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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
番外編 (アフターストーリー/ほか)
83/85

本編未投稿11.5 「レンズの向こう側」

 それは、私達が「ネジ飛び姫」と出会って、一年目の夏休みの事・・・。

 この夏休みは、どうもネジ飛び姫と遭遇する機会が異常なほど高かったことを思い出します。

 後半は直接的にネジ飛び姫からの呼び出しが多かったのですが、それ以外でも、どうも担任の先生がらみでの呼び出しで顔を合わせる事も多いのでした。

 例えば、学校の引っ越しを手伝わされたりなどもありましたが、こんな事もありました。


 それは夏休みのある日の事。


 「あ、渡辺君!? ごめんね~。またちょっとお願い事があるのよ~。」


 「先生・・・・。もう肉体労働は絶対お断りですよ。」


 「大丈夫大丈夫! 今度はちょっと店番をして貰えれば良いだけだから! ご飯はご馳走するから! ね!」


 「なんだか、すげえ嫌な予感がするんですよ・・・。」


 「大丈夫よ、渡辺君一人じゃなくて、綺麗なお姉さんも一緒だから~。 二人でガンバってよ~!」


 「で、何時に集合すれば良いですか!?」



 結局、私は岡部先生の口車にまんまと乗せられ、待ち合わせ場所の学校へ向かうのでした。


 「何でまたお前がいる!?」


 「知らないわよ! 私も先生に呼ばれたんだから、文句があるなら先生に言いなさいよ。」



 どうにも納得がいかない私でしたが、もう来ちゃった手前、ここでゴネるのも大人げないので、仕方なく諦めるのでした。

 結局、そのまま先生に車で連れて行かれた場所は、とある公園のバザー会場でした。


 「それじゃ、お二人さん、今日は宜しくね~!」


 「あの・・・先生・・・、もしかして綺麗なお姉さんって・・・。」


 「そうよ、成海さんの事よ。」


 (・・・だっだましやがったな! このクソ教師!)


 「まあ、そう言う事だから、このエリアの店番宜しくね! また迎えに来るから!」


 一通りの説明を終えた後、そう爽やかに告げながら先生は私たちを残し、颯爽と車で走り去るのでした。


 「なんてこったい・・・。またやられた・・・。」


 「ふんっ! どうせまた、スケベな事考えて騙されたんでしょ。いい気味だわ。」


 (図星だけど、コイツのイヤミ満点にニヤけたツラで言われてると、物凄く腹立たしいのは何故だろう・・・・くそ。)


 それからしばらく、私達はバザーの売り子として従事するのですが・・・・


 「はい、いらっしゃい、いらっしゃい! 安いよ安いよ~!」


 「お前は八百屋か! だいたい、売れるのか!? こんなボロッちい骨董品。 このカメラなんて、そもそも写るのかよ?」


 「ふーん。 試しに買ってみようかな?」


 「やめとけやめとけ。 これなら使い捨てカメラのが、よっぽど良いぞ。」


 そんな感じで、全然商売にならない骨董屋の店番は、不毛な時間だけが過ぎ。結局、その日のバイト代は、ある意味売り上げに似合った昼の弁当と、帰りに奢って貰ったラーメンだけでした。


 「あれ!!!!! 俺のチャーシュー!!!!!」


 「いひひひ、ご馳走様~!」


 「おまえ!!! だったら最初からチャーシューメン頼みやがれ!!!!! 」


 そんな出来事だらけの夏休みでしたが・・・、また別のある日の事。

 その日、私達は例の如く、突然の思いつきの様に姫様の頭の中に沸き上がったイベントのため、早い時間から招集される事になります・・・。


 「へえ~・・・。 ここの自衛隊で、そんな祭りがあったなんて、今まで全然知らなかったな。」


 「俺も初めて知った。っていうか、毎回不思議なんだけど、お前、どっからこういう情報拾ってくるんだ?」


 「どっからって、あんた達、町内会の掲示板とか見ないの? 普通に書いてあるじゃないの。」


 「いや、見ないだろ、普通・・・。 中学生でそんなもん・・・。(近所のオバチャンか、お前は・・・。)」



 その日は、どうやら町内会の掲示板で情報を仕入れた姫様により、地域にある自衛隊が主催する「お祭り」を訪れる事になりました。


 「へえ~・・・。 自衛隊の祭りっていうから、どんなのか想像してたけど・・・、そのまんまなんだな。」


 「渡辺、藤本!すげえ! これ全部本物じゃねえか!? 機銃から戦車まで、何でも揃ってるぞ!!!」


 「ホントだ! これって○○式のやつだよな! 本物見んの初めてだよ!」


 (そういや・・・、エーちゃん達って、こういうの好きだったな・・・。)


 実はエーちゃんと藤本は、今で言う所の「ミリタリーオタク」でして、この二人は、意外とこういう部分で気が合うのでした。

 藤本はどちらかというと、新学期当初は男子に嫌われて孤立気味の所がありましたが、この「ネジ飛び組」に入る事で、その孤立感はだいぶん解消されていった様です。

 私も最初は気に入らない事も多かったのですが、なるほど、付き合ってみるとそれほど悪いやつじゃないのかもしれないと、この頃から、そんな風に思い始めていました。

 あるいは、洞察力の鋭い姫様は、そこまで見越して、彼を仲間に引き込んだ可能性も、今にして思えばあるのかもしれません。今にして思えば、人一倍、孤独が嫌いな彼女らしい優しさでした。


 「ねえねえ、あっちにお店が出てるよ! 行ってみない!?」


 「さすが鷲尾、目ざといな! 俺もどっちかっていうと、戦車よりも食い物の方が良いな。 エーちゃん達はどうする?」


 「俺も行く。自衛隊グッズが売ってるかもしれねえし!」


 (自衛隊グッズ・・・。 迷彩Tシャツとかか・・・。)



 そんな訳で、私達は露店エリアへ移動をします。


 「へえ~・・・。 自衛隊グッズって、結構いろいろ出てんだな。」


 そんな感想を持った私の目の前で、エーちゃんが「ああっ! 俺これ買う! これ欲しかったんだよ!!!」と興奮気味に手にしたものは・・・、「迷彩化粧セット」なるものでした・・・。

 つまり、よくコンバット映画なんかで見る、顔に迷彩色のメイクを施すためのアレです・・・。


 「お前・・・。 そんなもん買って、どこで使う気だ・・・。」


 「バッカ、お前! いつ何があるか分からねえだろうが! こういうものは準備しておいて損はねえんだよ!」


 「何かって何だよ・・・。 あれ、これなんだろう? サバイバル・キー? へ~、定規にナット回し、ドライバーにノコギリに栓抜き・・・、ヤスリまで一枚の鉄板てついたに納まってんのか。 なんかカッコイイな。 俺はこれを買おうっと。」


 実はこの時、ちょっとしたサバイバルブームがありまして、この「サバイバルキー」と呼ばれる便利なキーホルダーがブームになった事がありました。

 この時買ったサバイバルキーは結構重宝しまして、その後もずっと財布の中に携帯していたのですが、このだいぶん後に起こった「給料・ボーナス紛失事件」の際、財布もろとも紛失してしまい、帰ってくる事はありませんでした・・・。


 「渡辺もやっぱり男の子なんだね~。 そう言うのが好きなの?」


 「いや、男の子なんだねって・・・。 リョウコさん、あの結構傷付くんで、子供扱いは勘弁してください・・・。」


 「あっ、ごめんごめん。 そうだよね、渡辺も男の子だもんねー。うふふ。」


 (わざとか! いやいや、リョウコだから悪気は無いんだろうな・・・。 というか、俺って完全にリョウコの恋愛対象から外れてんだろうな・・・。 ちょっとショック・・・。)


 そんなやりとりもありながら、グルグルと回っていた私達は、ちょうど昼時という事もあり、僅かばかりの空腹感を覚え・・・。


 「そろそろ腹減ったな。なんか食うべ。」


 「そうだね。あたしもだいぶん減ってきた。」


 「鷲尾はカロリー消費多そうだもんなーゲブロっ!」


 「あっ、ごっめーん。 手が滑ってめり込んじゃったー。」


 「その耳元でささやくの止めて!(マジで痛てえ!このゴリ子め!)」


 「あはは、渡辺ったら失礼だよ? あれ?そう言えば、エリは?」


 「あれ、何か静かだと思ったら、いつの間にか居ねえな・・・。 食い物の話になると、真っ先に賛成すんのに。 金丸、見てねえか?」


 「ううん、分からない。でもあれ~? さっきまで一緒に居たのに・・・。」


 「どうせ成海の事だ、ほっといたら帰ってくんべ。」


 「まあ、そりゃそうだ。 アイツの事だ、適当に自由行動したら帰ってくんだろ、きっと。 大丈夫だよ、リョウコ。」


 「そうだね・・・。 ここは建物も無くて見通しも良いし。」


 (それにしても、団体行動が好きなわりに、真っ先に連携を乱すヤツだな。ホント訳分からん・・・。)


 そんな訳で、若干一名が行方不明となりましたが、私達は全員一致で、その時の屋台の中で一番美味そうな「焼そば」を食べる事にしました。

 この時、ちょっとした出来事があり、私は世の中の現実を、少しだけ知る事になります・・・。


 「はい、それじゃひとつ三百円ね!」


 「おお~っ、結構大盛りじゃねえか! 美味そうだな~!」


 「ホントだね~! あっちで座って食べようよ!」


 「あー、お前ら先行ってろよ。俺たちも買ったら行くから。 結構な量だから、多かったら残せよ、リョウコ。 俺が食ってやるから。 おじさん、ハイ三百円。」


 「あいよ~、毎度~。」


 「あはは、ありがとう。 すいません、私もひとつお願いします~。」


 「あいよ~。 あれ! お嬢ちゃん、凄い美人だね~! オジサン、美人には弱いんだよ~。 オマケして百五十円で良いよ!」


 (えっ!? はっ半額!?)


 「えっ!・・・。 でも、悪いですよ・・・。」


 「良いって良いって! 他の人には内緒だよ!」


 (オッサン! 充分聞こえてんぞ、このハゲエロオヤジ!)


 「あはは・・・。 ありがとうございます。 それじゃ・・・。」



 この時、私は初めて知るのでした・・・。

 世の中の人間は、けっして等しく平等などでは無いという事を・・・。


 (それにしても、気の毒なのは鷲尾と金丸・・・。 同じ女子なのに、この差はいったい!?)


 もっとも、この時の鷲尾は、まだ男か女か区別がつかないような風貌でしたし、金丸も所謂、普通の中学生にしか見えない訳で・・・。背も高く大人っぽい上に、容姿も大変な美人だったリョウコは、私達と一緒にいても、もしかしたら保護者に見えてもおかしくなかったのかもしれません。

 少なくても、この屋台のオヤジには、存分に「どストライク」だったのでしょう。


 (それにしても、いきなり半額って! 気持ちはわかるけどよ!)


 後日、リョウコにこの時の話と、リョウコが非常に大人っぽいという話をした事があるのですが、その時は・・・。


 「渡辺、それは女子に対して失礼!」


 と、何故かぴしゃりと怒られてしまうのでした・・・。


 (褒めたつもりなんだけど、なんで!? 言い方が悪かったのだろうか・・・。)

 



 さて、話は戻りまして・・・。


 「なんだか得しちゃったね~。あはは・・・。」


 「リョウコ、世の中ああいう変な虫が多いんだから、油断しちゃ駄目だぞ!」


 「ん? そうだね、気を付けるね。みんな、お待たせ~。」


 (サラッと流された!)


 「よし、それじゃ食おう食おう!」


 この時の焼そばは、あの変態オヤジが作った事を差し引いても大変美味い味でして、太めの麺が辛味の利いたソースに絡んで、ちょっと他の屋台では味わえないものでした。


 「なにこれ、すごい美味い!」


 「ホントに美味しいね!」


 本来なら、屋台のあちこちで色々なものを食べながら腹を満たすのが、縁日の王道ですが、この時は皆、この焼そば一杯で充分満足してしまい・・・。


 「これだけで充分腹いっぱいだな~。」


 「ホントだな・・・。 そんじゃ、もう一回りするか。」


 などと、次の行動を話合っていた時の事・・・。

 この頃になると、流石の私も、例の行方不明者の事が気に掛かり出します・・・。


 「それにしても、エリのやつ、全然帰ってこねえな・・・。」


 「ホントだね・・・。 まさか先に帰る事は無いと思うんだけど・・・。ちょっと心配だね・・・。」


 (さっきの焼そば屋のロリコンオヤジの例もあるしなあ。

 リョウコでそうなんだから、アイツだって間違いなく・・・。

 いやいやいや、あの性格だぞ。リョウコと一緒な訳あるかいな・・・。

 いや、待てよ・・・。

 そんなもの、見ただけじゃ全然分からねえよな・・・。

 そもそも、アイツは黙ってれば物凄い美人にしか見えない訳だし・・・。

 万が一、いきなり誘拐なんかされたら、全然中身なんか関係ねえよな・・・。

 ええっ!!! 誘拐!? まさかー!?

 なんか凄く不安になってきた・・・。

 いやまて、しかしアイツがアッサリ誘拐されるタマか!?

 いやいやいや、いくらアイツでも、大人数人にいきなり車に連れ込まれたら・・・。

 それは絶対不味いぞ! そんな事されてたまるか、コンチクショウ!)


 などと、私の頭の中は、考えれば考えるほど不安が湧き出し・・・、かといって、ここで姫様の事で取り乱したなんて事は、仲間には知られたくない訳ですから、私は不安な気持ちを押し殺しながらも平静を保ち・・・。


 「しっ仕方ねえな・・・。 とりあえず、案内所で迷子の呼び出しでも掛けて貰うか。」


 「そうだね、それが良い・・・あっ!」


 「どっどうした、リョウコ!?」


 突然、リョウコが珍しく大きな声を上げ、展示物を指さした事に驚いた私は、その先に映った光景を見て、更に驚く事になります・・・。


 「ん?・・・・・。ん~っ!!!! でぇっ!!! 何やってんだ!!! あいつは!!!」


 なんとそこには、一応「乗っても良いですよ~」的な「体験展示物」である戦車が鎮座していたのですが・・・。

 そこで見たのは、小さなお子様達を差し置いて陣取り、ちょっと前に流行った某セクシーアイドル真っ青のM字開脚で白いパンツを丸見えにしながら、その上に据えられていた機銃の、動かせないようにビニール紐でグルグルに巻かれた撃鉄を、これまたお子様達と一緒に満面の笑みで、無理矢理引こうとする姫様の姿でした。

 おまけに、それを目敏く見つけた隊員の皆様が駆け寄る姿が見えます・・・。


 (この、ドチクショーー!!!!)


 私は「体育祭でだって、こんなに必死に走らないぞ!」という勢いで戦車まで駆け寄り、この何を考えてるのか分からない姫様の首根っこをひっ捕まえて砲台から引きずり降ろすと、駆け寄ってきた隊員の皆様に必死にわびを入れ、仲間達の所まで、この厄介な「ネジ飛び姫」を引きずり戻って事なきを得るのでした・・・。


 「お前はアホか!!! お子様達にパンツを振りまきながら、何してくれてんだ!!!「快・感・♪」か!バカヤロウ!!!」


 「ムスッ・・・」


 そんな私の説教に、姫様はいつものように、口を尖らせてフテ腐れていました。どうも、コイツの辞書には「反省」という文字は存在しない様で・・・。


 さて、そんなやりとりもあり、若干居づらくなった私達は、この後の予定を話し合った訳ですが、その際、私は、ちょっとした「見てはいけないもの」に気がついてしまいます・・・。


 (あれ!・・・。 りょっリョウコの前歯に青のりが!!!

 どうしよう・・・、これは言うべきか・・・。

 いやいやいや、でも男の俺から言ったら、流石のリョウコも気にするだろうな・・・。

 エリも鷲尾も金丸も気がついてねえのか!?

 どっどうしよう・・・、こっそり女子に言って、指摘して貰うか・・・。)


 などと、今考えればどうでも良い事に、私はこの頃特有の複雑な恥ずかしさを抱えながら、頭をフル回転で最良の方法を弾き出そうとしていたのですが・・・。


 「あっれ~! リョウコ! 前歯に青のり付いてるわよ! 何よ~! 私が居ない間に何食べたの~!?」


 と、私の悩みなぞは姫様の開けっぴろげなツッコミで、アッサリと覆されるのでした・・・。


 (そっそうね・・・。 女の子同士だしね・・・。)


 そんな私の複雑な心境なぞ関係なしに・、「ふ~ん! 私も食べたい、その焼そば! 買ってくるから、待ってて!」と、かけ出す姫様を見た私は、どうしても、あの焼そば屋の変態オヤジの顔が浮かんでしまい・・・。


 「まっ待て、エリ! お前はここにいろ! またどうせ、一人でフラフラ迷子になって居なくなっちまうんだから! 俺が買ってきてやるから! お前はここ居ろ!」


 「なによ、気持ち悪いわね・・・。 別に焼そば買いに行くぐらい大丈夫よ。」


 「良いから! 俺が買ってきてやるから!」


 と、あまりのしつこさに、エリも渋々了承するのでした。きっと、周りも私の態度を、少々いぶかしく思ったかもしれません。

 もっとも、私がそうした本当の理由は・・・。


 (なんだか分からねえけど、絶対にアイツを焼そば屋のオヤジに見せない方がいい気がする! 絶対に半額・・・、いやいや、下手したら無料になるかもしれねえけど、とにかく何か見せたくねえ!)


 もしかしたら、これが私が初めて彼女に対して感じた、執着心と嫉妬心だったのかもしれません。


 そんな訳で、姫様の腹も満たされ、私達も先程のトラブルのお陰で、何となく居づらい雰囲気になっていましたので、そろそろ撤収しようかという話になり・・・。


 「これからどうする? いつもみたいにエリの家に行くか?」


 と、藤本辺りが言い出すと・・・。


 「今日は、お客が来てるから、うちは駄目。」


 と、珍しくエリから断りの返事が返ってきました。


 (へえ、珍しいな・・・。 というか、お前の家で、お前以外の人間を、俺は見た事が無いのだが・・・。)


 「ん~、それじゃどうする? これで解散するか?」


 「それなら、たまには私の家はどう?」


 「ええっ! リョウコの家!? そっそりゃ是非! エリんちの隣なのに、玄関しか入った事ねえし!」


 このリョウコの救いの言葉により、私達は全員一致で賛成をし、早速、リョウコの家に向かう事になりました。

 そして、事件はこの移動中に起こるのでした・・・。


 実は、この自衛隊の駐屯地は、私の自宅から大変近い所にありました。

 なので、私もこの辺りは小さな頃から頻繁に足を運んだ地区であり、隅々まで知り尽くしておりました。

 そして、この地区には一件、非常に特徴的なお屋敷があるのでした・・・。


 「あ、ほら、見てみろ、あそこ。」


 「何々? どの家?」


 「あそこの家・・・っていうか、屋敷があるだろ、凄い門構えの純和風的な。」


 「ホントだ、凄げえな! まさに屋敷じゃねえか。」


 「だろ? 多分あそこさ、これもんの人が住んでんじゃねえかって思うんだよな・・・。」


 そう言いながら、私達がその屋敷の門に差し掛かろうとした時、私は頬にスッと、指で筋を引きます・・・。


 「ええっ! ヤ〇ザ屋さんって事!?」


 「しーっ! リョウコ、声が大きいって! ほら見てみろよ、あちこちにマイク付の監視カメラなんかあるんだよ・・・。 どう見ても、堅気じゃねえだろ?」


 私がそう言った直後・・・、どうやらその監視カメラが大変ツボだったのか、一人の怖いもの知らずが、恐ろしい行動に出るのでした・・・。


 「わあっ!!! ホントだ!!! ほらほら渡辺!!! あそこにカメラあるよ!!! あっ!あっちも!!! 凄い!!! こっちにもあるよ!!! カメラだらけじゃん! あははは! おっかし~!!!!」


 と、ご丁寧に一台一台、カメラに向かって満面の笑みを向けながら、指を差しつつ大声で叫ぶのでした・・・。

 次の瞬間、私はこの怖いもの知らずの姫様の手を無理矢理とりながら、全力疾走したのは言うまでもありません・・・。もちろん、他の連中も必死にそれに追従する訳ですが・・・。


 「お前、ほんとアホな!!! おっかし~!!!のは、お前の方だからな、このスットコドッコイ!!! しかも、よりによって俺の名前をデカイ声で叫ぶな!!! 向こう側で見ている怖い人に、バッチリ覚えられちまうだろうが!!!!」



 結局、その日は、誰かさんのお陰で、記録を出せるぐらいに真剣に何度も走らされるハメになるのでした。

 もっとも、この直後、リョウコさんの素敵なお部屋にご招待された私達は、その気苦労も充分癒されて、お釣りが来たのですが・・・。


 そういえば、その時にこんなやり取りがありました。

 私達・・・というより、主に私が、初めて入ったリョウコの部屋に興味津々でキョロキョロしていると、「きゃっ!」という声が聞こえ、そちらを見てみると、なんと鷲尾がふざけてリョウコをベッドに押し倒し、時代劇のように「良いではないか~、良いではないか~」と、リョウコの体をまさぐ・・・くすぐり倒すのでした。


 「ちょっ、ちょっとタカちゃん、止めて! ひゃっひゃはははは!!!」


 と、今まで聞いた事のないようなリョウコの笑い声を聞きつつ、何となく淫靡なその姿に、思わず目が釘付けになっていると、それに気づいたのか、鷲尾がこちらを見て、まるで「羨ましいだろう?お前も加わりたいだろう!? んー!?」とでも言いたいような「へっ!」という腹立たしい薄ら笑いを浮かべ、私が心の中で「うーん!混ざりたい!」と念じていると、どうもリョウコも私がいやらしい目で凝視していることに気が付いたようで・・・。


 「タカちゃん! ホントに怒るよ!!!」


 と、珍しくリョウコがマジ切れして鷲尾を叱りとばすのでした。


 「ホント、すいません。 調子乗りました・・・。」


 素直に謝った鷲尾の頭を可愛らしく叩いた後、何故かリョウコは服装と髪を整えながら私をにらみ付け・・・、気まずくなった私は、誤魔化すように、どうでも良い疑問を投げかけるのでした。いや、ちょっと気になっていた事なのですが・・・。


 「そっそう言えばさ! 女同士でベッドで寝てても、全然気持ち悪くなくて、むしろ綺麗な感じまでするのに、なんで男同士だと気持ち悪くて汚ねえ感じするんだろうな! いや、鷲尾が女らしいかの疑問はあるんだけど! あっ、ちょっと鷲尾さん、その目覚まし時計はいろいろマズイから、一回下そうか。 うん、どうもありがとう。」


 私は、ベッドにあったリョウコの目覚まし時計をブン投げるモーションに入る鷲尾を慌ててなだめ、「チッ!」という舌打ちを聞かなかったことにして、隣に居た姫様が呆れるように口を開くのに注目しますと・・・。


 「何言ってんの、あんた・・・。 そんなの汚いものが何匹もくっ付いてたら、絵面が汚いの当り前じゃない・・・。っていうか、あんたのその考えのが気持ち悪いんだけど・・・。」


 「なっ! えっ、しかし、そういう事なの!? っていうか、お前の男の数え方おかしいよね!?」


 「それは、渡辺が男だからじゃない?」


 至極もっともな意見を言ったリョウコに、「じゃあ、女同士で一緒に寝るの、どう思う? 例えばリョウコとエリとか、一緒に寝るの、どうよ!?」と投げかけてみると。


 「そんなの、わりと良く一緒に寝てるわよ。私もこの部屋に泊まるし、リョウコも私の部屋に良く泊まりにくるもの。」


 と、思わぬ事実が飛び出すのでした。


 「えーなにそれ、もうギリギリアウトだろ。写真撮って良い?」


 「何言ってんの、あんた・・・。ホント気持ち悪いんだけど・・・。」


 「うぐっ!(マズイ、思わず心の本音が漏れちゃったぜ!) じゃっ、じゃあ俺とエーちゃんが一緒に寝てたら、リョウコはどうよ!?」


 「うぇっ・・・・。えっと、そっそれはどうなんだろうね・・・。あんまり見たくないかも・・・。」


 「なっ!そうだろ!」


 その言葉に「俺もやだよ!!!」と悲鳴に近い叫び声をあげるエーちゃんを無視していると、思わぬところから、思わぬ賛同の声が、まるで呟きのように漏れ響くのでした・・・。


 「良いんじゃないかな・・・、それ・・・。」


 「「「「・・・・。 えっ・・・・。」」」」


 みんなのドン引きした顔を見て、鷲尾が顔を真っ赤にして「ちっ、ちがうよ! そういう事じゃないよ! あっ、あたしが良いと思ってるとか、そういうんじゃないよ! ホント違うからね!」と、必死に言い訳する姿を見て・・・、私たちは、何となく知ってはいけない鷲尾の心の奥底を除いたような気持ちになり・・・、誰からともなく、その日はお開きになるのでした・・・。


 「心のレンズの向こう側は、覗いちゃダメだね・・・。絶対・・・。」

 


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