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エンジェルナンバー0(天使と悪魔)

それから数ヶ月後 あいつは女の子を出産した

頭に障害を持った…


「どうしたんだ?」

『ううん 何してるかなぁって思って』

そんなどうでもいい事で電話を寄越したのでない事にはすぐ気付いた

「どうした?」

『うん…ごめんね電話して』

「いいって どうしたんだ?」

自分の娘に 旦那が手をかけないという相談だった

俺は 結婚式の時を思い出す

あの旦那ならあり得る

だからといって俺がどうしてやれることなんかない

「もう半年くらいになるか?」

『うん もうすぐ六ヶ月だよ』

「可愛いだろ」

『うん!すごく可愛いよ』

だんだんと明るい声になっていく

「旦那もその内 その可愛いさに気づくさ」

『そうだといいんだけど…』

「大丈夫だって」

『うん…わかった…ごめんね ありがとう』

そう言って電話を切った

さてどうしたものか…

俺に関係ないって言えば関係のない事

しかし あいつは俺をいろんな場面で助けてくれた

それに…あの旦那…

多分 正義感が働いたのではなく

あいつを助けてやりたかったのかもしれない


「今度 温泉でも行くか?」

「誰と?」

「みんなで」

「俺達の他に誰居るの?」

「あいつの命日に集まってくれるみんなだ」

「でも…なぁ…」

「英ちゃん せっかく誘ってくれたのに…」

「宿泊代はかからないぞ ちょっと知り合いが居てな 格安でさ 実はもうみんなの分払ってあるんだ」

「本当に!」

「本当だ」

「だからさ 悪いけどみんなに連絡してくれないか?おまえらみたいに結婚して子供居る人はみんな連れて来いって 後彼女居るやつは彼女が良ければ連れて来いって」

「わかった!温泉かぁ 何年ぶりだろう」

「英ちゃん…本当なの?」

女性はどうしてこう勘がいいんだ?

「本当だ あいつに連絡頼めるか?」

何かに気付いた顔を見せる

「わかった…必ず来るように言っておく」

あいつらが来ないと意味がない温泉旅行


「わぁ!すごぉい!ここに泊まるの!」

「そうだよあっちゃん お風呂も大きいぞ」

多分…

俺もここは初めて

「おっ 来た来た!」

「あっちゃんこんにちは!大きくなったねぇ」

「おばちゃん 赤ちゃん見せて」

「どうも…この度は…」

旦那が俺に挨拶してくるが 何を言ってるか聞こえない

「この前はどうもありがとう」

「いや…」

それだけの会話

「んじゃ 七時に晩飯で いいよな?」

「いいよ」

「オッケー」

みんな一旦部屋に戻り 俺は夫婦漫才師の部屋を訪れた

「あっちゃん 赤ちゃん可愛いかったか?」

「うん!ほっぺツンツンしたら笑ったんだよ」

「そっか」

大人は建前

子供は本音でものを言う

「あっちゃんはいい子だ」

「英ちゃん もしかして…」

「何が?俺 気ままだろ 急に温泉来たくなってな 一人じゃつまらないから…そろそろ飯の時間だぞ」

俺達が大広間に行くと みんながあいつの子供をあやしていた

「ほら笑った!」

「可愛いね」

旦那は見向きもしない…

ってか俺を見ている

「みんな集まったな んじゃ食べるか」

「ジュースは子供達と英ちゃんに集めて」

子供扱いするな…

酒飲めないけど…

「んじゃ おまえ乾杯の音頭とれ」

「いいの?じゃあみなさんお手を拝借!」

何か違うぞ?

「おい!もうお開きか!」

「ナイスツッコミ!じゃあ 乾杯!」

俺達のいつものノリ

旦那はまだ馴染めないでいるのか 話もしない

ビールを持って主催者に挨拶に来た

「今日はどうも…」

そう言ってビールを注ごうとする

「ダメだよ この人は…」

「あいにく呑める口持ってないんだよ」

「そうなの?」

そう言ってジュースを注ぐ

「子供 可愛いな」

「まぁ…」

俺の一言で あいつは気付いたみたいだった

子供達は ご飯も食わず赤ちゃんの周りに集まっている

「まさか障害を持って生まれてくるとは…」

実の子だろ…

全てを受け止めていない発言に少しカチンと来た

「少しくらい障害があったって それが何?ちゃんと愛情を持って育てればいいんじゃないか?」

俺も少しは大人になっていた

昔ならここで手が出ていたかも…

旦那は黙って自分の席に戻って行った

「英ちゃん カラオケやろ!」

「あまり高くするなよ 子供が居るんだから」

「何言ってんの?歌うのは英ちゃんだよ」

全く…俺はカラオケは嫌いなんだって

「いいから飯食え ほらあっちゃんエビ好きだろ!こっち来て食べな」

宴会は終始和やかに…は 進んではいない

あいつとその子供の周りには子供達が集まり

他のやつらは談笑をしている

俺と旦那だけは一人だった

「ほら また笑った!」

「あっちゃんお姉ちゃんって言ってんだよ」

「お姉ちゃんか ほらまた」

その時 やっと旦那が我が子に目をやった

障害がなんだって言うんだよ

子供にはなんの罪もない

あいつが選んだやつならそれくらいわかるだろ

それがわからないなら…

「ちょっといい」

そう言って旦那が我が子を抱き上げた

そうだ それでいい

あいつは涙ぐんでいた

たかだか夫が我が子を抱き上げただけで…

俺は何をやってんだか…


それから数日が過ぎ

俺はあいつの旦那から食事に招かれた

無口なイメージがあった旦那だったが かなりしつこく…

「この前はありがとう」

「いや 楽しんで貰えたんなら」

「こいつからいろいろ聞いたよ」

何を?

「彼女を亡くしたって」

「昔の事だよ」

「こいつを大事にしてくれてありがとう」

何言ってんだ?

「そりゃ仲間だからな」

「ほら!ご飯の用意出来てるんだから食べて」

「こんなんでいいのか?」

「いいの 全部この人の好きなものだから」

俺の好きなものは こんなもの なのか?

「酒…はダメだったね」

「ちゃんとジュース買ってあるから」

旦那はかなりな勢いで酒を煽ってる

「あなたに負けないくらい俺はこいつを愛している!」

俺に言うなよ…

「だから見ててくれ こいつを幸せにしてやるから」

だから俺に言うな

「そろそろ寝たら?」

「うん…」

そう言ってその場に横になりいびきをかきはじめた

「ごめんね…」

「いいよ 酒が入らないと言えなかったんだろ んじゃ俺は帰るよ」

「泊まっていったら?」

「そんなわけに行かないだろ ご馳走様」

俺が車に乗り込むと

「あの人 あれから少し変わったよ」

「そうか おまえが選んだんだ いいやつに違いないだろ」

「ありがとう…こんな事言っていいのかなぁ…」

「何が?」

「あなたに会えて…本当に良かった…」

「んじゃな」

俺はその言葉には何も言わず車を出した

それから あいつからの連絡はしばらくなかった


そして時は過ぎ

2011年3月

あの未曾有の大震災が東北の太平洋沿岸部を襲った…

「龍 みんな大丈夫か?」

俺はその日会社を休んでいた

「そうか 帰り山の方を帰って来るんだぞ」

その時はまだ 津波が来た事はわかっていたが それほどの被害があったとは予想だにしなかった

母親達が居る避難所へ行くと

「英ちゃん!」

「おぉ 大丈夫だったんだな」

「俺とこいつは仕事してたから…」

何泣いてんだ?

「あっちゃんが…」

「あっちゃんがどうした!」

「連絡取れないんだよ…」

あっちゃんが通う学校は海からそう離れていない

しかし学校は高台にある

「学校に避難してるんじゃないか?今携帯繋がりづらいから」

「だといいんだけど…」

「お袋さん達には連絡取れたのか?」

「取れない…」

「きっと大丈夫だ あっちゃんはばあちゃん達と一緒に学校にいるって」

気休め程度の事しか言えない

その日夜遅くに龍也から電話が入る

「どうした?」

龍也の家も地区は違うが 海に面しているところにあった

龍也は帰ろうとしたが立ち入り禁止になっていたと…

その他にも社員数名が…

次の日の朝

俺はとりあえず あっちゃんに会いに父親の方だけを連れて学校へ向かった

「英ちゃん…」

「泣くな…まだそうと決まったわけじゃないだろ」

俺達が生まれ育った場所は…見るも無惨な姿に変わっていた

道路には泥や瓦礫が積み重なり 車を走らせられる状況ではなかった

俺達は山を登り高台にある学校へ向かう

「あっちゃん!」

学校の体育館には避難して来た人がひしめき合っている

「あっちゃん知らないか?」

「知らない…」

「なぁ あっちゃん見てないか?」

俺達はあっちゃんと同じくらいの子供に聞いてまわった

「なぁ ここの他に避難所はないのか?」

「小学校の体育館も避難所になってるよ」

「おい 俺は小学校の方を探してくる おまえはこっちを探せ」

「わかった!」

そんなに大きい建物ではない…

見つからないわけはないのだ…

後の望みは小学校の体育館だけ

「なぁ あっちゃん来てないか?」

「あっちゃんなら 私より先に帰ったから…もしかすると…」

「もしかするとなんだ!」

「私…坂を下りてる途中で津波来て…」

女の子は震えている

「ごめんな…思い出させちゃったな…」

俺は聞くのをやめた…

「英ちゃん!」

「居たか?」

黙って首を振る

「違う避難所探すぞ」

「英ちゃん…もういいよ…」

「何言ってんだよ!」

「高台から見てたって…多分…うわぁ〜〜ん」

こいつも誰かから聞いたのだろう…

「まだだ 他の避難所にいるかもしれないだろ」

俺はこいつを自分達が居た避難所に残し 一人で他の避難所を探した

そこには龍也達が居る避難所もあった

「龍 お袋さんは?」

「ダメだ…見てたやつの話だと 母ちゃんは家に居たって…おまえんとこは?」

「俺ん家は大丈夫だ…龍 あっちゃん見なかったか?」

「いや 見てない…学校じゃないのか?」

「そこは見て来た」

「なんなんだよ!なんでこんな事に…」

龍也が言う通り なんの罰なんだよ…

「龍 後で連絡するから 仕事はこれじゃ出来ないだろうからな」

「わかった」


それから二日後

「あっちゃん!あっちゃん!」

あっちゃんは遺体で見つかった…

最悪の結果だったが…早く見つかっただけ…それだけが…

「あっちゃん…うわぁ〜〜〜〜〜〜」

気が狂ったように泣き噦る

無理もない あっちゃんはまだ十歳

十年しか…

「英ちゃん…あっちゃんが あっちゃんが…」

俺は何も言えない

ただただ溢れる涙を流すことしか…

「英ちゃん!」

俺をそう呼ぶ一番小さな彼女

「英ちゃんあれ買って!」

俺に気を使わないで甘えてた

もしかすると 唯一俺に気を遣わなかったのは あっちゃんだけだったかも…

そんなあっちゃんが…

あっちゃんの棺には あっちゃんが大事にしてくれていたピンクのイルカも一緒に入れられていた

あっちゃんが発見された時 近くに転がっていたみたいだった

本物のイルカだったら…あっちゃんは助かっていたのか?

そんな事を本気で考えた…


俺は会社の連中に連絡をした

「明日から遺体の捜索するぞ」

全員参加で遺体捜索を開始した

社員の中には 親や祖父母が行方不明になった者も

「おまえらはいいぞ いつ連絡あるかわからないだろ」

「大丈夫…多分…だから俺が見つけてやるんだ…」

行方不明イコール…そう思っているのだろう

俺達は地の利を活かして津波の流れを読み そこを重点的に探した

そこはまるで地獄のような風景

瓦礫と遺体が折り重なるように…

「すげぇな…」

「おい!ちょっと来てみろ!」

「これって…隣のじいちゃん…」

地区の消防団や地方から集まってくれた自衛隊派遣のやつらは 見当違いのところを捜索している

「おい 消防団呼んで来い」

すぐに消防団が駆けつける

「うわ…なんだここ…」

「あの山にぶつかって ここに集中したんだろ あんなとこ探したって見つからないだろ」

「波の流れか…」

それくらいわかるだろ

「おい あいつらに伝えて来い とりあえずここの遺体を回収だ」

消防団がみんなを集めて遺体回収を開始する

そこには複数の遺体が…

「おまえらはここに残れ」

家族が行方不明になってる者を そこ に残し俺達は別の場所へと向かった











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