エンジェルナンバー0(やんちゃ盛り?)
それから数年が経ち
「龍 また会社辞めたんだって?」
「俺は悪くない」
これで五度目
自分の考えを持っているだけ 社会に馴染めないのか?
会社の旅行の宴会で コンパニオン相手に社長がセクハラ紛いの事をすれば 注意をし喧嘩して会社を追い出されたりと
まぁ 龍也らしいと言えば龍也らしいのだが…
「なんとかならないかねぇ この馬鹿息子…」
お袋さんも龍也のやった事は間違ってはいないと思ってるんだろうけど…
「どうすんだこれから」
「仕事はすぐ見つける 旗振りでもなんでもいいんだ」
こいつは一生懸命に仕事をする
それはわかっている
しかし 正義感があり過ぎると言うか…
後先を考えなさ過ぎるところが…
「龍 俺と一緒にやるか?」
「何を」
「仕事だろ」
「おまえに迷惑がかかる」
「俺が会社を興す 一緒にどうだ?」
「おまえが社長か…どんな仕事だ?」
「機械のメンテナンスだ どうだやらないか?」
しばらく考える龍也
「会社創るって金かかるんだろ」
「金ならある」
俺には ある夢があった
その為 それなりに貯蓄していたのだ
「おまえの会社か…」
「どうだ?」
「いいねぇ」
龍也が表情を変えた
「なら決まりだ ひと月だけ待ってろ 何の知識もなくは出来ない ひと月でマスターするから」
「わかった」
俺は 今世話になってる会社に独立を申し込み そこから当面仕事を回してもらう事にした
工賃は思っていたより少なかったが それはしょうがない
これから 実績を積み上げて信用を得れば徐々に上がるだろう
「龍 これで必要な資格取っておけ」
「自分の金で資格くらい取る 何が必要なんだ?」
「資格は会社で取らせるもんだ」
「……わかった」
まだ会社は始まっていない
「後 誰か遊んでるようなの居ないか?」
「居るけど どうしようもないのだぞ」
おまえが言うな…
「少しくらい やんちゃ入ってる方がいい学歴は関係ねぇ」
実際 負けん気があるやんちゃ坊主の方が使いやすい
やんちゃ坊主は人に使われるのを嫌う
その分 覚えが早い
しかし この選択はえらい事を招くことになる
ひと月後俺達の会社は茨の道へと歩き出した
俺と龍也で集めたゴロツキ七人
計九人からのスタート
スタートにあたって一つ目の揉め事
俺が連れて来たやつと龍也が連れて来たやつが…
「んに見てんだ!」
「あぁ!」
はぁ…いきなりかよ…
学生の頃 こいつらは仲が悪かった
「おおぉ!おめぇら何やってんだ!」
やっぱり…
龍也が大声を出す
「龍!ちょっと黙れ」
「お…おぉ」
「おまえらな…これから一緒に仕事すんだぞ 俺らはヤクザじゃねぇ!」
「すいません…」
「いいか 俺らは現場で一番末端になる 上に上がるにはおまえらが頑張んねぇと上がれねぇんだ 俺が仕事を取ってくる その仕事を完璧にこなせ わかったか?」
「はい…」
「俺は歳で給料を払わない 頑張ればそれなりの給料を払う 龍も同じだ」
「おい そんな事言っていいのか?」
「いい 言った以上俺は守る ただな仕事をくれるのは上の会社だ どんな事があっても上の会社には楯突くな 何かあったら俺に言え いいな」
「はい…」
「後一つ これだけは絶対に守れよ 結婚してるやつ 彼女がいるやつ もし夫婦喧嘩したり彼女と喧嘩したら許してもらうまで会社には出て来るな」
「相手が悪くても?」
「そうだ 仲直りするまで来る事はない」
「なんでだ?」
「好きな人と喧嘩すれば 仕事中に考え事をする 俺達の現場は死と隣り合わせ 怪我したりしたらみんなに迷惑をかける 現場全体にな」
「なるほどな…おまえらわかったか」
「はい」
「俺からはそれだけだ よろしく頼むぞ」
「あのぉ 社長」
「社長って呼ぶな」
「えっ?じゃあなんて呼べば」
「仲間なんだから 今まで通り英ちゃんでいい」
「えぇ…なんか…なぁ…」
こいつらの言ってる事はわかる
なんか照れくさかったのだ
「英ちゃん」
躊躇なく呼ばれるとそれはそれで…
「なんだ?」
「格好はどんなのでもいいの?」
タメ口かい
「とりあえずは規則はないけど いろんな現場があるから派手にだけはするな」
「わかった」
だからタメ口かい
「龍…頼んだぞ とりあえずみんな同じ現場で仕事出来るが それじゃ上には上がれない あいつらも含めて龍にも早く仕事覚えてもらわないと」
「わかってる」
かなりの不安と少しの期待で眠れない日々が続いた
「こいつがスパナだ」
「喧嘩の時使ったことあるからわかる」
使い方違うんだが…
最初はこんな感じだった
しかし 時が経つにつれこいつらは持ち前の頑張りでめきめき成長して行った
「龍 お袋さん元気か?」
「どうした急に」
「いやな 今度違う現場取ろうと思うんだけど 龍が頭で行けないかと思って」
「どこだ?」
「茨城…二週間だけの仕事なんだけどな 二人つけるから」
「いいぞ 母ちゃんは殺したって死なねえくらい元気だ」
この選択が間違いの元になるとはこの時は思いもよらなかった
龍也が茨城の現場に行って四日目
俺に電話が
俺が茨城の現場に向かうと
「困るんだよねぇ 問題起こされると」
聞く話しによると 現場で龍也が暴れたみたいだ
しかしおかしい事が
この所長によると暴れたのは龍也一人
確かに龍也が喧嘩したのは見ればわかる
でも龍也につけた二人が顔に傷を負ってるのだ
龍也は拳だけ 他の二人は顔だけで拳は綺麗なまま
「なぁ龍 何があったんだ?」
俺は所長の前で龍也に聞いた
「だから さっきから言ってるだろ こいつが現場で暴れて」
「うるせぇ!俺は今 龍に聞いてんだ!それにな こいつをこいつ呼ばわりするんじゃねぇ!」
ミイラ取りがミイラに…
まぁ しょうがないか…
しかし 真実を知る必要があった
それも この所長の前で
そうしなければ 噂が尾ひれをつけて広まったら俺達みたいな小さな会社は路頭に迷ってしまう
「なぁ龍 わかるだろ 本当の事を言わないと会社なくなるぞ」
「龍也くんは悪くないんだ」
二人の内の一人が口を開く
「現場で◯◯興行の奴らが因縁つけてきて」
◯◯興行とは地元の会社
噂ではその筋の者の会社らしい
「それで?」
「俺とこいつが…俺らは手 出してないよ!ただ…それを止めに入った龍也くんが…」
「そっか…よく我慢したな」
もちろん二人に言った言葉
「龍…悪かったな…」
「なんでおまえが謝る…」
「所長さん聞いたか?そう言う事みたいだ こいつらの傷見れば嘘か本当かわかるよな?」
「………」
わかったみたいだ
「四日分の工賃はいらない その代わりこいつらはこれで連れて帰らせてもらいます」
「それは困る 工期が迫ってるんだ三人も抜けられたら…」
「なら何故 状況を把握しないでこいつらを悪者にした!◯◯興行が地元で 俺らが余所者だからか!椅子に踏ん反り返って現場見てんのか!こいつらは物じゃねぇ!行くぞ」
やってしまった…
こんな時 ただただ頭を下げて先方に許しを乞うのが社長の役目のはず
仮にも俺より倍は歳を重ねている者におもいっきり啖呵を切ってしまった…
「英ちゃん ごめんな」
「おまえらは悪くない 大丈夫だ心配するな」
「悪かったな」
「龍 俺でもその場に居たら同じ事をしたと思う よく守ってくれたな」
「会社大丈夫か?」
「心配するな おまえらは先帰ってろ」
「おまえはどうすんだ?」
「せっかくこんなとこまで来たんだ 仕事ないか探してみる」
「……俺も行くか?」
「俺一人で大丈夫だ」
龍也はわかったみたいだ
俺は◯◯興行事務所に向かった
詫びを入れる為ではない
「ここだな…」
繁華街のど真ん中にそれはあった
躊躇なく入り口のドアを開けると 平日の昼過ぎというのに 男四人が談笑をしている
「社長さん居るか?」
「誰だおめぇ」
なかなかな教育を受けている
聞いた事への答えがこれか?
まぁ まだ俺は二十代
俺もこいつらの問いには答えず
「社長さんは居るか?」
「だからおめぇは誰なんだ」
一人のやつが 作業着の会社名に気づいたみたいだ
「おい小僧 何しに来た」
小僧って…俺は一休さんか?
「社長さんは?」
「親父は今出掛けている」
親父?って事はこいつは社長の息子か?
俺もなかなかな天然
「帰って来るまで待たせてもらってもいいか?」
「てめぇ ここがどこかわかってんのか!」
いちいちデカい声を出さないと喋れないのか?
「兄ちゃん こいつが言うように ここがどんな所かわかってんのか?」
社長の御子息はデカい声を出さずに話している
「◯◯興行の事務所だろ?」
「表向きはな」
「裏はヤー公だろ」
「てめぇ…」
本当に怒った時というのはデカい声が出ないみたいだ
「おい この兄ちゃんにお茶を出してやれ」
「若…」
若?あだ名か?
俺も天然…
一時間ほどして先方の社長が帰ってきた
息子の若が何やら親父に耳打ちしている
「こちらへどうぞ」
さっきとは打って変わって馬鹿丁寧に別の部屋へ通された
「その若さで一人で詫びを入れに来るとは大したもんだ」
何言ってんだ?
「被害者側が詫び入れに来ると思うのか?」
「被害者?被害者とはどういう意味だ?こっちは三人やられてんだぞ」
三人?それは初耳だった
実際 相手が何人かは聞いてなかったのだ
俺は全て相手の社長に説明した
「その話を信用しろと?」
「いや こっちにも非は有ったかもしれない なんの理由もなしにこんな事にはならないだろうから でもな自分とこの社員を信用しないで会社のトップには立てないだろ!」
しばらく黙っていた社長は静かに口を開いた
「会社創って何年だ?」
「一年」
「……今回の件 こっちに非があったのだろう すまなかった」
俺に頭を下げた
「これは少ないが慰謝料だ」
「そんなの貰ったら俺はヤクザと変わんねぇ だからいらない」
俺が部屋を出ようと立ち上がると
「一年か…頑張れよ」
俺は黙って頭を下げ 部屋を出た
「悪かったな…」
「龍 少し我慢ってのを覚えろ」
俺は帰り足で龍也の家へ
「わかってる わかってはいるんだけど」
それを わかってないと言うんだ
「俺ら明日から休みか?」
「いや こっちの所長に話しはしてある 明日からはまた同じ現場だ」
安心したような顔を見せる龍也
「まぁ 今日の事は忘れろ 明日からバリバリ仕事してくれよ」
「任せろ」
任せてこうなったんだけど…
俺の悩みの種はそれだけではなかった
こいつらが飲みに行けば 必ずと言っていいほど警察から電話が入る
『引き取りに来い』
またか…
「今度は何?」
『いつものだ』
決まって喧嘩…
警察署に行くと決まって酔いは覚めている
「なんでこうなったんだ?」
「……」
「連れて帰っていいんだろ」
「もういい 二度とやらせるなよ」
「知らねえよ 一人一人監視しろってか!」
俺も警察は嫌いだ
しかしこのままでは まずいと思いみんなを集めた
「おまえらな…酒を飲むなっては言わない ただ大人しく飲め!それが嫌なら家で飲め」
「でもなぁ…家だと騒げないし…」
「おぅ んじゃなんで喧嘩になるか言ってみろ」
「隣で騒いでるのいると うるさくて…あっ…」
「全く…おまえらは馬鹿か?おまえらがうるさいって思うなら 相手だって同じ事を思ってんだ 自分がやられて嫌な事は人にもやるな」
しかしこれは 馬の耳に念仏だった…
仕事では文句はないのだが…