### 異世界転生
事件や事故で、あるいは病気や寿命で。
何が原因かは分からないけれど、君はいつか死ぬ。
後悔の念に溢れてか、幸福を噛みしめてか。
どんな最期かは分からないけれど、その時は必ず訪れる。
想像してほしいのはその後のことで、後と言っても君のいなくなった世界のことじゃなくて、それは君自身のことだ。
例えばの話。
死んだはずの君はどこかの不思議な空間で目を覚まして、そこで神様に出会うんだ。困惑する君に神様はこんなことを言う。
「君に特別な力を与えて、異世界に転生させてあげよう」
ここで言う異世界ってのは群雄割拠の戦国の世界でも、近未来的な電脳の世界でも、剣と魔法のファンタジーな世界でも、なんだっていい。君の好きな世界を選んでくれ。
その世界で君は、神様がくれた特別な力のお陰で不自由なく暮らせるとする。
さて質問だ。
そこが憧れの世界だったとして、君は転生したいと思うかい?
……え?
もちろんだろって?
おいおい本当に想像したかい?
真剣に妄想したかい?
君は『死』という経験を記憶したまま、まともに生きられると思うのかい?
世の中には知らない方がいいことが沢山あるけれど、その最たるものが『死』の感触だろうさ。
自分の命が有限であることを死ぬまで意識し続けるんだぜ? それでも呑気に異世界ライフを楽しめる人間がいるってんなら、そいつはきっと躊躇なく人を殺せるようなサイコ野郎だよ。そうは思わないかい?
……ええっ?
思わないのかい?
そうかそうか。
それなら君は、そういう人間なんだろうね。