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エンジェルナンバー0(別れと再会)

「ドラムちょっと早いぞ」

「オッケー こんな感じか?」

「もうちょい」

俺達の練習が始まった


「最近ニコニコしてるねぇ」

「そうか?」

「なんかいい事でも有ったの?」

「別に何もないよ それより体調はどうだ?」

「うん…なんとか…」

真希のやつれ方が異常なほどに進んでいた…

「そっか ちゃんとご飯は食べてるのか?」

「食べてるよ…お粥さんだけど」

「お粥か…なんか食いたいのある?」

「ん〜…特にない…」

「食わないと元気にならないぞ」

「そうだけど…」

食べたくても食欲がない事はわかっている


そしてライブ当日

「近所には言ってある 思う存分やっていいぞ」

「マスター…何から何まで…」

「それ以上は言いっこなしだ おまえらの客が金を落として行ってくれるんだからな」

そう言われると不安もある

「まぁ とりあえず大騒ぎして嫌なこと全部忘れろ 時間は気にしなくていい やりたいだけやれ」

「ありがとうございます」

俺達は念入りに曲の打ち合わせをした

ほぼコピーだが オリジナル曲も何曲か含まれていた

「とりあえず 引き込む為にはハード系か?」

「最初から声でねぇぞ」

「んじゃ ロック系?」

「バラードの方がいいんじゃねぇ?そこから曲調強くして」

「いや…ロックだな」

何故ロックにこだわる?

その頃 俺の知らないところでサプライズが用意されてるとは 思いもよらなかった

結局 俺が折れてロックスタート

まぁ 後から考えるとこいつらの考えてた事はしょうもない事だったのだが…

「結構入ってるぞ」

マスターが差し入れを持ってやって来た

「久しぶりだな」

「いや 始めてだ」

「そうだな 単独だもんな」

「声持つか?」

「任せろ それより指攣るなよ」

「自信ない」

ここはマスターが休憩用に使ってる三畳ほどの部屋

今は俺達の楽屋

「曲の流れは覚えたか?」

「オッケー!」

「んじゃ 行くぞ!」

「オォ!」

初めての単独ステージに立つ

言うだけの事はあって ステージも客席も真っ暗

マスターが暗幕を張っていたのだ

「うわ!足元見えねぇ…」

ガンッ!

真っ暗過ぎる…

「ほら!出て来た!」

本来なら スマートにセッティングをして ジャ〜〜ン!と同時に照明オン!がカッコいいのだろうが…

もしくは 暗くしなくても 緞帳が上がるとか…

まぁ ここは喫茶店…

入っても三十人程度

それも立ち見で…

贅沢は言えない

真っ暗と言ってもだんだんと目が慣れてくると ぼんやりと周りが見えてくるもの

周りを見渡すと 三十人?それ以上いるんじゃないか?

そんな感じに見えた

トン!

トン!

トン!

これはオッケーの合図

軽く足を上げ かかとで音を出すのだ

三人の合図を確認したらドラムがスティックでリズムを取ってライトアップ

マスターも交えて打ち合わせをした事だった

しかし…

スティックの代わりに ギターを叩くリズムが聞こえた

それもエレキギターではなく アコースティックギターの乾いた音

(えっ?なんで?)

そう思った時にステージにライトが灯る

淡いブルーの灯り

マスターが普通のライトにセロハンで色をつけているのだ

いやいや…

あれだけ ロックでスタートって言ってたのは俺じゃなく こいつら

もちろん観客は知らない

俺はメンバーの方を見て

(違うだろ!)

そう目で訴える

(いいから前見ろ!)

そう言っているように見える

(しょうがねぇなぁ…なんで俺言った時にあんなにロックを推した…)

そう思いながら 客席の方を見ると みんなが何やら意味有り気な笑いを浮かべているのに気付いた

すぐにその意味はわかった

最前列の真ん中に 真希が居た…

それで 全てを察した

くだらねぇ事しやがって…曲目を変えたのはこの為だったのか…ってか俺は 最初からバラードって言ったじゃん…サプライズになってねぇし…

充分なサプライズだった

俺は涙で歌えない…

「英ちゃん!歌え!」

客席からは 野次が飛ぶ

「えへへ 始めて英ちゃんを泣かせてやった!」

おまえらに泣かされたんじゃねぇ!

言葉に出来ない

メンバーも意地が悪く

演奏を止めようとしない

俺は 発表会でテンパり頭が真っ白になった発表者のように マイクを持ったまま目を開ける事も出来ないでいる

「大丈夫?」

「うん…」

その声に薄っすらと目を開けると 真希が立ち上がろうとするのが見えた

周りのみんなは 手を貸そうとするが

「大丈夫だから…」

真希は自分の力で少しずつ俺に近づいてくる

みんなそれを黙って見守っている

「ちゃんと聴かせて」

最初に言った言葉

「みんなあんたの歌を聴きに来てくれたんだよ」

俺は小さく頷く

「みんなに迷惑かけたんでしょ?それなのにこんなにたくさんの人が来てくれたんだよ」

客席ではすすり泣く者まで…

「もう泣いたらダメだからね」

とめどなく涙が溢れる

「うん…わかった…」

やっと出た言葉だった

やっと演奏が止まった

止まったというより 一曲終わったのだ

真希は 仲間に連れられて席に戻っていた

しばらくの沈黙…

みんな 俺待ち

「英ちゃん!泣くな!」

「英ちゃん 歌って!」

客席からは野次のような声援のような…

真希は笑顔で待っている

「ふぅ…」

一つ息を吐き

「うるせぇ!」

それを合図にドラムが入った

今までにない入り方

それはあまりにも自然に もう二度と出来ないだろう

それだけで大盛り上がり

俺は歌った

ただの遊びで始めたバンド

アマチュアの アマチュアのようなバンド

でもこんなに盛り上げてくれる仲間達がいる

声を枯らし歌った


「すごいね」

「遊びだよ」

「だとしたら すごい遊びだね」

真希が病院に戻っていた

病院内は 真希が消えた事により大騒ぎになっていたみたいだ

こっ酷く怒られてしまった…

俺は知らない事だったのに…

「楽しかったなぁ」

その一言で全て忘れた

「もう一回歌って」

「今度な」

「今ここで」

「えぇ ヤダよ」

「誰もいないよ」

だからやなんだって…

大勢より一人の方が緊張する


それから数日が経ち

仕事帰りに真希を見舞う

「あははは」

病室から聞こえる真希の笑い声

誰か来てるのか?

それにしても元気な笑い声だなぁ

そんな事を思いながら病室に入ろうとして足が止まった

そこに居たのは 初恋の人…

えっ なんで?

二人が俺に気付いた

「こら 遅いぞ」

そう言ったのは 初恋の人

「彼女さんを待たせて 仕事終わったら真っ直ぐ来なさい」

俺の仕事場は片道70キロ…

どう急いでもこの時間がギリギリなのだ

「時間にルーズなのはまだ直ってないな」

俺…時間にルーズか?

遅刻なんか滅多にしないけど…

真希がニコニコしながら聞いている

とても異様な風景

「真希ちゃん この人に名前で呼ばれた事ある?」

真希ちゃん?

「あっ 無いかも…」

「でしょう!この人ね 好きな人の事を名前で呼べないんだよ」

「そうなの?」

確かにそう…男友達 女友達は名前で呼べるが 好きな人は恥ずかしくて名前で呼べなかった

ん?何故こいつがそれを知ってる?

幼稚園からの初恋の人

俺は こいつを名前で呼んだ事がなかったが

こいつも俺のことを名前では呼ばなかった

「さてと 私そろそろ行くね」

「あんた 送って来な」

えっ?

「いいよ 彼女さんの側に居てあげて」

「いいから どうせまた来るんだろうし」


結局 送る事に…

「彼女さん どうなの?」

「わからない…」

治ると信じてはいる

信じてはいるが…

「大事にしてやるんだよ」

「わかってる…」

「全く…何そんな顔してんの 大丈夫だよ!きっと治るって」

「うん…」

「ところでさ どうして呼んでくれなかったの」

何をだ?

「単独ライブやったんでしょ?彼女さん楽しかったって喜んでたよ」

「そうか」

「良〜し!車内単独ライブだ!」

車のコンポのボリュームを上げる

「歌わないよ」

「な〜〜んだ つまんないの…」

「あの時歌ったろ」

「箒ギターで?」

中学三年の時の話

「あの時 目合ったよね」

「忘れた…」

「ひど〜〜い」

中学三年の三学期

全校集会で 余興をさせてもらい数名で箒をギターに見立てて 歌った時

その曲のワンフレーズで 各々が自分の気に入ってる()へアプローチをかけた時があった

その時 俺と目が合ったと言ってるのだ

「な〜んだ…ちょっと喜んだのになぁ…」

忘れてはいない…確かに俺はこいつを見たのだ


「彼女さんの事 大事にするんだよ」

車を降り 運転席の方にまわってきている

「車来るから危ないぞ」

「うん…素直になりなね」

そう言って初恋の人は家に入っていった

「素直にか…」

俺はまた病院に戻った

「ちゃんと送ってきた?」

その為に行ったんだけど…

「聞いたよ」

何を?

「約束」

なんの?

「どうして待ってあげなかったの?」

はぁ その話ししたの?

「って…私が原因だけど…あんなに綺麗で優しい彼女なのに」

針の筵に居るみたいだった

「もし…もしだよ」

何を言おうとしている?

「もし…私がもしもの時は」

「腹減ったぁ…ちょっとパン買ってくる」

俺は病室を出た

タバコを吸って時間をつぶし 病室に戻る

「全く…話の途中で行っちゃうんだから…」

「いや 腹減って」

「ありがとう」

笑顔で言う真希

「そろそろ消灯ですよ」

看護師さんが巡回に来る

「んじゃ また明日来るから」

「無理しなくていいよ」

「こいつの事 よろしくお願いします」

俺は看護師さんに頭を下げ病室を出た

「毎日来てるけど 彼氏?」

「はい」

廊下に聞こえて来た会話

彼氏?に対して はい と答えた

多分 その時俺は 誰にも見せてない笑顔をしていたに違いない


数日後

「ほ〜〜ら 来た」

また居た

初恋の人

「ほら こんなに綺麗な花貰ったよ」

「悪いな」

「あんたにあげたんじゃないよ 真希ちゃんに持って来たの」

「あっ そうそう 今日ね龍也くん来たよ」

「龍也って 龍?」

「後誰居るの」

「龍の事知ってるのか?」

確かに 初めて真希に会った時 龍也も一緒だったが…

「たま〜に来るんだよ」

知らなかった…

「あの時も会場に連れて行ってくれたの龍也くんだもん」

「あの時って?」

「ライブ」

それも初耳

でも龍也居たか?

「一人で来るのか?」

「そうだよ ほとんど話しはしないですぐ帰るんだけど…必ず 帰る時 あいつの事頼む って言っていくの ちょっと下の引き出し開けてもらっていい?」

「これ?」

「ありがとう これ龍也くんが持って来たんだよ」

和紙に包まれた中身は 大福 だった

あいつらしいお見舞い

「よかったら食べて」

初恋の人に勧めてる

「じゃあ いただこうかなぁ うん!美味しい!」

「でしょ!私も少し食べたけど すごい美味しかった」

そりゃそうだ

この大福は人気店の 昼には売り切れる大福

それよりも お粥さんしか食わなかった真希が大福を食べた

病気だからこそ 食いたい物を食えばいい

「真希ちゃん あれ」

「あっ そうだ」

何二人で盛り上がってんだ?

そう思った時

「はい あんたはこれ食べて」

「む…無理…」

出されたのは りんご…

俺は りんごが大の苦手

「ね!言った通りでしょ」

「本当だ!」

何やってんだか…

「ねぇねぇ 後は?」

「ん〜とね トマト!でも面倒くさいからね」

「どんな風に?」

「サンドウィッチやハンバーガーに入ってるのは大好きなくせに 普通のスライストマトやプチトマトは食べないの」

俺の事?

「うわ!面倒くさ!」

「でしょ!後はねぇ…」

俺は黙って聞いていた

「唐揚げは 皮付きじゃないと食べないし 春菊のにおいが少しでもしたら それは絶対食べない」

「春菊美味しいじゃんねぇ」

葬式くさい…そう言いそうになり言葉を飲んだ

「好きなものは?」

「なんだろう サンドウィッチは良く食べてたね」

おまえが作って来たからな

「ご飯も味ついてれば食べてたね」

「面倒くさ!」

いちいち…

楽しそうに話す真希と初恋の人

俺が邪魔者のように思えた


そして…

それから二週間後に


真希は旅立った…
















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