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エンジェルナンバー0(弱虫)

あいつは あの約束を覚えていた

俺も忘れてはいなかった

でも今は…

何も知らずに笑顔で マフラーを直す真希


俺は帰りの電車でいろいろと思い出していた

中学までは ずっと側に居てくれた

そして 涙を流し別れた卒業式の日

あれから三年…

俺を待っていてくれたんだ…

それなのに俺は…最低だ…


その一週間後

「楽しかったよ」

「ん?どうした?」

「ありがとう…」

何が?

俺には意味がわからなかった

「私達終わりにしよう…」

「俺 何かした?」

「ううん…何もしてないよ…こんな私の側に居てくれた事…ありがとう…もっと早くあなたに会えていたら…」

そう言って涙を流した

俺はそれ以上何も言えなかった

あれだけツッパって居た真希が流した涙

その涙の意味がなんなのか…


『英ちゃん どうしたの?もうみんな来てるよ』

「俺 行かないって言ったろ」

『えぇ だって主役が来なくちゃ…』

「おまえらが勝手にやったんだろう!俺は行かない」

ガチャン

明後日 東京に出る俺の為に 仲間達がセッテングした送別会

俺の精神状態はボロボロだった

ただの弱虫


それでも東京行きの電車に乗ろうと駅のホームにいると

「あっ 居た!」

其奴らは見送りに来てくれた

「なんで黙って行っちゃうんだよ」

「家に電話したら もう行ったって言われて…間に合わないかと思ったぁ」

「あぁ うるせぇなぁ…」

本当は嬉しかったが…

「うるせぇってねえだろ こいつらはおまえを心配して」

「心配?俺を?逆じゃねぇ?」

つい口から出る言葉は 俺が嫌いだと思う言葉ばかり

「ふざけんな!」

龍也が殴りかかってきた

場所は駅のホーム

今日は俺の門出の日

祝いに来た奴と祝われる奴

取っ組み合いの喧嘩

「なぁ やめろよ!龍也くん 英ちゃん」

「巻き込まれるぞ!離れてろ!」

「なんだ また人の心配か?おまえはそうやって人の心配ばかりしてたな」

「うるせぇ!」

「こいつらなら大丈夫だ 俺が…」

の後に強烈な一撃を貰った…


「んじゃな」

「あぁ」

お互いボロボロになり 別れた

「あの野郎…本気で来やがった…」

電車に揺られ 龍也からの餞別を撫でながら 涙が止まらなかった

東京での生活は 今で言うシェアハウス のようなものだった

「あっ 来た来た 待ってたよ」

誰こいつ?

と思ってたら こいつらだった

男三人 女子四人

七人?俺混ぜて八人か…

はぁ…アパートにすれば良かった…

俺は極度の人見知り

「俺は…」

「私は…」

自己紹介が始まる

俺にしてみれば別世界

「なぁなぁ なんて呼べばいい?」

「なんでもいいよ」

「おっ 訛ってるねぇ」

なんでもいいよ それだけで訛りが出るか?

「ちょっと良しなよ」

「福島ってみんなそんなに訛ってんの?」

そう言うこいつは 関西訛りが入っている

「なぁ みんな訛ってんの?」

「もう良しなって」

男は馬鹿にし 女子は庇うようにそれをやめさせようとしている

くだらねぇ…

言葉がなに?

てめぇが使ってる言葉と何が違う?

確かに語尾上がりの俺の訛りは 良く喧嘩しているみたいだと言われていた

一人の男が 不穏な空気を察してか ギターを弾き始めた

「上手ねぇ…」

アコースティックギターから流れる音色は 不穏な空気を一掃したかに見えたが…

「俺にも弾かせて」

関西訛りがギターを弾く

アコースティックギターでロック調の曲

せっかくのアコースティックが台無しに…

「そんな弾き方したら調律が狂っちゅうよ…」

「ちょっと貸してみ」

「田舎者に弾けるのか?」

とうとう言ったな同じ田舎者が…

俺は 音を聴きながらペグを回し音を合わせた

「すげぇ 音を聴いただけでチューニングしてる…」

好きなものにはのめり込むタイプ

バンドをやり始まった頃 必死に覚えたチューニング

「ほら 直ったぞ」

「ありがとう 何か弾いてみて」

「うん 聴きたい!」

関西訛りは部屋に戻っていった

本来ならのせられてもやらない俺だが

静かに弾き始めた

「あれ?この曲ってピアノじゃ…」

「シッ!」

俺が弾いたのは 尾崎豊の『I Love You』

歌無しのギターの弾き語り

いろいろな思い出が頭の中を巡る


「上手ねぇ」

「すごいねぇ!なんかやってるの?」

「遊びでちょっとね…」

褒められても何も響いてこない…

俺は 入学式を待たず 地元に帰った


「やっぱり帰って来たか」

龍也の一言が胸に響いた

「おまえに大学は向かねぇんだよ どうすんだこれから」

「もう仕事は決めた」

「早いな」

「親に散々無駄金使わせたからな」

「ふっ 親不孝者が」

これから頑張らなければ…

しかし…

地元の会社に入社してすぐに嫌気がさす

その会社は 社員がほぼ女性

男は二十人程度

上司は殆ど男で その上司全てが社内不倫をしているような状況に気づいたのは 入社して半年が過ぎる頃だった

「あれ?最近あの子来てないけど…」

「専務からの誘い断って…これになったって…」

そんな話がしょっちゅうだった

今なら大問題になるに違いない

噂では

あの人の子供は 社長の子みたい

とか

あの人のは 課長の子

噂は噂だが…

そんな会社に嫌気がさし 仕事内容は好きだったが 長続きはしなかった…

その頃だった

地元で俺の一個上の幼馴染から 一つの紙切れを寄越された

「ここに行ってみな 多分待ってると思う…」

「誰が?」

大事な事を言わなかった

その紙切れに書いてあったのは 病院の名前と部屋番号?

数日後

暇を弄んでいた俺は そこ に行ってみた

「512…ここだな…」

俺は 病室の外にある名札を見て愕然とした

そこにあったのは 真希の名前だった…

恐る恐る病室に入る

真希は体を起こし 外を眺めている

その邪魔をしないように そっと近寄った

気配に感じたのか ゆっくりとこっちを見る真希

俺に気付くと

「よっ!久しぶり」

「うん 久しぶり」

罰が悪そうにする俺に

「どうして大学辞めた」

何故知ってる?

確かに 今こうしてここにいるのは不自然だけど…

それに辞めてはいない

入学しなかったのだから…

「俺に合わない…」

それしか言えない

「そっか」

笑顔でそれだけを言っただけだった

あの幼馴染が何故真希の事を知っていたか

それは 幼馴染の父親が癌で入院をしていた時 同室に居たのが真希

お見舞いに来た幼馴染が 自分と同じくらいの真希に声をかけ 話をしてる内に俺の名前が出たみたいだ


そして…

この病棟は癌患者の病棟…

真希の病名は


白血病


抗ガン剤治療により 頭にはニット帽を被っていたが明らかに髪がなかった


「治らないのか?」

聞かずにはいられなかった

「治す為に入院してるんだよ」

「そうだよな…治す為に入院してんだよな」

「馬鹿みたい」

あの頃の 馬鹿じゃねぇ ではなかった


「そっか 女子が多い職場か」

「女子って言っても 大半がおばちゃんだぞ 昔は女子だったんだろうけど」

「ちょっと それって酷くない?」

そう言いながら 笑っている


「なんだよ 英ちゃん帰って来てたんなら どうして連絡くれなかったの?」

「いや…」

こいつらには酷い事をした

合わせる顔がなかった

「何らしくない事考えてんの 英ちゃんらしくないなぁ」

俺らしさとは…

「それよりさ あの彼女 大変なんだってねぇ」

「誰から聞いた」

「この彼女」

「えっ?おまえら付き合ってんの?」

「付き合ってるって言うか…なぁ…」

「英ちゃん 私達今度結婚するんだ」

「はぁ…そうなの?」

ちょっと会わないだけでかなりな時代錯誤に…

いやいや…それよりも この彼女 はどうして あの彼女 の事を…

それ以上聞く事はやめた

この彼女は昔から 新聞記者並の情報屋だったから

「今から お見舞い行くところなんだ」

「誰の?」

「あの彼女の」

「なんで?」

「入院してるから」

「いや そうかもしれないけど」

「あれ?知らないの ちょっと前からみんな行ってるよ」

「みんなって?」

「英ちゃんの事知ってる人」

「はぁ…」

開いた口が塞がらないとはこの事

「なんで?」

「だって…英ちゃんの彼女でしょ?」

彼女か…一度フラれてるんだけど…

まぁ 事情はわかったから…

「英ちゃんも一緒に行こう」

「俺はいい ちょっと用事あるから…終わったら夜にでも顔出すよ」

別に用事はなかったけど…

大人数で押し掛けては疲れさせると思ったのだ

その夜

「みんな来てるんだって?」

「そう!はじめは誰って思ったんだけど」

そりゃそうだ

「あんたの友達だって なんか嬉しかったなぁ こっちには私の事知ってる人いないから」

「大丈夫か?あいつらうるさいだろ」

「そんな事ないよ みんな良くしてくれるし 泣いてばかりいちゃ…」

泣いていたんだ…

「笑えるようになって 少し気が楽になったよ」

「そうか 笑えば嫌な事が忘れられるっていうか 気晴らしにはなるか」

「やっぱりあんたの友達だね あの時の事思い出しちゃった」

「あの時?」

「私を笑わせようと頑張ってくれてた時」

いつだ?

「私…あんたに甘えてた…」

「いいじゃん 甘えれば…無理にツッパるより」

真希は小さく頷いた


「単独?」

『そうだよ!マスターから今電話あって』

「単独って 単独ライブ?」

『後何の単独あるんだよ 英ちゃんも帰って来たんだし やろう!』

俺は迷った

夢にまで見た単独ライブ

しかし…俺達のライブで人が集まるのか?

よく観に来てくれていた奴らに俺は酷い事をした

其奴らに来てくれとは言えない

ライブ会場は 普段は普通の喫茶店

ワンフーズワンドリンクで千円

それが店の利益になるのだが 人が集まらなければマスターにも迷惑をかけてしまう

「ちょっと考えさせてくれ」

『何言ってんだよ 英ちゃんらしくないなぁ』

「明日には返事するから」

俺はそう言って電話を切った

俺はすぐ マスターの元へ

そこへ行くのは春以来だった

カランカラン…

「いらっしゃい…おっ 来たな」

来る事を予感していたみたいだった

「いつもの」

俺はそれだけ言ってカウンター席に座る

マスターは何も言わず 俺が頼んだメニューを作っている

店内を見渡すとあの頃のまま

「変わってないだろ」

マスターが料理を運んで来た事に気付かなかった

「はい 裏メニューの ツナスパドリア」

ツナスパドリアとは メニューにはない俺だけのメニュー

ツナスパにドリアソースをかけて焼いたものだ

「まだ十八か…俺が十八の頃は何やってたかなぁ…バイク乗り回して近所に迷惑をかけて 馬鹿ばっかりしてたなぁ」

コーヒーカップを拭きながら独り言のように呟いている

俺は それを聞きながら味もわからずツナスパドリアを食べていた

「なんでもかんでも背負う事ないんじゃないか?自分の幸せを優先してもいいと俺は思うけどなぁ」

ツナスパドリアに塩味が加わる

「好きな人がいるなら その人だけを見て それがハッピーエンドにならなくても一日一日を楽しむ 嫌な事があったら野郎の友達とバイクでどこへともなくかっ飛んで全て忘れる それが一番じゃないかなぁ」

俺はバイクの免許を持っていない…

それはマスターからの激励の言葉だったに違いない

「マスター いい音だねぇ」

店内に流れる有線放送の音が今までと違う事に気付いた

「やっぱりわかった?BOSEのスピーカーに変えたんだ」

当時 一番いいスピーカー

「なぁ このスピーカーで歌わないか?」

「集まらなかったら?」

「その時はその時…まぁ おまえらのバンドなら大丈夫だろ」

「……よろしくお願いします」

マスターの笑顔が今でも忘れられない

「良し!セッティングは俺に任せろ ポスターも作らないとな 日付けは来週の日曜日でいいな」

俺は 黙って頷いた

こんな自分勝手な俺の為に…











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