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エンジェルナンバー0(Last Christmas)

「何乗ってんだ?」

「お母さんがゆっくりしてきなって言ったの聞こえなかった?」

いや 聞こえたけど…

「おまえの親どうなってんだ?」

「あんたが信用され過ぎなの」

「でも俺男だぞ」

「そこら辺の男とは違うよ」

なんなんだよ一体…

「今日もあんたん家に泊まろうかなぁ」

「ダメだぞ 俺が信用されているなら尚更ダメだ」

「ほらね 普通ならバレなければいいやって考えるでしょ」

試されたのか…

まぁあの母親もこいつを信用してるのだろう

「ねぇ…」

「どうした?」

「クリスマス…用事ある?」

「仕事だよ」

「仕事終わってからだよ」

「どうだろう 多分ないんじゃないかなぁ」

「じゃあ決まりね!」

「何が?」

「クリスマスの夜 あの喫茶店で待ってる」

もうそろそろいいのか?

忘れていないんだぞ…

忘れられないんだぞ…俺が忘れたら…あいつの存在が本当になくなってしまうんだ…

「来るまで待ってるね」

そう言って車から降りて行った


「龍 今日は残業なしな」

「なんでだ?」

「今日はクリスマスだからな」

そう 今日はクリスマス

「本当か英ちゃん」

「あぁ ちゃんとカミさんと子供にサービスするんだぞ」

「俺 何やろうかなぁ 彼女もいないしなぁ」

「んじゃ 飲みにでも行くか?」

「問題だけは起こすなよ」

「おまえはどうするんだ?」

「俺はちょっとな」

「おっ もしかして英ちゃんもとうとう…」

「馬〜鹿 そんなんじゃねぇよ」

「ふっ…」

龍也が何かに気づいたように笑った


「お疲れ〜〜!」

「おぉ 帰り事故るなよ」

「まだ帰らないのか?」

「もう少しで事務処理終わるから」

「早く行ってやれ」

やっぱり気づいていたか…

「龍こそ 飲みに行って騒ぎ起こすなよ」

「おぅ こいつらは俺が見張ってるから安心しろ」

いや おまえが一番心配なんだけど…

「おっ 雪降ってきた!ホワイトクリスマスってか!」

「タイヤ交換したか?」

「十二月入ってすぐやったから大丈夫だよ」

「そうか 気をつけて帰れよ」

「お先っす!」

「お疲れ様」

時計は六時半になろうとしていた

「良し これで終わり…急いで帰って八時か…」

こんな俺を待っててくれてる

もう待たせない

俺は車を飛ばした

この時期 雪が降るのは珍しい

行く手を阻むように情け容赦なく振りつけてくる

道路は瞬く間に雪化粧へと変化していく

急な雪にタイヤ交換を済ませていない車が至る所で立ち往生

結局 待ち合わせ場所に到着したのは十時になろうとしていた頃だった

喫茶店の明かりが消えている

「間に合わなかったか…」

よく見ると 厨房だけに明かりが点いているのが見えた

「マスターまだ居るんだな」

俺は 車を降り喫茶店の扉を開ける

カランカラン…

寂しく鳴る 入り口のベル

「マスター 居る?」

返事がない

「なんだよ…不用心だなぁ」

俺は灯を消そうと厨房へ

パン!パパン!

なんだ!

「メリークリスマス!」

そこに居たのは 仲間達

「何やってんだ?」

「遅かったねぇ」

厨房から出て来たのは

「英ちゃん 待ち草臥れたぞ」

「何でおまえ達が?」

「今日はクリスマスだろ 英ちゃんの行動なんかお見通しさ」

お見通しって…

「私が来た時はもうみんな来てたよ」

居たんだ…

「クリスマスは毎年ここに来てるってマスターから聞いてね」

「なんだ?なんで楽器まで」

「今日はね マスターに頼んで 場所借りたの」

「?…マスターは?」

「マスターは これ とデート」

頭の整理がつかない

「マスターに借りたって?なんの為に?」

「今日はクリスマスだよ パーティーやるんだよ」

チッチッチッ

ドラムが急かす

「英ちゃん!ステージに上がれ!」

「どういうことだ?」

「さぁ とりあえず上がったら 私も聴きたいなぁ」

「俺 作業着だぞ…」

「格好なんかなんだっていいじゃん 服が歌を歌うんじゃないし」

「近所迷惑になるんじゃないのか?」

「あれ知らないの?壁 防音壁にしたんだよ だからカラオケ入れたんだもん」

そういう事か…

「ほら あんたの歌聴かせて」

「しょうがねぇなぁ…やるか!」

「よっしゃ!今日の英ちゃんは一味違うぞ」

なんだそれ?

「ごめんな」

「また謝る!いいから早く歌って」

俺は作業着でステージに上がった

トン!

トン!

トン!

いつもの合図で曲が始まる

打ち合わせなんかしないでも こいつらが演奏する歌を歌えばいい

数名の観客は総立ち

恐らく日本で一番小さいライブハウス

でも最高の仲間達がいる

ライブは日を跨ぎ続いた

「ふぅ…んじゃ最後な」

「えぇ!もっとやろうよ!」

「いや もう充分だ…みんなありがとな」

「何言ってんだよ英ちゃん 俺達の方がありがとうだよ」

こいつらまた 泣かせる気だな…

「こんな格好でごめんな 俺のギターあるか?」

「英ちゃんがギター持ったって事は…」

「ピアノの曲だね」

俺はピアノが弾けない…

いや 唯一弾ける曲が一つ

別れの曲

ピアノが弾けないから ギターでアレンジして歌うのだ

「白な」

「オッケー」

これだけでわかる

「白ってなんだ?」

聴く側にはわからない

アンプに繋がず 静かにギターを弾く

「これって…」

「白い恋人たちだ…」


「今日はありがとな」

「ううん 俺達の方がありがとうだよ それに英ちゃん今日は…」

ちらっと俺の隣を見る

「楽しかったぁ この人の歌 こんなに聴いたの初めて みんなありがとね」

その言葉が みんなを安心させた

「良かったぁ…」

「片付けてそろそろ帰るか 雪半端ないぞ」

「そうだね」

真夜中に喫茶店の大掃除

「気をつけて帰るんだぞ」

「うん じゃあね」

いつも最後まで残る二人

「さて 俺達も帰るか」

「家…行っていい?」

「あぁ…」

「本当にいいの?」

「俺 一度しか言わないの知ってるだろ」

「うん!」


「そういえば俺何も食ってないなぁ マスター居なかったし…」

「なんか作るよ」

「インスタント麺しかないぞ」

って もう台所に行ってるし…

「あれほど言ったのに 自炊してないの?」

女性を尊敬するよ

俺は 自分で作ると 作ってる最中に食べた気になり食べる気が失せてしまうのだ

「全く…」

台所でぶつぶつ言いながら何かを作っている

「はい どうぞ」

「なんだこれ?」

「いいから食べてごらん」

白いスープのインスタント麺なんかあったか?

「どうよ」

「うん 美味い」

「感情がこもってない!」

「おぉ!美味い!」

絶対棒読みだったに違いない

「今日は悪かったな」

「また謝る…」

「まさかあいつらが居るとは思わなかったんだよ」

「毎年一人でクリスマスしてるから心配だったんでしょ?別にあんたが謝る事じゃないよ それに…最後にまたここに来れたから…」

最後?

敢えてそこには触れなかった

「お風呂用意して来るね」

なんで最後なんだ?

「歯ブラシ新しいのある?」

「洗面台の下にあると思うよ」

「有った 一つ貰うね」

「あぁ…」

鼻歌交じりで歯磨きをしている

「お風呂溜まったよ!」

ん?

「おい!まさか泊まるのか?」

「もちろん さっき言ったでしょ」

さっき?家行っていいっては聞かれたけど…

「先入っていいよ」

「家には言ってあるのか?」

「うん…」

「俺のところに泊まるってか?」

「……でも あんたのとこなら大丈夫だよ」

「そっか…」

多分 言ってないな…

確かに 俺のとこに居たっていえば 親も安心するかもしれないけど…

なら何故言って来ない

「いいよ 先に入って来な」

「また服借りるね」

「お好きなのどうぞ」

タンスを勝手に漁って持っていく


「ふぅ…」

「またぁ タバコ少し控えな」

「タバコくらいいいだろ」

「いいけど あんたは吸い過ぎだよ…」

確かに吸い過ぎなのはわかっている

一日 少なくとも三箱は吸っている

「俺も風呂…眠かったら寝てていいぞ 今日はベッド使え」

「いいよ 待ってるから」

もう二時を回っていた

「ふぅ…ん?」

バスルームの鏡に指でなぞったような跡が…

さよなら?

その文字は まるで涙を流しているように見えた

さっきの 最後 の言葉

そして さよなら の文字

なんなんだ?

「ねぇ!携帯鳴ってるよ!」

こんな夜中に?

「誰からだ?」

「見ていいの?」

やましい事なんかない

「見て!」

「ん〜〜とね 非通知だよ!」

非通知?

俺の携帯に非通知で電話をかけてくるやつ居たか?

まぁ ほぼ不携帯なんだが…

「いいや 多分間違い電話だろそのままにしておいて」

「留守電設定してないの?鳴り止まないよ」

どうやるかわからん…

ってか 携帯なんてみんなが持ってるから持ってるだけで 不携帯電話にしてるくらいなんだから…

そんな設定なんか知らん

「おい 俺上がるからちょっと出ててくれないか?」

脱衣所にいるから出ててくれと言った俺

「わかった もしもし」

意味を履き違えて俺の携帯に出る

「どちら様ですか?」

「おい 電話じゃなく 俺上がるから脱衣所から出てって言ってんだよ」

「あっ…そう言う事か…でも出ちゃった 女の人だよ」

女の人?誰だろう…

「とりあえず 後で掛け直すって言っておいて」

「うん…わかった…」

そう言って脱衣所から出て行った

「全く…のぼせるっての…」

「ねぇ…言われたように言って切ったけど…」

脱衣所の外にまだ居るのか…

「後で掛け直せないよ…非通知だもん…」

あっ…そっか…

「まぁ 用があるならまた掛けてくるでしょ」

俺自身 身に覚えのない電話だし

「でも…切る前に切られたんだよ…なんか泣いてた」

「泣いてた?なんで?」

「わからないけど…」

「誰かの電話に間違えて電話したんじゃないのか?」

「でもあんたの名前言ったよ」

「なんて?」

俺を呼ぶとしたら本名か英ちゃんの二択

こいつは あんた だけど…

「英ちゃんって…」

「先輩は?」

「付けてなかった」

んじゃ 同級から上か?

「さっぱりわからん」

「本当に?」

なんだその目は…

「私出たからかなぁ…」

「別に気にする事じゃないって こんな時間に電話寄越す方がどうかしてるんだよ 普通なら寝てる時間だろ」

「でも…今日はクリスマスだから」

「もう終わったよ 今日は26日だぞ」

日付けが変わって三時間が経っている

「ってか もう寝ろよ 今日仕事だったんだろ?」

「昨日ね」

屁理屈言いやがった…

「ベッド使っていいから」

「あんたは?」

「俺は布団 あっちの部屋に敷いて寝る」

「どうして?一緒の部屋でいいじゃん」

「おまえの親を裏切られない」

俺を信用してくれてる

それを裏切るわけにはいかない

「ちゃんと あんたのとこに泊まるって言って来たよ」

「一人でか?他にも誰か一緒に泊まるって言ってないか?」

「言ってない…言ってないって言うか聞かれてないから」

こいつの親は こいつの事も信用しているのだろう

成人すれば自己責任だろうけど

それとこれとは別の話だと俺は思う

「私ね…仕事で遠くに行くんだ…」

「そっか…」

それで納得した…

最後の言葉と 鏡に書いた文字

「いつからだ?」

「教えない…教えてあんたが見送りに来てくれなかったら…」

見送り?遠いとこってどこだ?

いつって言うのは大体わかった…

「明後日だろ…」

「やっぱり言わなきゃ良かった…」

「正月過ぎてからじゃないのか?」

「決心が鈍っちゃうから」

「そっか…」

「Last Christmas一緒に過ごせて良かった…」

こいつの言ってるラスト クリスマスは 最後 と言う意味だった…

「何時だ?」

「10時35分…」

「わかった」

しばらく沈黙が続く

「疲れたろ?寝るか?」

「うん…」

「……一緒でもいいか?」

「うん…」

「一緒に寝るだけだぞ」

「うん わかってる」

ベッドに入り しばらく沈黙が続く

「今までありがとな」

「何言ってんの こちらこそありがとう」

そしてまた 沈黙が続く

「外…静かだね…」

雪灯りで外は妖艶な明るさ

「寒くないか?明後日風邪ひいたら洒落にならないぞ」

「大丈夫 そういえばさこうやって寝るの二回目だよね」

えっ?いつ?

「忘れたの?宿泊訓練の時」

「あぁ 小五の時な」

「そう 夜あんたら男子が騒いでたら 先生が部屋に来て みんなで布団被って寝たふりして」

その時 ん?

「俺らだけ騒いでたんじゃないだろ だっておまえ俺のベッドに居たじゃん」

「あんたらが大暴れしてるから 一番安全なあんたのベッドに居たんでしょ」

「なんで俺のベッドが一番安全なんだ?」

「あんた自分のベッドぐちゃぐちゃにされたら怒るでしょ」

それじゃまるで 俺が自分勝手みたいじゃん

「先生が入って来た時 あんた律儀に自分のとこに戻って布団被ってさ」

「そしたらおまえも入ってたのな」

そして そのまま寝てしまったのだった

「あっ!」

「どうした!」

「思い出した…」

「何を?」

「さっきの電話の声」

「おまえ知ってる人か?」

って…俺の携帯に来た電話なんだけど…

「あんたも知ってるよ」

そりゃそうだろ 俺の携帯に来たんだから

「ほら…」

俺もわかった…

「あれからずっと?」

「いや 最近また…俺の携帯番号どうやって知ったのか…だから出ないようにしてたんだけど…」

「だから非通知で寄越したんだ…」

「元はと言えばおまえのせいだかんな」

「だって…頼まれたら断れないでしょ」

中学の頃 こいつが持って来た 縁談…

「可愛いかったじゃん」

「顔だけな…心が最悪…」

「顔可愛いければいいんじゃないの?」

「あのなぁ」

「嘘だよ でももう掛けて来ないんじゃない?」

「それならいいけど…」

こいつが出たことにより それ以来電話はかかって来なかった

「あんた 好みうるさいもんねぇ」

「なんで?」

「じゃあ あんたの好みの女性ってどんなの?」

「好みねぇ…なんだろう」

もう この時点でうるさくはないのでは…

「やっぱりスタイルのいい子が好きなの?」

「別に…ついてるのは大小さまざまだろうけど 同じじゃん」

「何それ?」

「俺は連れて歩いて みんなに羨ましがられる人がいいなぁ」

「って事はやっぱり容姿でしょ?」

「違う 例えば…迷子の子が居たら 何気なく声をかけるとか」

「ふ〜〜ん」

「それを自然にやれる人っていうか 見てる人がわざとらしさを感じないっていうか」

「なんとなくわかる 私もそれ目指すか…」

おまえはもうなってるさ

「おまえは?」

「私か…私は見えない優しさがある人」

「見えない優しさ?」

「言葉や態度じゃない 見えない優しさ」

難しい優しさだなぁ…

その日 俺達は朝日が昇るまで一つのベッドで ただただそんな話をして過ごした











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