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エンジェルナンバー0(いろんな涙)

伯父伯母も癌で亡くなったが

薬で幻覚が見えていたのか わけのわからない事を言ったり 急に笑ってみたりしていたのを間近で見て来た


しかし 真希は最期までそれがなかった


「はい はい わかりましたすぐ行きます」

病院からの電話だった

身内の居ない真希

何かあったらとあの看護師さんに連絡先を伝えておいた

病院へと車を飛ばす

深夜の病院

迷惑を顧みず走って病室へ

「そっちじゃない!こっち!」

あの看護師さんが俺を待っててくれたのだ

「あいつは!まだ大丈夫なんですか!」

「早く!」

聞いた事への答えがなかった

看護師さんも音を立てて走る

深夜なのに灯りが点いている部屋

俺は看護師さんを追い越しその部屋へ

ベッドに横たわる真希は 息苦しそうにしている

「先生!こんなに苦しそうにしてるだろ!なんとかしてくれ!」

医者は黙って下を向いている

俺は医者ではない…

でも…その時が近づいているって事はわかった…

それでもまだ生きている

諦めきれない

医者にすがるしかない

その時 医者が驚いたような顔をした

俺が振り返ると 真希は起き上がろうとしているのだ

「どうした?治ったのか?」

そんな事はない…

真希は起き上がるのを諦めた

俺が真希の口元に耳を持って行くと

「ありがとう…」

その一言を言って目を閉じた…


「多分 あの時真希ちゃん…意識なかったと思うの…まさか起き上がろうとするとは…」

あの看護師さんが 後から俺に言った言葉

「そうですか…」

「ところでどうするの?真希ちゃん 親御さん居ないんでしょ?」

「俺がなんとかします」

恥ずかしい話

それは父親に頼み 葬儀代を借りる事にしたのだ

小さい頃から 自分より弱い者は守れ! と口が酸っぱくなるほど言ってた父親

事情を説明したら

「これは お悔み代だ 返す事はない」

そう言って出してくれた

もちろん数年後返しはしたが…


葬儀は仲間内で執り行われた

みんな真希を見舞ってくれてた仲間

「英ちゃん…」

「どうした?」

「大丈夫?」

「大丈夫だ」

かなり疲れ切ったように見えたのだろう

「やっぱ英ちゃんの彼女だよなぁ…最期に起き上がろうとしたって」

「強いよなぁ」

俺は強くはない…今にも泣き出しそうな気持ちで…

「あんた大丈夫?」

初恋の人も来ていた

「少し休んだら?」

「大丈夫だよ」

「ダメだよ 告別式まで私がみんなの相手してるから 少し休んで来なさい」

母親が子供を叱るように優しく言われた

「悪いな…」

「何言ってんの 仲間でしょ」

その笑顔がとても辛く感じた

「ちょっとだけ頼む」

「わかった ちょっと目を閉じるだけでもいいんだから 横になるんだよ ネクタイ緩めてね!締められない時は直してあげるから」

まるで母親…

控え室に入って横になるが 寝られるはずもなく

「英ちゃん 寝てるの?」

「ん?どうした?」

「いや 寝てるかなぁって思って」

いやいや 寝てるかどうか確かめにいちいち来るなよ…

「こら この人に声をかけない!」

これじゃ休めない…

「あんたは少し寝なさい」

そう言われても…

「俺が見張ってる」

見張る?

「龍也くんお願いね」

龍也か…

ってか見張るって…

「龍…ありがとな…」

「いいから喋らないで目をつぶれ」

全く こいつはある意味馬鹿真面目なんだから…

「ずっとお粥しか食ってなかったあいつが 龍が買ってきた大福美味いって食ったみたいだ」

「……」

「ライブの時 連れ出してくれたのも龍なんだろ?あいつ喜んでた…」

「黙って…寝ろ…」

俺に背中を見せているが 声だけでわかった

龍が泣いている

学生時代…社会人になっても感情を変えたのを見せた事がない龍が…

「龍…」

「うるせぇ…寝ろ…」

俺は目を閉じた

多分 少し寝たのかもしれない

「ほら 始まるよ」

俺を揺する初恋の人

「ん…あっ 寝てたのか?龍は?」

「龍也くんならもう行ったよ」

「そうか…」

「龍也くん…泣いてた…」

こいつが俺を起こしに来た時 龍也が泣いていたみたいだ

「みんなには黙ってろな」

「わかってる」

二人で式場に向かうと 席は埋まっていた

まぁ 関係者は仲間内だけだからそれほど席はないのだが…

遺族席はない

最前列に俺達用とでも言うように 二席空いている所に並んで座った


「余計な事してんじゃねぇ」

「えいちゃんって 中国人か!私は 真希」

「馬鹿じゃねぇ」と鋭い目をしていた

それからしばらくして

「馬鹿みたい」と優しい目に変わっていった

そして

「私…人殺しなんだ…」

そう言って寂しそうな目をした

過去は過去 そんな事を俺は気にしない

病気を隠して 一人去って行った

俺は何だったんだ…俺じゃ頼りなかったのか?

そう思いながら 握りしめた拳の震えが止まらなかった

その拳に温もりが…

初恋の人が 握りしめた拳を包んでくれたのだ

泣き噦る子供を寝かしつけようとするように トントンと小さく俺の拳をノックしていたのだ

それで俺の拳は余計に震えた

係の人から 御焼香を促され俺は立ち上がった 初恋の人も一緒に

俺達は 後ろを向き参列者に頭を軽く下げた

「お母さん…」

初恋の人の声で俺は頭を上げる

一番後ろ 席がない所に数名が立ってるのが見える

そこに 初恋の人の母親の姿を見つけた

それだけではない

仲間達の親も数名

その中には 俺の親も居た…


告別式が終わり 真希を見送ろうとみんなが外に出て来ている

俺は仲間の親達に頭を下げてまわった

「今日は本当にありがとうございました」

「立派なお葬式だったよ」

「そうだな 若いのに…よく頑張った」

そんな事を褒められても…

俺は最後に自分の親のところへ行き ただただ深く頭を下げた

何を言っていいかわからなかった…

「本日はありがとうございました」

そう言ったのは 初恋の人だった

俺の親も こいつを知っている

「ありがとうね」

母親が こいつにお礼を言う

「あの坊主の寺に土地がある そこ使え」

父親がぼそっと言った

俺はそこまで頭がまわっていなかった

後から母親に聞いた事だが

いずれその寺にお墓を移す予定だったと…

まだまだ俺は子供だ…

結局 さっき言われた「立派な葬式」とは俺に向けられた言葉ではない


俺の地元では 告別式の後に火葬になる

火葬場に親達の姿はなかった

「後は若い人達で…」

お見合いでお決まりの台詞を言って帰っていったのだ

ギィ……バタン…

何度か聞いた音

今まではなんとも思わず聞いていた音

今回は胸が張り裂けそうになった

「それでは喪主の方…」

係の人にボタンを押すように言われる

俺は…こいつの旦那でも親でもねぇ…まして子供でも…

人が灰になるボタンを何故俺が押さなければ…

躊躇う俺に 係の人が早く押すようにと言ってるように見える

実際は言ってないのだが

「あんたが押すんだよ」

初恋の人が小さな声で言う

俺はみんなの顔を見回す

頷く者 泣いてる者

俺は其奴らに頭を下げてボタンを押した


火葬が終わるまで 控え室が用意されている

「しかし驚いたぁ…本当に来ると思わなかった」

「何が?」

「母ちゃん…英ちゃんの彼女の葬式なんだって言ったら 『じゃあ 母ちゃんも行かないとね』っては言ってたんだけど…まさか本当に来るとは」

予告されたんだろ…俺は抜き打ちだ…

「でも早かったよなぁ」

「だな 大丈夫か?」

龍也が俺の心配をしている

「大丈夫だ」

俺はそれだけ言って控え室を出る

「英ちゃん どこ行くの?」

「おまえはいいからここに居ろ」

龍也が止めたのが聞こえた

しかし 俺を追ってくる足音

後ろも振り返らずタバコに火をつける

「こ〜ら 吸い過ぎ!」

「おまえか…」

「そんな言い方ないでしょ」

「龍に止められなかったか?」

「私は止められてないよ」

「そっか…」

「龍也くん似てるよね」

「誰に?」

「あんたに」

「俺 あんなにぶっきら棒か?」

「なんて言うのかなぁ 思う気持ちって言うか…」

思う気持ち?それはどういう事だ?

龍也は こいつの言うような男なのはわかっている

でも俺は 自分勝手でどうしようもない男だ…

「彼女さん…子供と一緒になれたかなぁ…」

何故それを知っている!

「私に話してくれたんだ…」

「そっか…」

「あんたはそう言う人だもんね」

どんな人?

「多分…あんたの事だから そんな事気にしなかったと思う それよりも大事にしてやらないとって思ったんじゃないかなぁ」

「買い被り過ぎだよ」

「私さ 小さい時火傷したじゃん」

こいつの腿には 小さい時につくった火傷の痕がある

「夏が来るの嫌でさ 体育で短パンになるとみんなに『うわ!気持ち悪!』って言われるから…でもその度にあんたが守ってくれたよね」

「そうだっけ?」

「そうやって惚けるのも昔のまま 変わってないなぁ…」

変わったよ…

「彼女さん言ってたよ…」

何て?

「優し過ぎるって…あんた 何も しなかったでしょ」

「出来る訳ないよ…あいつはそういうことになったばかりだったんだ…出来る訳ない…」

「本当にあんたは…」

「俺…間違ってんのか?」

何を聞いてるんだ?

「ううん 多分それでいいと思う 少なくとも私はそう思う」

こいつが言うなら それが正解だろう

「後何分だ?」

火葬は一時間半くらいと言われていた

「まだ 一時間以上あるよ」

時間の経つのが早いような遅いような…

「何我慢してんの?」

「我慢?」

「さっきもそう 我慢してるの私じゃなくてもわかるよ」

「別に我慢なんか…」

「約束?」

何のだ?

「彼女さん言ってたよ」

またか…あいつとこいつはなんなんだ?

「こんな約束させたけど あぁ見えて多分泣き虫さんだよねって」

俺は黙って聞いている

「どうだろう?私は幼稚園から一緒だけど 泣いたの見た事ないって言っておいたけど…」

けど…?俺 泣いたの見せた事あったか?

「コロが車に轢かれた時…」

あっ…

「あの時 あんたコロを抱きしめて泣いてた」

コロとは 俺が拾った子犬

コロコロとしていたからコロ

ありふれた名前

そのコロを家には連れて帰らず 秘密基地なるものを作り そこで飼っていたのだ

友達数人と毎日食べ物を持ち寄って

それをこいつにバレ 渋々秘密基地に招いたのだ

秘密基地とは男の浪漫

コロをこいつと二人で散歩していた時 車道に飛び出したコロが車に…

「あの時は…クソおやじが俺を叩いたから…」

「嘘だよ あのおじさんはあんたに脹脛を思い切り噛み付かれて逃げるように車に乗って行ったもん」

良く覚えてるなぁ…

確かにそう

コロを轢いた後 車からクソおやじが降りて来て

まだ小学二年の俺は 何かされる そんな事を思って そのクソおやじに噛み付いたのだった

こいつを守る為に…

「涙にもいろいろあるよ 悔し涙や嬉し涙 あの時のあんたの涙は優しい涙だった」

優しい涙か…

「泣いて供養になるかはわからないけど…我慢するよりはいいんじゃない?」

俺は何も言えない

言葉にすれば…何かが爆発する

初恋の人が両手を広げた

もういいんだよ

そう言ってるように…

俺は泣いた…その涙は優しい涙なんかではない

俺は身勝手な大馬鹿者

そんな俺を優しく包み込む初恋の人


「どう?スッキリしたでしょ」

笑顔で俺に言う

「はい これで涙拭かないと みんなにバレちゃうよ」

そう言って ハンカチで涙を拭いてくれた…

「これで良し みんなの所に戻ろ」

どっちが仕切っているかわからない…

俺達が控え室に戻ると

「あっ 帰って…」

何故黙る?

「英ちゃん…泣いたんだ…」

小さい声だったが 確実に俺の耳に届いた

「黙ってろ」

龍也が止めるが 全て聞こえた

多分 俺は泣き過ぎて目が充血していたのだろう

「ほら そろそろだよ」

初恋の人が話をそらした


人は皆 最後はこのようになる…

総理大臣だろうと一流企業のお偉いさんだろうと…

みんな同じ…

全てを 無 にして次の準備をするのだろうか?

今度産まれてくる時は 幸せになってくれ

そう 心から願った


「みんな…今日は…今まで本当にありがとうございました」

俺は 来てくれた仲間に頭を下げた

「何言ってんだよ英ちゃん 当たり前の事だろ?」

「そうだよ それ以上に英ちゃんにはやってもらってるんだから」

俺は何もしてない…

「今までありがとうなんて言うなよ…これからもよろしくだよ」

こいつらの言葉が痛かった…

「何でも一人で背負うな」

「そうだよ こんなに仲間がいるじゃん」

龍也と初恋の人の言葉がとどめを刺した

「あれ?英ちゃん泣いてんの?」

「うるせぇ…」

「また泣かせてやった!」

誰も止めるやつがいない

「そろそろ帰るか…」

罰が悪くなり解散しようとした時

龍也と初恋の人が何かを話しているのに気付く

「オッケー」

そう龍也に言って 俺の所に来る

「帰り乗せて行って」

俺の見張りを頼んだんだとすぐにわかった

ある意味 一番辛い見張り…


「ありがとな…」

「何言ってんの」

「まさかこんな事になるなんて…」

俺が言いたい事の意味をわかったみたいだった

「それは言わないの…少しだったけど…彼女さんに会って あんたの気持ちわかったような気がしたなぁ 私が行って話ししてると たまにすごく寂しそうな目になる時があって」

あの目だ…

「それは病気のせいとかじゃなく なんだったんだろう…でもすぐ笑顔になるの 可愛いかったよね彼女さん」

俺は黙っている

「昔から面食いだったもんね」

こいつは 俺がこいつを幼稚園から好きだった事を知っている

俺は笑うしかなかった

「やっと笑った…」

笑わせる為に言ったのか?







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