エンジェルナンバー0(出会い)
♪ I Love You OK…♪
「矢沢 好きなのか?」
「なんとなくな…」
こいつの家に行くといつも流れていた曲
少し…かなり無口なこいつは 龍也
龍がついてるからと言って 辰年ではない
「なぁ 英ちゃん パン買いに行くけど なんか買って来る?」
「俺も行く」
「次いでだから買って来るって」
「いいって 俺も行くから」
学校生活において 使いっ走り はどこにでも居るのかもしれないが そんな事させてる奴に限ってろくな奴がいない
「俺 コロッケパン」
「俺は焼きそばパンな」
「お金 後でやるから出しておけ!」
「えぇ…」
後でやる この時の後とは半永久にやって来ないもの
「俺行くけど買って来るか?おめぇがコロッケパンでそっちが焼きそばパンな」
「あっ英ちゃん…大丈夫…こいつに頼んだから」
「あ?俺行くって言ってんだ 買って来てやるって お金は後なんだな」
「自分で行くからいい…」
なら最初からそうしろっての
「なぁ 英ちゃん あの龍也っての すごいんだってよ」
「何が?」
「中学の時 警察に何回も捕まったって…同じ中学から来たやつが言ってた」
「ふ〜ん 中坊で警察に捕まって高校に入れんのか?内申書とかあるし ただのフカシじゃねぇ?」
「そうかなぁ?なんかブスっとしてておっかないんだよ…」
小学校の時 自転車で手放し運転に挑戦して 額に斜めの傷痕がある おまえの顔の方がよっぽど怖いっての…
「おぅ!英!」
「あぁ!な〜んだ清ちゃんか」
この 清ちゃんとは 俺の二個上の高校三年で 子供の頃から近所に住んでいる幼馴染
「何した?」
「明日 組み周り やるから昼休み教室から出てろな」
この 組み周り とは上級生がちっぽけな威厳を保つ為に 可愛い後輩達に有り難い説教をする事を言う
「別に居てもいいんだけど」
「いや 出てろ」
組み周りに来るのは 怖いお兄さん方
まぁ 徒党を組まないと威張れない不憫な人達
その為 地元で自分を知っている後輩達に声を掛けて 自分の惨めな姿を見せたくないのだろう
次の日
バーーーーーン!
尿意を催し ギリギリでトイレを見つけたかのように勢いよくドアが開いた
ほとんどのやつらは 組み周り の事を知らない為 弁当を広げている
「何飯なんか食ってんだ!立て!」
かなり理不尽な言い草だ
今は 昼休みで弁当の時間
ってか お宅らは弁当食べたの?
それとも 腹が減ってイライラしてるの?
訳もわからず怒鳴られ立ち上がる面々
「オメェらわかってんのか!」
教壇で大騒ぎする怖い面々
「はい!」
訳もわからず返事する面々
その光景につい笑ってしまう
「あははは なぁ何がわかったの?」
俺が聞いてもみんな下を向いている
「なぁ 何がわかってんの?今返事したよな?」
「なんだこいつ」
怖い面々もキョトンとしている
その顔がまた面白い
「英!出てろって言ったろ!」
俺が教室に残っていた事に 罰が悪い顔をしている
「清ちゃん知ってんのか?」
「俺ん家の近所なんだ」
さっきまでの勢いがなくなってる
「なぁ 頼むから出てろ」
「んじゃ一つ教えて 何をわかってんのかって聞いたんだ?」
「俺もわかんね…いいから出てろ!」
わかんないのかい!
「つまんねぇの…」
まぁ なんか知らないけど 困ってるみたいだから…
渋々教室から出る事にした俺
その時 俺の視界に入った龍也が笑っていたように見えた
教室を出た瞬間
「オメェらわかってんのか!」
「はい!」
勝手にやってろ…
「本当凄かったんだって!」
こいつが何に興奮しているかというと
俺が教室を出た後 オチのない漫才が続き 教室内では怖いお兄さん方の怒号がしばらく続いたみたいなのだが
一人の怖いお兄さんが
「ん?何飯なんか食ってんだ!」
その視線の先を見ると 椅子に座っておにぎりにかぶりつく龍也
「どけ!」
机をなぎ倒し 怖いお兄さんが龍也の元へ
「おら立て!」
おにぎりを払い 胸ぐらを掴んで立たせようとした時
ゴン!
龍也は立った瞬間 その怖いお兄さんに頭突きを一発
かなりな勢いだったらしく
「あ…ぁ…」
腰が砕けたように座り込んだみたいなのだ
「その後 先生達が来て 三年逃げて行ったけど…頭突き一発だよ 凄かったぁ…」
見たかった…
「でも大丈夫かなぁ…」
「何がだ?」
「だって 三年に頭突きだよ」
案の定
ガラガラ…
「あのぉ…」
おどおどしながら教室に入って来る真面目そうな一人の青年
まぁ 俺より年上だけど…
「龍也っての居る?」
「来た…さっきので呼び出しされたんだ…」
みんなの視線が龍也に集まる
「放課後…三年B組に来いって…言ったからね!僕 言ったからね!」
こいつの高校三年間がなんとなくわかったような…
「なぁ 行くと思う?」
「今日逃げても…明日また呼ばれると思うよ…」
龍也がいる前でコソコソと話している
「みんな好き勝手言ってるね」
「……」
確かに そうだが 何故三年の教室に呼ぶ?
やられたのが 頭にくるなら やられた本人が一人で来ればいいだけ
そして六時限目の終了を知らせるチャイムが鳴る
ガラッ!
教室から飛び出して行く龍也
何故か後を追う俺
「行くのか?」
「…どけ!」
その迫力に道を開けた…
龍也は何のためらいもなく三年の教室の方へ走って行く
ガラッ!バン!ガシャン!
龍也もかなり尿意を我慢していたみたいだ
さっきの怖いお兄さん方よりも…
ドアのガラスが割れるくらい…
「おぉ…びっくりしたぁ…」
自分達が昼にやった時も みんな驚いてたけどな
「俺呼んだの誰だ」
多分 怖いお兄さん達には聞こえてないと思う
隣に居た俺にも聞こえなかったから…
「ほら来た!じゃあ僕はこれで帰らせてもらうからね」
さっきの おどおどくん が
「失礼…」
鞄を抱えて 入り口に立ってた俺達の横を 手刀を切りすり抜けるように教室を出て行く
「なぁ どっちだ?二人来たけど…」
「左のだ」
俺?
「んじゃ おまえは帰れ!」
「だって…俺に用があるみたい」
「ふざけんな!龍也は俺だ!」
「ん?あっ ごめん右だ…」
「馬鹿じゃね…」
マズイ…つい癖が…
俺は 脳から伝達された事を即座に口にする特技というか… 考えるという事を省く癖が…
「あぁ!おまえら二人共入って閉めろ!」
俺も?薮蛇だ…
「おぅ!こいつは俺が面倒みてんだ 教室から出せ!」
「清ちゃんの舎弟か…んじゃいい おまえは出ろ」
「なんで?」
「清ちゃんの舎弟だからだ」
「俺 舎弟じゃないけど?」
「英!いいから出てろ」
「なんで?別に俺 清ちゃんに面倒みてもらわなくてもいいし」
「清ちゃん…なんなのこいつ…」
人を変わり者みたいに言ったな…
「しょうがない…英 黙ってろよ」
なんだ?清ちゃんがトップなのか?古い言い方をすれば番長?
「なんで俺を呼んだ」
また聞こえない…
一人で三年の教室に来る度胸と反比例してる声
「三年馬鹿にしてんのか?あぁ!」
怖いお兄さん方が龍也を取り囲む
龍也は 下を向かず 一人一人の顔を瞬きもせずに見ている
いじめっ子と言うのは こういう態度が気に入らないとみえる
「何見てんだ!」
呼び出しておいて…あまりにも理不尽な言い草
まぁ 下を向いてれば
「何シカトしてんだ!」
こんな事を言って 因縁をつけるんだろうけど
「なんで俺を呼んだんだ!」
今度は全員に聞こえたみたいだ
驚きのあまり 後ろに退がり机や椅子に倒れかかっている怖いお兄さんが数名
「な…なんでって おまえがこいつをこんなにしたからだろ!」
声だけにびっくりしたのを誤魔化すように再度怒鳴り声をあげる
馬鹿じゃねぇ?
「清ちゃん 帰っていいか?」
「だから出てろって言ったろ…いい帰れ」
「おぅ 帰るぞ」
俺は龍也に声をかけてドアを開けた
「こいつはダメだ!」
「なんで?」
「まだ落とし前つけてないだろうが!」
ここは学校だよな?任侠映画の観過ぎか?
「清ちゃん いいよな?」
「……」
「いいよな!ダメなら俺も…」
「もういい 二度と 先輩 に手出すな…」
「だってよ!ほら行くぞ 先輩方何か有ったら手は出さないけど こいつみたいに 頭 出すんで!よろしく」
「清ちゃんいいのか?このまま帰して」
安心しきった顔で何言ってんだ?
「ん?ダメなの?ダメなら居るけど その代わり…」
「いいから行け」
これが後に 俺の会社にはなくてはならない存在になる龍也との出会い