表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

エンジェルナンバー0(夫婦漫才)

今年もこの日がやって来た

「今年もすごいねぇ また白いバラが一本増えたか…」

あいつが逝って七年…

あいつが約束させた 赤い薔薇は生きてた年数 白い薔薇が命日の数

「毎年悪いな…」

「また何言ってんだか それよりもみんな来る前に綺麗にしないとね」

普通なら 前日まで墓掃除を済ませておいていたのだが 仕事が忙しかった為出来なかったのだ

俺が 会社を立ち上げた事をこいつには言ってなかった

何も言わず 草むしりをしている

必ず 俺が来たすぐ後に来る初恋の人

「そういえば 去年のこの日以来だな」

「ん〜〜そういえばそうだね」

俺は 去年から家を出て一人暮らしをしていた

親の元に居ては何かと頼ってしまう

いずれ親の面倒を見るつもりで 家は建てずアパート生活

「ちゃんとご飯食べてるの?」

「食ってるよ パンだけど」

「偏った食事ばかりだと体壊すぞ」

「まぁ その時はその時だろ」

「ダメだよ!それがわかってて偏った食事なんか…」

えらい剣幕で怒られた

「なんだ?あの日か?」

「先週終わった」

なんだこの会話…

「本当ダメだからね 栄養バランスを考えてっては言わないけど…でも気をつけないと」

「わかったよ」

「わかればよろしい」

とりあえず心配してくれたのだろう

そうこうしていると 毎年の顔が揃う

「毎回悪いな」

「何言ってんだよ」

「あれ 今日あっちゃんは?」

あっちゃんとは 天城越えの愛娘

「今年から小学生なんだ」

「あぁ そっか!去年年長さんだったもんね」

「じゃあ 今回は早く帰って待っててやれ 家に帰って誰も居ないんじゃ可哀想だから」

「大丈夫 今日はばあちゃんが迎えに行く事になってるから」

「義母さんが 英ちゃんとゆっくりして来なって言ってくれたの」

「じゃあ 今晩もいっぱい飲まないとね」

これが毎年の恒例行事になっていた

「しかし毎年綺麗だなぁ」

「本当 まるでウエディングドレスみたい」

確かに そう言われれば純白のウエディングドレスに赤い薔薇が咲いているように見える

「着たかっただろうなぁ…」

そう初恋の人が言った

「そう言うあんたはまだ着ないの?」

「私はもうちょっといいかな…」

「英ちゃんと結婚すれば?」

ペシッ!

「痛!何すんだよ」

カミさんに叩かれた

「おぉ!今年も綺麗にしてもらったなぁ」

「綺麗…」

そして続々と集まってきた

みんなが集まり 毎年同じ話に花が咲く

「悪いな…」

「何が?全くそんな事ばかり言ってないでちゃんと全部食べてよ」

あの日以来 俺専用の小さいバスケットにサンドウィッチを持ってくるようになっていた

大きなバスケットに作ってきたサンドウィッチは既にない

「英ちゃん 食べれないなら言ってね」

「ダ〜〜メ これはこの人の為の特別なサンドウィッチなんだから」

「えっ?もしかして…英ちゃんの事…」

ペシッ!

今日二度目

「俺の体の事考えて カロリー控えめにしてあるんだよ おまえらが食った方が味が濃くて美味かったはずだ」

「そうなんだ 英ちゃんカロリー気にしてるの?」

気にしてない

「あんたは黙って唐揚げの骨しゃぶってなさい」

「えぇ!肉付いてるの頂戴」

みんなを黙らせたり笑わせたり忙しいな

「もう七年か…早かったのかなぁ」

「そりゃ早いでしょ あっちゃんがもう小学生だよ」

俺は あっという間だった…

あの時の事が 昨日のように…

会社を立ち上げてがむしゃらにやって来た事もあるのだろうが

「英ちゃん そろそろ行こうか」

「そうだな じゃあ先に行っててくれ 俺は住職に挨拶してから行く」

「私も一緒に行く 先行ってて」

毎回必ずついてくる

「今年も終わりか?」

「はい お騒がせしてすいませんでした」

「まぁいい これも供養の一つなんだな…線香をあげて涙の一つを落とすよりは 毎年忘れずみんなが集まり 明るい話しを一日中する 若い仏さんも喜んでたろう」

「はい とっても喜んでました」

「ところで おまえさん達は恋人同士か?」

おい!坊主

「はい」

えっ?

「そうかそうか 仏さんも喜んでるだろう」

何言ってんだ この坊主


「恋人同士だって」

「全く…」

「迷惑だった?」

「いや 俺は気にしないけど おまえに迷惑だろ」

「別に…」

車での会話

「あれ?今日どこって言ってたっけ?」

「えっ!あんた聞いてるんじゃないの?」

「おまえが聞いてると思って…」

会場のセッティングはいつも天城越え夫婦

「俺 携帯家だぞ」

「全く…携帯電話って言うんだよ 携帯の意味ないじゃん!」

俺はいつも不携帯電話

「もしもし そう!全く携帯の意味ないんだから…っでどこ行けばいいの? うんわかった じゃあ後でね…あんたに何度電話しても繋がらないって言ってたよ」

「しょうがないだろ 俺 電話で話すの苦手なんだから」

「メールもでしょ 何回かメールしたけど返って来なかったもん」

「読んではいる」

「全く…」

「っで?場所は?」

「今日はカラオケだって」

「何故?」

「金曜日だからどこもいっぱいだったんだって」

あの時の天城越えが脳裏に蘇る


「先にやってたよ!」

もう天城越え歌ったのか?

「はい 英ちゃん駆けつけ三曲!」

聞いた事のない言葉

「何か頼んだのか?」

「とりあえず頼んだよ サンドウィッチはお昼食べたから英ちゃんにはピザトースト頼んだけど」

「私にもそれ頼んで」

「俺 一つ食えないから」

「じゃあいいや」

ここのピザトーストは一斤を半分にした大きさで出てくるのだ

「英ちゃん何歌う?」

「おまえらが歌えよ」

「えぇ!歌ってよ」

「俺は腹が減ってんの 食ったら歌うよ」

「本当に?」

「本当だ」

俺は食うのが遅い

食い終わる頃は時間が…

「明日休みだからとりあえず四時間取ってあるからね」

四時間も食ってられない…

「イエ〜〜イ!」

ある意味カラオケもいいのかも

何を歌っても盛り上がる

「英ちゃんま〜だ?」

「まだ食ってるだろ」

「今食べてないじゃん」

今はこいつが…

「ってかそれって関節キッ…」

ペシッ!

本日三回目

「あんたもこれで食べなさい」

「えぇ やだよ汚…」

ペシッ!

本日四回目

叩かれ過ぎて可哀想だから歌うか…

「何歌うの?」

俺はこの選曲がめんどくさい

「適当に入れろ」

「じゃあ あれ!」

「いや 英ちゃんならあれだよ」

「いやこれでしょう」

どれだよ?

「天城越えにする?」

「それはおまえだろ」

「いい歌なのになぁ」

いや そうだけど…

おまえみたいに盛り上げられない

「じゃあ あれでみんなで盛り上がる?」

だからどれ?

「ほら みんな立って!」

スピーカーから流れる短いイントロ

ジャ〜ン

「………」

「何やってんだよ これは最初が肝心なんだよ」

あのなぁ…何かわからないでこんな短いイントロで歌い出せると思ってんのか?

俺は歌詞を見ながら歌うのも苦手…

「もう一回最初からね」

ジャ〜〜ン

「♪気〜が狂いそう…♪」

俺はマイクをオンにはしていなかった

結局 こいつらが歌いたい曲

踊りながら全員で熱唱している

「あんた歌わないの?」

「いいんだよ こいつらが楽しんでるなら」

俺は残っていたピザトーストを食べ楽しそうに踊っている連中を眺めていた

「あぁ楽しい!あれ?英ちゃんなんで歌わなかったの?」

今気がついたのか?

「ぬかせ 今頃気付いた癖に いいからどんどん歌え」

「えぇ!じゃあ歌っちゃうよ」

おっと…酒が入ってデカくなったか?

こいつらは この日 明るく振る舞ってくれる

感謝の言葉しかない

「今年も龍也くん来なかったね」

「龍也は忙しいんだよ 仕事終わってからお袋さんを乗せて新潟だって言ってた」

俺が休む為 龍也が現場を仕切ってくれるのだ

「おまえは休め 一日くらい俺が見る」

あいつが毎年 俺に言ってくれる言葉

龍也は違うところで俺を支えてくれていたのだ

「ところで英ちゃん 家出たんだって?携帯に電話しても出ないから 家に電話したらお父様にそう言われた」

天城越えは俺の父親をお父様と呼んでいる

初めて俺の父親を見た時 あまりの迫力に

「英ちゃんのお父様 いつもお世話になってます」

と変な挨拶をしたのだ

あまり笑わない父親も思わず笑ってしまったくらいだ

それ以来 お父様と呼んでいるのだ

「このままじゃ親のありがたさってのがわからないからな 離れてわかる事もあるんじゃないかと思って」

「じゃあさ 二次会は英ちゃん家に行こう!」

「あのなぁ…」

「いいねぇ!私も行きたい!」

「おまえらな…それにここ四時間もとったんだろ 終わり何時になると思ってんだ?」

「いいじゃん 明日みんな休みだし」

「決まり!行く人!」

勝手に決めるなよ…

「じゃあ早く歌って英ちゃん家行こう」

早く歌ったって時間は早くならねぇよ

そして時間が過ぎ

「英ちゃん 最後は英ちゃんが締めて」

「もういいだろ…」

「ダメだよ 後十分もあるんだから」

さっき言ってた事を忘れたのか?

「あれ歌ってあれ!」

ヒントは あれか?

世界一難解な問題だな…

「あれ なんて言ったっけ?チャゲアスの」

「モーニングムーン?」

「違うよ あれ」

「恋人はワイン色?」

「違うって!あれ」

夫婦でMCとパネラーをやっている

「Say yes?」

「くぅ 惜しい!」

まるで漫才

「ラブソング」

飛び入り参加でこいつが答えた

「ピンポン!そうそれ!」

そして正解

「ラブソング歌って」

「無理…」

「えぇ!どうして?」

ラブソングは俺も好きな歌

カラオケはおろかバンドでも歌った事はない

「んじゃ クリスマス近いからラストクリスマスでどうだ?」

「そんな近くないでしょ」

「もうCMでやってるだろ」

「ワムの?英語だよ?」

「ノリで歌えばそれなりに聞こえるって」

実を言うと 中学の頃唯一覚えた洋楽

スピーカーから流れてくる優しい前奏

「♪Last Christmas I gave you my heart

But the very next day you gave it away.

This year to save me from tears

I’ll give it to someone special.…♪」

「いいよねぇ…ラストクリスマス 毎年クリスマスが近づくと流れるよね 最後のクリスマス」

違う…最後じゃなく 去年だ…

歌いながら 心の中でツッコンでいた


「英ちゃん上手いなぁ それなりに聴こえたよ」

それなりじゃなく 一応読みは正確なはずなのだが…

「じゃあさ あれも歌って!」

「もう時間ないだろ」

「2〜3分くらいいいって あれ!なんだっけ?フランスだかの王妃の歌」

フランスじゃなくイギリス

それに ダイアナ妃の歌ではない…

あえてツッコミはしなかった

そして ダイアナ は完璧にノリでしか歌えない…













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ