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エンジェルナンバー0(気遣い屋)

「へぇ ここが英ちゃん家か」

正確に言うと賃貸アパート

結局 カラオケから 二次会 に来たのは夫婦漫才師と初恋の人

「綺麗にしてんじゃん」

「必要最小限のものしか置いてないからな」

「多分…ここら辺に…」

夫漫才師の方がベッドの方で何かをしている

「何やってんだ?」

「大抵こういう所に…あれ?ないなぁ…」

「だから 何やってんだっての」

「エロ本」

あのなぁ 入って来てすぐ それ を探すか?

「俺持ってないぞ」

「嘘〜 そんなはずは…」

まだ探している

「おまえな よく考えてみろ 俺は一人暮らしだぞ 持ってたとして何故隠す必要がある?」

「あっ…そうか…」

「家帰ったらベッドの下辺り探してみた方がいいんじゃないか?」

俺は 婦漫才師の方に言った

「そうだね…」

「えっ…」

夫漫才師が青ざめた

どこまで本気なんだか…

「なんか飲むか?酒もあるけど」

「もうお酒はいいかなぁ」

「俺も…すっかり酔い覚めたけど…」

自業自得だ

「んじゃ 紅茶か?コーヒーもあるけど」

「どこにあるの?私がやってくるよ」

「悪いな どこって台所に行けばわかるよ ほとんど何もないから」

「わかった」

「英ちゃん 一人でダブルに寝てんの?」

「買っただけで使ってないんだ」

「えぇ 勿体ない」

ベッドは寝転がるだけで 寝る時は布団に寝るという生活をしていた

「ベッドだと腰が痛くなって」

「布団は毎回畳むの?」

夫漫才師 俺の私生活にそんなに興味を持つか

「そりゃ畳むだろ」

「へぇ!以外だなぁ」

何がだ

「英ちゃんは昔からちゃんとしてたもんね」

「確かに 学ランなんかちゃんと折り目付いてたもんなぁ」

それは父親が身なりにうるさかったから

「ねぇねぇ 彼女の写真とかないの?」

「あいつのか?」

「そう」

「何もない」

「えっ?ないの?」

「一度も写真なんか撮った事ない」

「何話してんの?はいどうぞ」

「英ちゃん 彼女の写真一枚も持ってないんだって ついでに言うとエロ本も一冊も」

写真とエロ本を一緒にするな

「そうなの?」

どっちを言ってんだ?

まぁ エロ本の件の時は一緒に居たから写真の事だろう

「持ってないよ 写真どころか何一つない」

「クリスマスとか誕生日プレゼントで貰ったりとかは?」

「クリスマスも誕生日も一緒にやってない…」

「英ちゃん いつから付き合ったの?」

おい おまえもあの時いただろう

まぁ いつから付き合ったのか 付き合っていたのかはわからないが

「ねぇ アルバムある?」

「アルバム?中学の卒アルと子供の頃のはあるけど 後は実家に置いてる」

「見せて!」

「うん 見たい!」

「卒アルはおまえらも持ってるだろ」

「もう何年も見てないもん みんなで見るから楽しいんじゃん」

まぁ確かにそうかもしれないけど

「テレビラック開けてみ」

「おっ あった!懐かしいなぁ」

俺も何年振りに見るだろう

「修学旅行の時だ 楽しかったよなぁ」

「これは芋煮会の時だね よくあんなに歩いたよねぇ」

片道10キロ あり得ない企画

「この時 英ちゃんだけホットケーキ食べてたんだよね 俺も食いたかったなぁ」

「ごめんね 一人前しか持って行かなかったから」

ホットケーキ一人前ってなんだ?

粉からフライパンで焼いたのに

「あんたには私が美味しい焼きそば作ってあげたでしょ」

「お湯沸かして入れただけでしょ」

カップ焼きそば…

「あれ?これって」

アルバムに何かが挟まっていた

「何々?」

「なんでもないよ」

「えぇ 見せて」

「多分見たらこの人に怒られるよ この人の恥ずかしい写真だから」

「そうなの?なら見ない」

俺の恥ずかしい写真?そんな写真あったか?

「はい 大事にしまって起きなさい」

その写真は中学生の時こいつと二人だけで撮った唯一の写真

こんなとこにあったのか…

「こうして見ると 英ちゃん達いつも一緒に写ってるよね」

「人数が少ないからな たまたまだ」

「ほら これにもこれにもおまえも写ってるだろ」

「これは…俺の頭…こっちは…俺の顔半分…ちゃんと写ってんのないよ」

「しょうがないでしょ 写したの私なんだから」

婦漫才師がカメラマン

俺達の卒業アルバムは 自分達で写真を撮り それから選んだものを写真屋さんでアルバムにして貰ったのだ

「俺だって まともにカメラ目線の写真なんかないだろ」

「でも英ちゃんは真ん中に写ってる…俺は隅っこに頭だけ」

「ほら これは真ん中じゃん」

「野郎ばっかり…もっとこう 思い出っていうかさ」

「あんたは女子に囲まれたかっただけでしょ」

図星と顔に書いてある

「こっちは子供の頃の写真?」

「うわぁ!これ英ちゃん?子供の頃って…赤ちゃんの頃のじゃん」

だから子供の頃の写真って言ったじゃん

「何見てんだよ」

写真と俺を交互に見ている

「これ英ちゃん?全然怖くない…」

おい…どういう意味だ

赤ん坊で怖い顔してたら捨てられるだろ

いやいや 今の俺も怖い顔はしていないだろ

「へぇ!初めて見た こんな時もあったんだ」

誰もが通る道でしょ…

こんな辱めを受けるなら見せなければ良かった…

「そろそろ送るぞ」

「何言ってんの?今日泊まるよ」

「はっ?いやいや何言ってんのはこっちの台詞だろ」

「だって そのつもりで来たんだもんなぁ」

「ねぇ」

おまえらは 二次会って言って来たんだろ

二次会会場に泊まるやつなんて聞いた事ないぞ

「しょうがねぇなぁ…んじゃ こいつ送ってくるから寝てろ」

「誰を送るって?」

「何言ってんの英ちゃん みんな泊まるよ」

「はぁ?何言ってんだ?おまえは帰るんだろ?」

「泊まるよ ダメ?」

「またお袋さん心配するだろ?」

「いつお母さんに心配かけた?」

あっ…何故かこいつの親に信頼されてる俺…俺 男なんだけどなぁ…

「そういえばさ 英ちゃんってお母さん達に人気あったよね」

「そうそう 俺の母ちゃんも英ちゃんの事大好きみたい」

「私なんかあんたと結婚する時 最後まで『英ちゃんじゃなくていいの?』って言われたもん」

俺はおもちゃか何かか?

「俺も」

嘘つけ!

「全く…んじゃおまえらはベッド使っていいぞ」

「えっ!本当に?」

「特別だからな おまえは…布団一組しかないから俺の布団でいいか?俺はソファで寝るから」

「え?いいよ 私がソファで」

「そんなわけにいかないだろ」

「英ちゃん」

今度は何?

「風呂入っていい?」

何から何まで…

「お湯溜めて入れ」

「いいよシャワーで」

「私 溜めて来るよ この人湯船派だから」

新しい政権か?

たしかに俺は夏でも湯船に入るけど

こいつに言った事あったかなぁ?

「英ちゃ〜ん!」

今度は何!

「ド…ド…ドロボー!」

泥棒?

「この部屋 全部盗まれてる!」

「あぁ その部屋には何も置いてないんだ」

「な〜んだ…びっくりした…」

こっちの台詞だ…

「お湯溜まったよ」

「じゃあ おまえら入って来い」

「いいよ 先に英ちゃん達入ってからで」

達ってなんだ…

「いいから先入って来い」

「そお?んじゃ入るか?」

二人で行った

「あの二人仲良いよね」

「だな 人ん家来て一緒に風呂入るんだからな」

「いいじゃん夫婦なんだから」

夫婦ってそういうもんなのか?

「あっ これ私ん家だ」

またアルバムを観ている

「それは母親と海に行く途中じゃないか?」

「この頃はお互い知らなかったんだね」

「そうだな まだ一歳ちょっとだもんなぁ」

「じゃあ この五年後か…」

幼稚園に入園したのは六歳になる年

今では 二年保育三年保育が当たり前になっているのだが 俺達は一年保育だった

「英ちゃ〜〜ん!」

はぁ…今度は何?

「パンツ貸して〜」

全く…普通パンツ貸してって言うか?

とりあえず買いだめしていたパンツを出した

「私置いてくる?」

「いいよ パンツ貸してって事は あいつが先に上がったんだろうから」

「あっ そっか…」

脱衣所のドアを開け

「ここに置いて…うわぁ!」

狭い脱衣所に真っ裸の二人…

「ありがとう」

ありがとうじゃねぇよ…


「どう?目の保養になった?」

馬鹿な事言ってんじゃねぇ

「見られたって減るもんじゃないもんねぇ」

ねぇ じゃねぇっての…

「俺は見てない おまえがこっちにいたろ だから見えてない」

言い訳に聞こえてんだろうなぁ…

「あんた先に入って来な」

俺は迷った…

こいつが先に入ったら 俺とこの夫婦漫才師だけになる

ちょっと気まずい…

かといって 俺が先に入っても後から…

「いいよ おまえが先に入って来な」

「いいの?」

この いいの? は多分俺が考えてた事をこいつも考えてたのだろう

「いいよ 先入って来な」

「じゃあ Tシャツ借りるね」

勝手にタンスを漁ってる

「俺のTシャツ 全部Vネックだぞ」

多分パジャマ代わりにするんだろう

俺のデカいTシャツでは屈んだ時…

そんな余計な事を心配する

「いいよ これ借りるね」

「英ちゃんも一緒に入って来れば?」

ペシッ!

今日何度目だ?

「全くあんたは…英ちゃんごめんね」

「いいよ こいつなりのジョークなんだと思うから」

「そ!それ!」

「もう寝たら?疲れたんじゃないのか?」

「なんか勿体ないじゃん せっかく英ちゃん家に来たのに」

こいつは昔からそう

俺ん家ならずどこに行っても最後まで起きているのだ

ある意味盛り上げ役

「英ちゃん 今年のクリスマスは何か予定ある?」

「どうした急に」

「ううん もしなかったらと思って」

「毎年クリスマスは一人だよ」

「じゃあさ この四人でどっか行かない?」

この四人とは?

「英ちゃんもさ もう七年だよ…」

何を言いたいかわかった

「まだ七年だよ…」

「そんな事言ってたら…わかってるんでしょ?」

何の事かわかった

「なんて言うのかなぁ…背中に消えない十字架って言うか…毎年この日が来たら 思い出してしまう そうなったら…」

「いいじゃん そんな事って言ったらダメかもしれないけど…気にする人じゃないでしょ?」

それはわかってる

でも おまえらはわかってないだろうけど 順番が違うんだよ

「いい湯だったよ あんたも入って来な」

こいつには取り返しのつかない事をしてしまった…

体に傷をつけたなら責任を取ればいい

それで許してくれるなら

でも俺は…

「どうしたの?」

「ん?いや…俺も風呂入ってくる」

隣に座る時にちらっと…

俺は着替えを持ち

「ほら これ着ろ」

黒いシャツを渡した

すぐに気づいたのか

「エッチ…」

真っ赤な顔でシャツを着る

本当のエッチならそのままにしておくっての…

湯船に浸かりながら 婦漫才師が言ってた事を考えていた

「七年か…」

ん?何故温かいんだ?

風呂だから温かいのは当たり前だが

この風呂は蛇口からお湯を出して溜めるタイプ

だから 少しでも時間が経つとすぐに冷めてしまうのだ

多分 上がる間際にお湯を足して熱めにしてくれたのだろう


「いい湯だったでしょ?」

おかげ様で

「ねぇ 英ちゃん 今も話してたんだけど…」

「クリスマスは家族で過ごしな おまえらにはあっちゃんがいるだろ?子供と一緒に過ごさないとダメだよ」

「でも…」

「そうだよ あっちゃんと一緒に過ごさないとダメだよ」

「あれ?」

夫婦漫才師の 夫 の方が見当たらない

「もう寝かせたよ」

珍しいな 昔は最後まで起きてたのに

「疲れたんだね」

「飲み過ぎだよ 毎晩飲んだらすぐ寝るのに 今日は頑張って起きてた方なんだから」

「あぁ見えてすごい気遣い屋さんだもんね」

「あの人は 英ちゃんの事を心配してるの」

「俺の事?」

「英ちゃんに言うと怒られるからって 英ちゃんには直接言わないけど 英ちゃん大丈夫かなぁって」

「俺は大丈夫だよ そう言ってたって言ってくれ」

「あんたは幸せ者だね」

どうなんだろう…

「……そうだな」

みんなに心配されているのか…

俺は一体なんなんだろう






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