チュートリアル、モブ戦ね
目が覚めると、爽やかな風が吹き抜ける草原に立っていた。意図は不明。まあ冒険の始まりって感じね。
それじゃあ、装備を確認しましょうか。
まず、衣装。白を貴重としたトップス、赤いチェックのスカート。文句なしに可愛いわ。まあテンプレートって言ったらそうなんだけど。
次にポーチだけど、あら、ハート型。
凄く小さいけれど、これ本当になんでも入るのかしら。ウエストポーチになっているから邪魔にはならなそう。
あとは……私自身の見た目とかは変化なさそうね。また鏡があったら確認しておこう。
最後に肝心の自衛力だけど、これは今すぐには確認出来そうにないわね。
状況把握もしたいし、とにかく人のいるところに行った方がいいわね。
麓に見える小さな町、まずはあそこを目指すとしましょうか。
***
10分ほど歩いてやっと到着。
町の入り口と思わしき場所に立っている看板によると、ここは『人と緑の町、クロロン』。
あら、文字は普通に読めるみたい。
別れ際、閻魔様が言っていた言葉を思い出す。
確か王国の名前はパンクローマ王国だったかしら、ここはその町の一つってところね。
パッと見た感じ、商店街って感じの町並み。
石造りの道に、色々な建物が並んでいる。
青果屋さん、食事処、酒場。
町中の人も金髪や茶髪、青や緑の目をしていて、お伽話に出てくるような服装をしている。
凄い、凄いわ。本当に異世界なのね……!
「おっ、かわいー格好した姉ちゃんだな」
第一町人、ガタイのいいおじさんに絡まれた。
仕方ないわね、私が可愛いのは事実だから。
でも今お酒くさいおじさんに付き合う気はないの。
出来るだけ事を荒げないように、営業スマイルでおじさんから情報を引き出しましょう。
「ありがとうございます。
私、実はアイドルなんですけど、そういう活動が出来る場所ってご存知でしょうか?」
「あいどる?」
なんとなく想像してたけどやっぱりアイドルの概念なんてないわよね。
「あ〜……歌って踊ってお金をもらう仕事……つまり歌手のことです」
そう言うとおじさんは一瞬真顔になり、それからいやらしい目つきに変わった。
あー、これはいけないわね。
何か誤解させちゃったみたいだけど、女にとって危ない男になっちゃったおじさんにこれ以上用はないわ。
「そうだなあ、それならこっちの通りにそういう店がある。案内してやるよ」
有無を言わさない勢いでおじさんに手を掴まれ、路地裏に引き込まれた。
「で、いくらだ?」
「はあ?」
イクラのギャグじゃないわよね。
そう思ってると両手を壁に押さえつけられた。
背中が痛い。
なんて嬉しくない壁ドンかしら。
「女で、歌手で、そんな格好してるんだもんなあ。姉ちゃんなら若くて可愛いし、特別に弾んでやるよ」
このクソ野郎……
異世界に来て早速こんな目にあうなんて思ってもみなかったわ。しかもまだ真昼間なんですけど?
「悪いんですけど、私お高いので」
「ぐあっ!?」
そう言って自由な足でおじさんの股間を思いっきり蹴り上げた。
ここまでされたら正当防衛よね。
自由になった両手で背中を払う。
痣になってたら叩きのめしたところだったけど、大丈夫そう。
「〜っの、クソアマがあ!!」
うずくまっていたおじさんがよろよろと起き上がって拳を振り上げ向かってくる。
効いたと思ったんだけど、ダメだったのかしら。
なら今度は真面目にやってあげる。私の力を試すいい機会だわ。
息を整え、おじさんの動きを冷静に観察する。大きく腕を振り被った瞬間を狙い、腹部目がけて力いっぱい両手を減り込ませた。
「がっ……!?」
よろけて後退したおじさんにすかさずアッパーを食らわす。
おじさんはそのまま盛大に背中から倒れ込んだ。
白目向いてるから、気絶してるわよね。
顎殴ったらいいってのは本当みたい。
うん、もう大丈夫そうかな。
そう安堵した瞬間、一気に力が抜けて地面に座り込んだ。
「よかった……」
怖かった。
女を力で押さえつけてくる男、どうしてもあの時のことがフラッシュバックしてしまう。
大丈夫、力があるのは事実みたい。
またあんな目にあってもなんとかなる。
もうあんな怖い思いは、痛い思いはしたくない……
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
「大丈夫ですか、お嬢さん」
突然背後から声をかけられ驚いて立ち上がり距離を取った。
今まで人の気配がしなかった、そこに立っていたのは背の高い、細長いシルエットのスーツ姿の男性だ。
いわゆる糸目って感じの細い目に、貼り付けたような笑み。
イケメンの部類だけど、私の好みじゃないわね。
「いや失礼、しかし先程の腕っぷしから見るに、手練れの冒険者様のようで」
「いや、私はアイドル……私、この土地に来るの始めてなんです。仕事を紹介してくれるところって、どこか知りません?」
「おや、そうでしたか。ではこの路地の先に冒険者ギルドがありますので、そこを頼ってみてはいかがでしょう?」
そうか、冒険者ギルド。
そこなら色んな職業の人がいるから、きっとアイドルに近い仕事もあるに違いないわ。
「良ければご案内しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。何か目印になるようなものはありますか?」
「そうですねえ、竜を象った旗が掲げられているので、それで分かると思いますよ」
「ありがとう、お兄さん。
それじゃあ、さようなら」
それだけ言うと、さっと背を向けて、振り返らずに早足で路地を抜ける。
ああいう胡散臭い、何考えてるか分からない人間は無闇に関わる必要はない。
元の世界でも、あんな大人何人もいた。
その度に表面上だけいい顔して接し、心は許さない。それで上手に利用出来たらそれでいいのだ。
何より私が襲われていたのを黙って見ていたらしい発言、ロクな男じゃないわ!
「ええ、ではまたお会いしましょう」
今日はこのくらいで。
誤字脱字等ありましたら報告頂けると嬉しいです。




