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4話 振り下ろされるは無慈悲なる天意

 「……あ」

 ロドスが建物から出ると、通りを挟んだ向かいに座り込む少女と目があう。ロドスが建物内で目にした惨状は、詳細な状況を分析することを許さぬほどに混沌としたものだった。つまりはこの少女の帰ってこない両親というのが異端者ヘレティックであったのか、あるいはその犠牲者であったのかは分からない。しかしそのことは結局のところ重要なことでは無く、ロドスはただ己の為した責務を口にする。

 「救済サルヴェイションを施した。あの建物にいた全ての魂は救われた」

 ロドスが右手を少女の頭頂にのせると、少女は茫洋とした目で見返した。理解ができないのか、あるいはすることを拒んでいるのか、しかし数秒の沈黙の後に少女が発した言葉は一言だった。

 「わかった」

 それを聞いたロドスが微かに右手を揺らして撫でるようにすると、少女は疲れ果てたように俯き、何も話さなくなる。手を離したロドスは立ち上がると、一瞥もすることなく歩き出し、後にはただ遠くから聞こえる喧騒だけが残った。

 

 

 教会チャーチへと帰ったロドスは、出た時と同じく魔基端末と向き合う司祭プリーストへ向けて硬質な声を投げかける。

 「キュリエ司祭、報告書の転送を頼む」

 入ってきた時点で当然気付いていたキュリエは、すぐに魔基線を引き出してロドスへと手渡しながら返答した。

 「ロドス上級審問官、お疲れ様です。どうぞ」

 差し出された魔基線を懐中端末へとはめ込んだロドスは、転送を開始しながら小さく、独り言のように呟く。

 「お告げによって示された任務は全て滞りなく完了された。後の禍根となる芽も全て」

 呟きを聞かされたキュリエは、言葉の意味など分からないもののやはり眉を顰める。しかしこの生真面目な司祭プリーストの内心の不満など知らないロドスは、転送を終えたこの任務はすでに過去のものとして次の異端審問へと思いを馳せていた。

 

 

 いつの間にか雨が降り始めた歓楽街の端、そっけない外観の酒場だったものを雫が遠慮がちに打つ。静かな墓標と小さな骸が濡れて朽ちゆくその場所が、この世界の縮図であり、正しさの象徴のように佇んでいる。

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