体を伸ばしてシャルミナの背後を伺う。
「リーゼは? 帰って来てないの?」
「リーゼ様は監視砦の増強のために残られた。聖剣の打ち手の力を貸してくださるそうだ」
「そっか……じゃあ、しばらく会えないね……」
「授業のノートを取っておいてとのことだ。重要な役目だぞ」
「うん! がんばる!」
胸の中でぎゅっと拳を握る妹がかわいい。こんな少女を虐げていた自分が情けなくなる。――その分も大切にして、共に国を良くしていかなくては。
◆ ◆ ◆
……キーーン! ……キーーン! ……キーーン!
“闇の大穴”の監視砦の麓にあるサノワの村に、甲高い音が響き渡っていた。
村に残る古い炉に火が灯され、ロアンから来た鍛冶屋たちがハンマーを振るっているのだ。
その中にはギルド長であり、老鍛冶屋であるオイゲンの姿ももちろんあり、右手のやっとこの先には、灼熱の鉄塊が挟まれている。
足下には仕上がったV字型の楔が無造作に散らばり、いかにも頑強そうな黒光りする仕上がりは、どんな巨石の隙間も繋ぎ合わせそうだ。
ピキィーーン!
ピキィーーン!
ピキィーーン!
3つ並ぶ炉の真ん中で、一際甲高い音と共に長尺なハンマーが振り下ろされている。その軌道はまさしく閃光で、瞬く間に鉄塊が伸ばされ、幾重にも折り畳まれていく。
(この嬢ちゃんは、砦を聖剣仕立てにでもするつもりかいな?)
呆れながらも、オイゲンの頬からは笑みが絶えない。それもそのはず、聖剣の打ち手リームの御業を、また間近で見ているのだから。
次回更新は、9/13(水)に『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主に恋をする。』をアップ予定です。
https://ncode.syosetu.com/n1211ig/
↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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