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エンジェルナンバー0(日常茶飯事)

「おぅ!(りゅう)帰っぞ!」

「俺はいい 一人で帰る」

「なんで?彼奴らどこで待ってるかわかんねぇぞ」

彼奴らとは 三年のコント集団

「怖くなんかねぇ」

確かに…怖いよりも面白いかも…

それでも 間違いなく俺らよりは二年も育っている事は確か

去年まで中坊だった俺達よりは 腕力があるはず

俺は 駅までの道のりを龍也の後ろを 付かず離れずの距離で歩いた

「ついて来んな」

多分…こう言ったに違いない

「俺も電車通だっての 別に後を追ってるわけじゃねぇし」

「勝手にしろ」

多分こう言ったと思う…

この日 滑稽なお兄さん方は現れなかった


「おぅ!龍 おはよ!」

「俺は 龍じゃねぇ 龍也だ」

「いいじゃん (たつ)じゃ言いづらいだろ!」

「勝手にしろ」

声が低く ぶっきら棒だが 悪い奴ではないのはわかった


「英ちゃん よく怖くないな…」

「なんで?あいつ人を喰うって噂でもあるのか?」

「そんなのはないけど…」

「俺は怖くて声かけられない…」

龍也は 常に一人

同じ中学校から来た奴らとも距離を置いていた


「おぅ おまえ龍と同じ学校だったよな?ちょっと龍の事教えろ」

俺は 違うクラスに行き 龍と同じ中学校出身に話しを聞いた

「あぁ!おまえ誰だ?」

まだ入学したばかり 他校に舐められまいと鼻息の荒い輩が沢山居た

「龍の事を聞きたいだけだ…あまり顔を近づけんな」

「…龍って 龍也か?」

何故か鼻息が治まる

「あいつは…」

中学生の頃からいつも一人で 親は片親 母親と二人暮し そして…何度か警察沙汰を起こした経歴あり

「警察沙汰を起こして なんで高校に入れたんだ?」

「警察沙汰って言っても 正当防衛って言うか…相手はチンピラだったし…」

「ふ〜〜ん…中坊でチンピラと…あいつ面白ぇな!」

「あまり関わらない方がいいよ…」

さっきの鼻息はどこに行った?

「龍也くんはヤバイよ…」

「龍也くんか…おまえ友達居ないだろ 裏表ある奴は好かれねぇぞ」

バン!ガシャン!

「なんだ!」

廊下から聞こえてくる 恐らくガラスが割れた音

教室から出て行くと

「おまえが◯中の龍也だな」

龍也が一年坊数名に囲まれて居た

各教室からは顔がいっぱい出ている

「何やってんだ?」

つい俺の悪い癖が…

「誰だおまえ?」

無視をして俺は状況を把握する

窓ガラスが一枚割れ 恐らく 敵 が一人うずくまって倒れていた

「龍…おまえ手が早いな…」

「うるせぇ…おまえには関係ねぇ」

「おぅ!おまえは誰だって聞いてん…」

肩を掴まれた瞬間…また悪い癖が…

「人に言えねぇな…」

肩に触れたやつが伸びていた

「なんだこいつ!おぅ!やっちまえ!」

三流映画のような台詞…


「俺の方が一人多かったな」

「おまえが来なくても全部一人で大丈夫だった」

俺が三人 龍也が二人 計七人が廊下に転がっていた


「なんで喧嘩になったんだ?」

「知らね こいつらが絡んで来た」

しかし…感情ってものを失くしたのか?って聞きたいくらい表情を変えない龍也


「なぁ 同じ電車通なんだから 一緒に帰んないか?」

「俺に構うな」

何故か頑なに断る

「龍…おまえ敵多過ぎだろ」

「いいんだ!俺に構うな」

たまにデカイ声を出す

「英ちゃん 帰ろう」

「だな…」


それからしばらくは 龍也に絡んで来るやつはいなかった

よほど七対二が印象強く残ったのだろう

そうこうしているうちにあっという間に夏休み

高校生とはどこに行くにも自転車

「あっちぃなぁ かき氷でも食うか」

「英ちゃん…ここレストランだけど」

「かき氷ののぼりあるだろう」

「そうだけど…レストラン入ってかき氷だけって…」

高校生同士だとレストランの敷居は高い

そんな錯覚をするだけなのだ

レストランに入り席に着くと

「いらっしゃいませ…」

どこかで聞き覚えのある声

「おぉ 龍!何やってんだ?こんな所で」

「おまえこそ こんなとこまで何しに来た」

俺ん家からレストランまで 10kmはゆうにあった

今は夏休み…

龍也は バイトをしていたのだ

「馬鹿じゃねぇ…」

俺は客 龍也はバイト

客に言う言葉か?

「俺 イチゴミルク」

「ふっ」

一瞬 龍也が笑ったように感じた

「後は?」

「それだけだ」

「ここはレストランだ 何か食わないのか?」

「だから イチゴミルク ミルク多めな!」

「作るのは俺じゃねぇ」

ぶっきら棒にオーダーを取り 厨房に行く龍也

「あいつバイトしてんだ…」

「学校の許可取ったのかなぁ?」

そんな事をする奴ではない…無許可だろう

俺は そこは気にはならなかったが 一瞬だけでも笑ったように感じた事がなんか嬉しかった

「ほら イチゴミルク」

もう一度言うが 俺は客で龍也はバイト

「ん?俺 イチゴミルク頼んだんだぞ」

龍也が持って来たのは 真っ白なかき氷

「イチゴミルクの後なんて言った」

真っ白に見えたのはミルク

「食ったらさっさと帰れ」

もう一度…俺は客…

歯が浮くくらい甘い練乳かき氷を食べて 店を出ようとした時

「俺が払っておく そのまま帰れ」

「えっ?いいの?」

「ダメだ 龍…時給いくらだ?二人分で二時間只働きになるだろ」

ただ氷を削ってシロップをかけただけの食い物 500円

「いいんだ ただもう来んな かき氷だけ食いに来るとこじゃねぇ」

俺は あのクソ甘いかき氷の味を忘れられない


そして夏休みも終わり


「あれ?龍は?」

二学期の始業式に龍也の姿がなかった…

「あれ?英ちゃん知らないの?龍也くん入院してるみたいだよ」

「なんで?」

「一昨日の夜 なんかあったみたい」

なんかってなんだ?…中途半端な情報だった

俺は 龍也と同じ中学出身のやつから 龍也の家を聞き出した


「ここだな…」

龍也の家に行ってみると 母屋の前にちょっとした畑があり そこで畑仕事をしている初老の女性がいる事に気づいた

「すいません…龍也…」

「龍也は居ねぇ!」

この初老の態度は まるで龍也そのものだった

間違いなく龍也のお袋さんだと確信した

「何しに来た」

振り返ると傷だらけの龍也が…

「なんだ居るじゃん」

「龍也!病院抜け出して来たのか!」

って事は やっぱり入院していたんだな

「もう治った」

「全くこの馬鹿は…」

俺はしばらく ぶっきら棒な会話を黙って聞いていた

そのぶっきら棒の会話に お互いの優しさを感じながら

龍也の家は お世辞にも裕福な家庭とは言えないのは一目瞭然

龍也は 入院費がかからないように病院を抜け出して来たみたいだった

歩くのもやっとというくらいの状態で家に入って行く

「そんなとこに突っ立ってないで入れ」

「お おぉ…」

龍也は俺を招き入れてくれた

「龍 何があったんだ?」

「大した事じゃねぇ…」

俺が家の前に停めてある自転車を見た時 自転車に傷はなかった

だから 龍也のこの傷は自転車で事故った傷ではないはず

「ほらオヤツ買って来た 二人で食え」

龍也のお袋さんがコンビニで買って来たみたいだった

コンビニ袋にはシュークリームが二つ

「無理すんなよ…」

無理?たかがシュークリーム二つで?

俺はその時 何が無理なのかわからなかった

「おめぇの友達来るなんて初めてだからな」

お袋さんが少しだけ笑った

「友達なんかじゃねえょ」

照れ臭そうに言う龍也

結局 龍也の怪我が何によってかは迷宮入りのままだった


そして次の日

「なんだ出て来たのか?」

龍也は学校に出て来た

「休んだら単位なくなる…」

龍也の口から 単位という単語が飛び出し かなり驚いた

「無理はすんなよ」

「おまえに言われたくねぇ」

全く可愛げがない…ありがとうの言葉くらい言えないのか?


「英ちゃ〜〜ん!」

その日の放課後

「龍也くんが!け…喧嘩…」

「また?全く…血の気多過ぎだろ」

現場に駆けつけると 既に取っ組みあっていた

遠巻きに見学してる奴らをかき分けて行くと 三人を相手に…

「何やってんだよ ほら!やめろ!」

やめろと言って止まるものではない

「おまえらも見てんじゃねぇ!止めろ!」

数名が間に入って止めようとするが…

終わってみると五人が転がっていた

「龍…おまえな…」

「うるせぇ」

それだけ言うと足を引きづりながら行ってしまった

最初から見ていたやつが言うには

怪我をしている龍也に 三人が絡んでいったみたいだった

龍也に勝てば 名前が売れるとでも思ったのだろう

高校生活をする上で 喧嘩が強いイコール偉いと勘違いする馬鹿の考える事

しかし 龍也は強すぎる

強いから偉いとも思ってないのだが


そして俺達は高二になった

「英ちゃん また来てるよ」

今年入った同じ中学校や別の中学校の可愛い後輩が挨拶に来るのだ

「めんどくさ…ほっとけ」

これからの高校生活をエンジョイする為の伏線を張りたいだけなのだ

あいつは ◯◯先輩に面倒みてもらってるから

まぁ 水戸黄門の印籠のようなもの

かと思えば

「俺と勝負してください」

自分で名をあげたい馬鹿者

昔の高校とはそんなところだった

「龍 帰るぞ」

「全く…おまえは馬鹿か?一人で帰るって毎日言ってるだろ」

俺は 毎日断られても龍也に声をかけた

「なんで?同じ電車だろ」

「いいから行け みんな待ってるだろ」

「英ちゃん 電車に間に合わなくなるよ」

電車は一時間に一本

駅までの道のりにも危険は沢山

「英ちゃん!喧嘩!」

なんでいちいち俺を呼びに来る…

「放っとけばいいんだって やりたい奴にはやらせておけ」

俺はレフリーでも行司でもない

「でも他校のやつとウチの一年が」

「どこだ」

はぁ…龍也じゃ審判は出来ないな…

「校門のとこ」

結局 龍也の後を追う羽目になる

こんな事が日常茶飯事だった…






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