10 リーゼの申し出
素っ裸になってしまった帝国の騎士たちが、国へと続く道を足早に下り、姿が見えなくなる――。
“あふれる力、胸に秘め
目指すは地の果て、空の果て
どんな敵にも屈しない
勇者リーゼ、ここにあり!”
リーザはリーゼの姿に戻り、クルクルと前方抱え込み宙返りを何度も繰り返しながら地上に降り立った。
「リーゼ様!」
突然、信奉してやまない少女が降ってきたことにシャルミナは驚いたが、すぐに――そういうことか、と納得した。
「このスライムはリーゼ様が?」
「そう、私の新しい従者。プヨンって言うの」
沼の縁から、プヨンが大きな目玉を覗かせた。こちらの様子を伺っているようだ。
「プヨン殿、感謝いたします。おかげで帝国と戦にならずにすみました」
プヨンの目がニッコリとした形に変わると、半円の口が現れて「ピィーーッ!」とうれしそうに鳴いた。
「グレープが飲み込んだ“闇”を吐き出させて、スライムにしたの」
「それは……まさか、“闇の大穴”と同等の力があるということでしょうか?」
「……私の従者になって種族の格が上がったから、もっと強いかも」
シャルミナが言葉を失った。あの長年苦しめられた“闇の大穴”より強いというのか? 血の気のない肌が一層白くなったように見える。
背後のコンラッドが「ワハハハ」と豪快に笑った。
「それは国が滅びますなぁ。リーゼ様の従者でなによりです」
「魔石が欲しい時はプヨンに頼んで。合い言葉は……そうだなぁ……“プンヨヨプヨプヨ、プヨプヨプヨン、魔石が欲しいプヨ“でどう?」
「“プンヨヨプヨプヨ、プヨプヨプヨン、魔石が欲しいプヨ“ですね。承知しました。帝国に漏れるとまずいので、鍛冶ギルド長にだけ伝えておきます」
「オイゲンお爺ちゃん?」
「そうなりますね」
強面のドワーフであるオイゲンが合い言葉を言うところを想像して、リーゼの頬が緩んだ。「合い言葉をかわいくし過ぎたかな?」とも思うし、「言ってるところを見たいなぁ」とも思う。
「帝国が我が国への侵攻を諦めたとも思えません。監視砦を強化するために、大工やオイゲンたちを呼ぶので、ちょうどよいです」
「そっか。賑やかになるね」
「はい。麓のサノワの村も宿泊客で潤うでしょう。お父様もお喜びになります」
シャルミナの白銀のまつげが穏やかに垂れた。良い関係となった父を思う面持ちは、出会った頃からは想像もつかないほど優しい。
「鍛冶仕事なら私も手伝うよ。釘とか金具を作ればいいんでしょ?」
「えっ!? リーゼ様が釘を!? そんな恐れ多い!」
リーゼの頬が不満げにぷっくりと膨れた。黒い瞳は半目になっている。
「そういうこと言わないでって言ってるのに。人手は多い方がいいでしょ?」
「それはそうですが……」
コンラッドがまた「ワハハハ」と豪快に笑った。
「聖剣の打ち手が鍛えた釘とは、さぞかし頑強でしょうなぁ。どんな攻撃も跳ね返しますぞ」
「……そうね、公都の城より万全になりそう。リーゼ様、お願い出来ますか?」
「もちろん。勉強より楽しそうだもん」
「落第しても知りませんよ?」
「成績いいから大丈夫。アメリアにノート取っておいてもらうし」
「……リーゼ様のお役に立てるなら、妹も喜ぶことでしょう」
感謝の気持ちを込めて、シャルミナとコンラッドが頭を下げると、いつの間にか周りを囲んでいた公国の騎士たち数百も一斉に頭を下げた。
皆、跪きたい気持ちを抑えている。リーゼが天使であることは誰にも知られてはならないのだ。
おかげさまで、何とかコロナから復活しました。
次回更新は、8/30(水)に『五つの加護持ちお姫様は、冴えない加護なし辺境領主に恋をする。』をアップ予定です。
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↑もしくは画面上の、作者:イリロウ のリンクから。
どちらも読んでもらえるとうれしいです。
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