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思い出ー春の終わりー

作者: 依

感じられたことをそのまま書いたような文章です。

起承転結のように、はっきりしたストーリーではありませんが、

よろしければ読んでみてください。

 卒業式ー


『じゃあね、またいつか。』


 涙を振り払って、私の6年間の友達が手を振りました。

 ーーーーーーーーーーーーー


 不意に柔らかな風が私の髪を揺らします。みると、満開だった桜も、ほとんどが地面で桜の絨毯をつくっていました。


 春の終わりを感じさせる蝉の声は、ほんの二週間ほど前から聞こえ始めたばかりです。


 中学生になって、何が変わったかと言えば、制服があること、友達と離れ離れになったこと、勉強する時間が増えたこと、くらいでしょうか。


 小学校の卒業式で、交換した沢山のメールアドレスや電話番号も、まだ一度も使っていません。


 あんなに仲の良かった友達も、このままなんとなく疎遠になりそうで、憂鬱に感じています。


 制服のスカートに舞い降りた桜の花びらを指でとって、息を吹きかけます。そうして飛んで行った花びらは、大して風に乗ることもなくアスファルトに降りて行きました。


 辛いことはないー。

 よく話に聞くように、私はクラスで浮いていたり、虐められているような事はないし、話についていけなかったり、成績が悪くて馬鹿にされるような事もありません。


 その代わり、特別仲の良い友達はいないし、成績も平均より少し高いくらいで、先生に褒められる事もなく。


 そんな普通の生活に、悪いとは思いません、でも、それでもたまに思い出してしまいます。


 給食の時間、小学校の時の方が美味しかったな、だったり、苦手な先生の授業の時間、小学校の先生の方が分かりやすかった、だとか。

 他にも、制服を汚してしまって急いで洗っていた時、小学校の時なら、 別の服だから関係なかったのに、とか、何か不満を感じると、事あるごとに考えてしまうのです。


 嫌いではないし、楽しい授業だってあるし、実際、充実した学校生活を送っているはずのですが、『中学校楽しい?』と聞かれると、『楽しい』と答えていいものか、戸惑います。


 部活を選ぶ時も、私は特に秀でた才能も、特に好む活動もないので、最後まで選べずに結局はどの部活にも入りませんでした。


 こんなものでしょうか。中学生初めのテストは目の前まで迫っています。


 通学路の長い桜並木で足を止めて考えていた自分を現在に引き戻し、ため息を吐きます。


 今は下校中なので時間を気にすることはありませんが、ずっと立ち止まっているのは不自然ですから。


 鞄を押さえる手に力を込めて、再び足を踏み出します。

 進んでいくほどに、春にぴったりな心地よい風が頬をかすめていきます。


 新たに爽やかな気持ちになれる温度は、もうすぐ終わります。


 鮮やかに散っていく桜の花びらのように、小学校生活だってあっという間に過ぎて行きました。


 きっと人生もあっという間です。

 いつかきっと、あの頃は楽しかったと、今日のことを笑える日だってくるでしょう。


 せめてその日を幸せに過ごせるように、今日もしっかり前を向いて歩きたいと、通り過ぎた桜の木たちを眺めながら思いました。


 ーーーーーーーーーーーーー

 私は仕事をしていた手を止めて、パソコンから窓の外に視線を移しました。


 すると隣から同僚の女性の声が聞こえます。

「もう桜が散っていますね。」


 二階の窓に寄り添うように、高く伸びた桜の枝には、もう桜の花はあまり見られません。

「そうですね、もう5月になりますから。」


 入社して2年目、良くも悪くもない手際で今日も経理の仕事を終えます。


 すっかり周りの環境も関わる人も変わって、昔のことを思い出す時間もないほどに忙しくなってきた頃です。


 今日も一人暮らしのマンションに帰宅し、お風呂に入り、帰り道に寄り道をして買ってきた小説を読み始めます。


 すると、すぐそばで充電をしていた携帯電話からメールの着信を知らせる音が聞こえました。


 メールの文面は懐かしい適当な文章で一言。

 "日曜にうちで小学校の同窓会メアド知ってる人につたえて"


 その子は小学校時代、私と特に仲が良かった女の子でした。


 私はこの時初めて、メールアドレスを変えなかったことと、卒業式間際に携帯電話を手に入れたその子と連絡先を交換していたことを嬉しく思いました。


 自分が、交換していた子にメールを転送すると、早い子はすぐに返信をくれます。どれも良い内容で。


 あの時交換した連絡先は、この日のためだと、なんだか本当にそう思えます。


 携帯電話から目を離すと、五月蝿い蝉の声が耳に入り込んできました。


 ああ、もうすぐ夏だな、と日が沈んでも大して気温が下がらない温度計を横目にそう思います。


 24歳、独身、春の終わりのことー


 窓の外では、7割ほどが葉に代わった桜の枝が南風に当てられて静かに揺れていました。

読んでいただき、ありがとうございます。


時間があれば他の季節でも同じように書いてみたいな、と思っています。

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